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高瀬司(Merca)のアニメ時評宣言 第9回 『マクロスΔ』とアイドルアニメとの三角関係

高瀬司の月一連載です。様々なアニメを取り上げて、バッサバッサ論評します。今回は『マクロスΔ』をはじめとした”アイドル”、それをモチーフにしたアニメについて取り上げています。

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しかし、本エッセイのテーマはAKBグループでも『ラブライブ!』でもない。
これらを参照項として考えたいのは、2016年4月より放映中の河森正治×サテライトが手がける『マクロスΔ』と、その今後の展開である。

いま「今後の展開」と書いたところで先に断っておきたいが、当然のことながら、フィクションに対する物語展開の予想とは(本質的には現実に対するそれについても同様だが)、その当否という審級において価値が判断されるものではない。だからわれわれは、自らの予想が当たった際には喜々としてその事実を喧伝しこそすれ、自分以外が予想行為という蛮行に興じることに対しては冷淡な態度を貫いてきた。

なのでこれからつづく文字群は、あくまでたちの悪い遊戯として眺めてもらいたいのだが、『マクロスΔ』へと連なる『マクロス』シリーズにおいては常に、歌≒アイドル(と可変戦闘機によるバトルと三角関係)が欠かせないモチーフとしてあった。先に挙げた『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイも(いまとなっては当たり前になり過ぎたことで逆にわかりづらい概念だが)バーチャルアイドルの起源の一つとされているし、『マクロスプラス』(1994年-1995年)におけるコンピュータ制御のバーチャロイド「シャロン・アップル」は、AIとされながらも実際は感情情報をプロデューサーがコントロールしていたという構造も相俟って、しばしばVOCALOID「初音ミク」の先駆としても言及されてきたアイドルキャラクターだ(加えて、本作において近未来のテクノロジーとしてSF的に描かれたAIやVRが一巡し、ともに2010年代中盤、ディープラーニングやVRゲームとしてより具体的なかたちで同時代的な注目を浴びている点は別途注目に値するだろう)。
こうしたフィルモグラフィを持つ河森が、「AKB」グループをモチーフとしたアイドルSFアニメ『AKB0048』シリーズ(2012年・2013年)を監督したのは文脈的に正統なことであったはずだが、それと同時に、AKBがファンのために戦うというこの作品設定からは、どうしてもある不穏さを感じ取ってしまう。

というのもここから真っ先に思い出されたのが、ほぼ同時期に公開されたAKB48のドキュメンタリー映画第2作『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』(2012年1月)であったからだ。このフィルムは「2011年」「3月11日 東日本大震災」というテロップから開始され、「3.11」に関するメンバーへのインタビュー映像および「誰かのために」プロジェクトという被災地を訪問するチャリティー企画と、AKB48の通常の(劇的な)活動を交互に描くという構成になっている。なかでも特筆すべきは、2011年7月に開催された「AKB48 よっしゃぁ~ いくぞぉ~!in 西武ドーム」の舞台裏だろう。大島優子が「戦争です、裏は」と、高橋みなみが「歯止めが効かなくなってる」と語るそこでは、AKBグループのメンバーが熱中症や過呼吸で次々と倒れていくという壮絶な光景を、制御不能なシステムの暴走の表象として、東京電力福島第一原子力発電所のメルトダウン/メルトスルーと重ね合わせるという読みを強烈に引き寄せる構造が示されていた。

『マクロスΔ』は、河森が総監督を務めた作品としては、『AKB0048』シリーズの次回作であり、その流れを踏まえたうえで3.11以後に企画が具体的に始動した初のアニメでもあるだろう。
そしてまた、本作をめぐってはもう一作、アイドルものの参照作品が思い浮かぶ。

それというのも、「GMT47」という「AKB48」を下敷きにしたアイドルグループ(や秋元康のパロディ)まで大々的に登場する、アイドルもののTVドラマ『あまちゃん』(2013年)である。『マクロスΔ』のヒロインであるフレイア・ヴィオンが方言キャラであるのは、『あまちゃん』の岩手弁ヒロインである天野アキを思わせるし、イントネーションが東北弁ではないとはいえ、出身地がりんごの産地というところからも(「赤ずきんちゃん」というキャラクターイメージとともに)青森=東北地方というつながりがかたちづくられている。
そしてもちろん、『あまちゃん』と言えば第133話において3.11が物語上の主要な事件として描かれていただろう。

これらの文脈を踏まえて観ると、『マクロスΔ』の第1クールEDとしてフレイヤが歌っていた楽曲「ルンがピカッと光ったら」が引っかりはしないだろうか。もちろんこれは、『マクロスF』(2008年)のヒロインであるランカ・リーの「キラッ☆」に連なるかわいらしさの表現であることは間違いないが、しかし(国際政治的な同期性を考慮するまでもなく)やはり、「覚悟するんよ!」というセリフにつづく「ピカッ」という言葉は、日本においてはあまりに強烈に響く。

AKB、3.11、マクロスが描く三角形。繰り返すがこれはもちろん遊戯であり、何らかのかたちで的中を見せたところで、筆者の先見性を擬装する材料くらいにしかならないものだ。しかし最後に、河森はすでに、環境問題を主題的に扱ったTVアニメ『地球少女アルジュナ』(2001年)という原作・監督作の第1話で原子力発電所の事故を描いていたという事実はつけ加えておきたい。
《高瀬司》
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