加えて2016年の夏には「映画作品」の発表。配信から劇場へ、このプロセスは驚きをもって迎えられた。
YouTube版が10代、20代に訴求したバトルものだとすると、映画版はファミリー及び全世代へ向けたジュブナイル作品。クリエイター陣も異なっている。
登場人物こそYouTube版から引き続いているものの、YouTube版では中学生の焔レンたちが、映画ではその過去・小学4年生時代のレンたちが描かれ、どちらから作品に入っても十分に楽しめる作りだ。
小学4年生の焔レンとその仲間たちが、未来からやってきた影月明と助け合いながら、共通の目的のために旅をし、モンストで戦う――。レンたちの感情が瑞々しく描き出されたジュブナイル作品だ。
本作の監督は江崎慎平。初監督作品『ガンスリンガーストラトス』を経て、本作では初めて劇場作品を手がける。脚本は『うさきドロップ』でデビューし、『僕だけがいない街』、『ハイキュー!!』など数々のヒット作のシリーズ構成・脚本を務める岸本卓だ。
この度、公開前のタイミングでおふたりに対談インタビューを敢行。どのような筋道を辿って物語が作り上げられたのかをざっくばらんに語っていただいた。
【取材・文/細川洋平】
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――YouTube版『モンストアニメ』とは全く違う座組みとなりますが、本作に関わることになった経緯をうかがえますか?
岸本卓(以下、岸本)
去年の11月頃、ウルトラスーパーピクチャーズの平澤(直)プロデューサーから電話をもらったんです、「映画の脚本をやらないか」って。映画はいつかやってみたいと思っていたので詳細も聞かずに二つ返事で引き受けました。タイトルを聞いたのはその後なんですよ。「『モンスト』っていうゲームの映画なんだけど」と(笑)。ぼくはスマホを持っていないし『モンスト』は知りませんでした。家に帰って奥さんのスマホでダウンロードしてもらってやったりして。ただ動機としては「映画」。それでぜひやりたいと思いました。
――タイトルというよりは、むしろ「映画」という部分に惹かれたと。
岸本
平澤くんの言い方がうまいんですよ。ぼくが『モンスト』を知らないのも、スマホを持っていないのも知っているうえで、まず「映画なんですけど」と来て、その後にタイトルを出す。「いいですいいです、知らなくても」と(笑)。
でも、ゲームやYouTube版など全部を統括しているプロジェクト構成のイシイジロウさんが書いたプロットを読んだら「子どもたちの冒険物語」だった。ずっとやりたかったジャンルだったのですごくうれしかったですね。
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――江崎監督はいかがだったのでしょうか。
江崎
ぼくは元々準備していた別の企画が滞っていたタイミングで、昨年末くらいに混ぜてもらいました。形としては途中参加ですね。ぼくも最初『モンスト』と聞いてどういう映画を作ればいいのかわからなかったんですけど、2回目くらいの脚本打ち合わせの時に、企画サイドから「YouTube版とはターゲットを分けて、全世代・ファミリーに向けた牧歌的な作品にして欲しい」というオーダーをもらったことで方向が見えてきました。打ち合わせでは『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』といった名前も出ていて、そういうジュブナイル作品をしかも映画で作れる機会はあまりないものですから「いい企画が来た! やばい!」と思って内心興奮していました(笑)。
――シナリオ制作はスムーズに進んだのでしょうか。中盤に出てくるロードムービー風のシーンでは岸本さんの実体験も盛り込こまれていたそうですが。
岸本
イシイさんからもらったプロットは大きく二つに別れていて、前半部分は研究所を舞台にして「なぜ『モンスト』というゲームがこの世に生まれたのか」という誕生秘話ががっつり書かれていました。YouTube版に対する答えというか、見てきた人にとっては満足度の高いものにしようという意気込みに溢れたものです。ここで壮大な物語が幕を開ける。
後半は主人公の焔レンたちが研究所を抜け出して、子どもたちだけでとある場所を目指して旅に出ます。前半に比べてこの部分は自由度が非常に高くて、プロットには舞台がどことも、日本だとも書いていなかった。ぼくはそこをどんどんふくらませて、ファンタジックな世界を旅するんじゃなくて、「電車に乗って、どこまで自分たちは行ける?」といった"子どもにとっては大冒険"みたいな、『スタンド・バイ・ミー』のようになればいいなと。その中に自分の自転車旅行の体験がそのまま使えそうだ、ということで盛り込んでいきました。
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――前半に散りばめられたYouTube版への応え方も見事な塩梅だなと思いました。見ていただくしかありませんが、大胆に描きすぎない分、YouTube版を知っている人にとっては、「あのはじまりはこんなものだったんだ」と思い知らされるというか。
岸本
レンと春馬への焦点の当て方はかなり考えたところです。そこは江崎さんが特に工夫された部分でした。何はともあれ、ゲームとしてのモンストや、YouTube版をまったく知らなくても楽しい映画になるように心がけました。