スタートから今年で27回目を迎えた東京国際映画祭、その主役のひとりとして映画監督にスポットがあてられた。庵野秀明氏である。今年の映画祭は世界でも人気として、日本アニメの海外発信も重要施策に掲げた。これをアピールすべ白羽の矢が立ったのが、エヴァンゲリオンシリーズの監督・総監督で知られた庵野秀明氏だった。期間中に「庵野秀明の世界」の特集上映が設け、16プログラムもが上映された。このうち5つでは庵野秀明氏自身が長時間にわたりトークするという中身の濃いものだ。日本アニメの発信というお題目ではあったが、実際の特集はアニメ監督の側面だけでなく庵野秀明氏の、実写映画や短編など幅広い活動を紹介すものになった。むしろアニメが他ジャンルと連続的につながっていることを示したかたちだ。また上映にあたっては、アマチュア時代の作品の掘り起しや再構成、さらにクレジットのなかった参画作品も網羅する。庵野秀明氏のこれまでの仕事のライブラリー化にも大きな役割を果たした。東京国際映画祭で庵野氏がまず姿を見せたのは、10月24日に東京・六本木ヒルズで開催されたオープニングセレモニーである。正装した庵野氏は夫人でマンガ家の安野モヨコ氏を伴いレッドカーペットを歩いた。有名監督して知られるだけにその注目度も際立っていた。映画祭の盛りあげにも一役買った。大きな関心を集めたのは、5日間のトークセッションだ。トークはそれぞれ「アマチュア・庵野秀明」、「アニメーター・庵野秀明」、「監督他・庵野秀明(短編)」、「監督・庵野秀明(長編実写映画)」、「監督・庵野秀明(シリーズ&長編アニメーション)」とタイトルされ、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏を聞き手にそれぞれ異なったアングルからトークを行った。いずれも1時間を超えるセッションで、これまで語られなかった秘話も飛び出した。かなり濃い内容に、来場した観客も大満足だったに違いない。一方で庵野氏は、注目度の高い「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」について言及することは意外に少なかった。エヴァの話をするとそちらばかりが話題になると話す場面もあり、今回はより幅広いものを見て欲しいとの気持ちがあったようだ。それでもトークのなかでは、「次は4年か5年かな、6年先でもいいかな」「エヴァばかりやっていると人間がだめになると」と冗談めいた言葉もあった。大作だけに、その作品の重さを自身も感じているようだ。しかし5日目には「改めて次が創れる気分になったのは本当に嬉しいです」と語り、今回の企画から庵野氏自身も大きなものを得た様子だ。かなりハードなスケジュールをこなした庵野氏だが、実はそのトークはまだ終わらない。映画祭会期中に「アンノ・ヒカワの、昭和TVマンガ主題歌史集」の開催が発表されている。こちらは映画祭トークの番外編といったかたちで11月8日に新宿バルト9で行われる。映画祭でもトークの相手を務めた氷川竜介氏と庵野秀明氏がふたりで選んだ1960年代から1980年代までのテレビアニメのオープニングを上映し、これと共にトークする。そして、さらに大きな新たな仕事も始まっている。10月26日の映画祭のトークの後に発表された「日本アニメ(ーター)見本市」である。日本のアニメとアニメーターの創造性と可能性を目指すとして、従来の枠にとらわれない短編アニメを次々に送り出すこの企画の立案、エグゼクティブプロデューサーを庵野氏が務めている。2012年からスタートし大きな話題となった大型企画展『特撮博物館』も、庵野秀明氏の発案によるものだった。それに続き「日本アニメ(ーター)見本市」でも、庵野氏は映像文化の活性化の担い手になる。アニメーター、演出、監督を超え、プロデューサーさらに映像文化の牽引者との役割がいまでは庵野秀明氏に期待されているようだ。
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