長編部門の受賞レースは、ディズニー・スタジオが制作した『アナと雪の女王』が最有力、『風立ちぬ』が対抗馬で2作品の争いと見られていた。結局、下馬評どおり、『アナと雪の女王』が栄冠に輝いた。 しかし、『風立ちぬ』の評価が決して低かったわけでない。とりわけ賞レースの序盤で好調だった。『風立ちぬ』は、第79回ニューヨーク映画批評家協会賞、第85回ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞のそれぞれ長編アニメーション部門を受賞している。また、第41回アニー賞でも宮崎駿氏が脚本賞している。映画の観客の評判も好調で、限定公開でスタートした米国ロードショーは、公開後上映館を大幅に拡大した。 ただし、『アナと雪の女王』が2013年11月27日に全米公開で大ヒット、その評価がうなぎ上りになるなかで勢いを奪われたかたちだ。世界興収1000億円突破、ディズニー・アニメーションの伝統を感じさせるプリンセスストーリー、豊かな音楽でより多くの注目を集めたかたちだ。『アナと雪の女王』は、主題歌賞でも大ヒットタイトル「Let It Go」で、ふたつめのオスカーを獲得している。
事前の予測がより難しかったのは、短編アニメーション賞である。有力候補としてディズニーの『Get a Horse!』を挙げる声もあった。ディズニーの人気キャラクターであるミッキーマウスを現在の技術で白黒アニメーションで再現、しかも声の出演としていまは亡きウォルト・ディズニーが登場する。 しかし、短編映画は、長編映画と違い、映画界のコンセンサンスな評価が形成されにくい。アニメーション業界の関係者が実際に観て、投票するためサプライズが起きやすい。そうした点で、今回唯一の2Dタッチの味わいも取り入れた『九十九』は個性が際立っておりチャンスありとみられていたが、実際のサプライズはフランスとルクセンブルクのCGアニメーション『Mr. Hublot』だった。Laurent WitzとAlexandre Espigaresが共同監督する傑作だ。 米国アカデミー賞が米国の賞である以上、ノミネート作品の多くは米国の作品になりがちだ。一方で、フランスは今回の受賞作『Mr. Hublot』のほか長編部門でも『アーネストとセレスティーヌ』をノミネートに送り出している。長編、短編双方にノミネートされたのは、米国以外では日本とフランスのみである。そうした意味では、両国はアニメーション大国といえるかもしれない。 [数土直志]