藤津亮太の恋するアニメ 第12回愛を伝える言葉(後編)『新世界より』作・藤津亮太Nが「そういえば、最近のアニメで、ちゃんと『好きでした』『愛を込めて』っていう言葉が出てくる手紙が登場してた気がする」と言い出した。しかし、急にそう言われても、ぱっと思いつけるわけではない。Nはちょっと考えて、いくつか手がかりを出してきた。「えーと、髪の長い華やかな女の子が手紙を書いたのよ。それを、黒っぽい髪の毛の真面目そうな女の子が読んでるの。……そう、あと超能力みたいなのが出てくるの。その女の子も、手紙の女の子も確か超能力持っていたんじゃないかなぁ」「ああ、それは『新世界より』だ。あったね~、真理亜からの手紙。感動的だった」『新世界より』は、貴志祐介による小説のアニメ化。人間が「呪力」と呼ばれる超能力を得た1000年後の世界を舞台に、複雑な歴史の結果生まれた特殊なルールで縛られた人間社会が描かれている。この作品の人間社会にはいくつものルールがあるが、17歳未満の子供には人権がなく、いくつかの条件を満たした時には社会を守るために“処分”される、というアイデアにはなかなかインパクトがあった。そして、自分が処分されると思った14歳の少年・守は村を脱走、それを追った恋人・真理亜とともに姿を消す。Nが思い出したのは、この真理亜が主人公・早季に送った、別れの手紙だ。ちなみに『新世界より』の世界では、人間は緊張を緩和するため同性異性をとわず性的コミュニケーションをとるよう遺伝子的に調整されており、早季と真理亜はお互いにとって最初の恋人だった。つまり真理亜の手紙は、友達というより、最初の恋人への手紙という色彩も濃いものだった。「そうそう、『新世界より』。あの手紙って、ものすごくラブレターって感じがしたんだよね。TVでそこだけチラッと見て、前後が気になったんで原作も買ったもの」Nが気になったという、真理亜の手紙はこんなふうに始まっている。 “あなたが、この手紙を読むころには、私と守はどこかずっと遠い場所にいるはずです。親友であり、恋人でもあったあなたに、こんな形で、別れの手紙を書かなければならないとは、思ってもみませんでした。本当に、本当に、ごめんなさい”僕は言った。「わかるけど、あれはむしろ遺言じゃないかなぁ。まさに後に残していく言葉なわけだし」「え、遺言がラブレターであっていけないわけじゃないでしょ?」Nはこともなげに言い放った。遺言でラブレター。ちょっとできすぎな気はするが、確かに真理亜の手紙はその趣があった。
庵野秀明監督はなぜ「シン・エヴァ」で“絵コンテ”をきらなかったのか?【藤津亮太のアニメの門V 第69回】 2021.4.2 Fri 18:15 アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第69回目は、庵…