「アニメの作り手が使いやすいように改良し続けたい」-三起社(動画机) 数井浩子のアニメ社会科見学 第2回 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「アニメの作り手が使いやすいように改良し続けたい」-三起社(動画机) 数井浩子のアニメ社会科見学 第2回

数井浩子さんの連載「アニメ社会科見学」の第2回は、いよいよ三起社さんの動画机開発のノウハウに迫ります。アニメファン必見!

連載 数井浩子のアニメ社会科見学
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■ 「アニメの作り手が使いやすいように改良し続けたい」

たとえば、あるスタジオに搬入したときのこと。となりの机で棚に段ボールを継ぎ足して使っているアニメーターがいた。「実は、棚に動画用紙を入れると棚の手前が足りないんです」。たしかに、動画用紙のサイズと棚の奥行きが違った。

そこで、最新型の動画机では棚の渡し板に工夫をした。板の裏側の溝を増やした。今までのものに加えて、5cm前にずらせるようにもう一対、別の穴を増やしたのだ。

「こういうことは現場を見ないとわからない」

最新型の動画机を搬入したときには、特に気になって、あとからもう一度見に行った。最新型の動画机は、今までのものと違い、天板が製図用ドラフターのように傾けることができる。最大50度まで4パターンの傾斜がつけられる。

傾斜のきつい天板はいわゆるディズニー式の動画机といわれるが、目の高さで絵が描けるので、自然と背筋の伸びた姿勢が保てる。石井さんの自信作だ。

しかし、いままでの事務机タイプに慣れている若いアニメーターは果たして天板を立てて使ってくれるのだろうか、興味もないかもしれない、それが心配だった。

しかし心配は稀有だった。実際には、数人ではあったが二十代のアニメーターが天板を立てて使っていたのだった。むしろ、ディズニー式の動画机を知っているベテラン・スタッフのほうが、立てていなかった。「こういうことは、現場で実際に見なければわからない」。石井さんは常に観察をする人である。

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■ いつか「理想の机」をつくろうと思い続けてきた

テレビアニメ黎明期に、手探りでリミテッドアニメと格闘していた日本のアニメスタッフにとって、ディズニー・アニメは憧れだった。それは、道具も然りである。最初に三起社が動画机を作ったときにも、ディズニー式の動画机を参考にしたという。しかし、スペースや設計の都合で事務机に近い動画机を作ってきた。でも、と石井さんは言う。

「キャンバスに絵を描くようなあの姿勢は、アニメーターにとって一番にいいように思う」

カナダのアニメスタジオで働いていたときに、私もディズニー式の動画机を使っていたが、確かに、目の高さで絵を描くと、広い範囲で絵が見渡せるので、ゆがみなく絵が描ける。背骨を伸ばして描いていると、毎日15時間以上仕事をしていたが、確かに身体が楽だった。

三起社は制作用品メーカーとして、いつか「理想の机」をつくろうと思い続けてきた。そして、最近、LEDが手頃な値段で手に入るようになったこともあり、最も「理想の机」に近い最新式の机が完成した。

アニメの原点は、紙と鉛筆であるが、紙と鉛筆を使うのは「人間」だ。人間が鉛筆で絵を描くときに一番気持ちのいい机とはどんな机なのか。その問いを考え続けた三起社のひとつの答えが、天板を50度に傾斜できる最新型の動画机なのである。

動画机・三起社編 第3回へ続く

■ 数井浩子 (かずい・ひろこ)
アニメーター・演出。アニメ歴30年。短大時代から仕事を始め,『忍たま乱太郎』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ、200作品以上のアニメのデザイン・作画・演出・脚本に携わる。自らデザインしたアニメキャラは、“子どもにも大人にもウケる萌えキャラ”と評判になりラッピングバスとして渋谷や練馬を運行。また、長年アニメを現場で制作するかたわら、42歳から認知心理学を東大大学院にて研究しつつ、文化庁若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」においては評価・選定委員として現場の後進のために活動中。教育学修士。
《animeanime》
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