藤津亮太の恋するアニメ 第11回 愛を伝える言葉(前編)『ほしのこえ』作・藤津亮太「ねえ、ラブレターって書いたことがある?」Nが突然、質問してきた。まあNの質問というのがたいがい突然で突飛なのだが。「……書いたことないなぁ。でも、なんでそんなことを聞くの? ラブレターでも書いたりするの?(笑)」「まさか!」Nは一笑に付した。「たまたまネットで、“3行ラブレター”っていうのまとめを読んだのよ。知ってる? 3行ラブレター?」 「知ってるよ。少し前に背任事件で世間を騒がせたとある公益法人が主催していた企画だよね」「……嫌な覚え方ね。で、その3行ラブレターを読んで、感動的ではあるんだけどさ、なんか違和感あるのよね。読んでいるうちになんだか『ラブレターってこんなんだっけ?』っていう気持になってくるの」「あれって、好きな異性だけじゃなくて、身の回りの親しい人にあてた手紙ものも“ラブレター”の範疇に入れているよね。そういうレギュレーションに関する違和感ではなくて?」「うん。そこは百歩譲ったとしても。ただ、じゃあ、自分がちゃんとしたラブレター知っているかというと……。よく考えるとラブレターなんて、、書いたことももらったこともないなぁと」「イマドキって――いつからイマドキかは難しけど――ラブレター書く人っているかねぇ。もはやラブレターなんてマンガやアニメの中にしか出てこないアイテムかもね。で、どこに違和感を感じているの?」「なんていうのかなぁ。わからないなりに考えて見ると……3行って短いじゃない。だから、どの作品も、ラブを伝えたいっていうより、“うまいこと”言ってやろうって感じのほうを強く感じるのよね……」「つまりtwitterっぽい、と」「ああ、そうね!」Nは、ポンと文字どおり膝を打った。Nがこんなに素直に納得するのは珍しい。「確かに3行ラブレターって、twitterでRTを稼ぐことを狙った、おもしろポストと似た匂いがするわね~」「こう、言葉を伝えたい相手に個人的に語りかけてるんじゃなくて、ギャラにリーに向けて“ドヤァ”って語っているってね」そこまで話して僕は、ずっと疑問に思っていたことがすっと氷解したような気持になった。「ああ、そうか!」そう口にすると、Nは、突然どうしたの? という顔をしている。「いや、twitterに似てるラブレターって自分で言ってみて、いろいろわかることがあったからさ」「何がわかったのよ」「『ほしのこえ』のモノローグ」尋ねてみるとNも『ほしのこえ』は見たことがあるという。「『ほしのこえ』って、宇宙に戦いにいったミカコと地球に残ったノボルが携帯メールでやりとりをするでしょう。あれって一種のラブレターに分類されると思うんだけれど、ずっと違和感があったんだよね」「何に違和感があったの?」「二人が、相手のことを全然尋ねないこと。あの二人って、ひたすら自分が寂しいという話をメールで送っているんだよね。『元気ですか』の気遣いも、『君にいてほしい』の本音の吐露もない」「……」
庵野秀明監督はなぜ「シン・エヴァ」で“絵コンテ”をきらなかったのか?【藤津亮太のアニメの門V 第69回】 2021.4.2 Fri 18:15 アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第69回目は、庵…