高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義 第16回人気タイトル『銀河英雄伝説』第7作目は人間の“業”、渦巻く陰謀、思惑、野望、愛が銀河を駆ける! [取材・構成: 高浩美] ■ 多士済々の『銀河英雄伝説』だから出来る、シリーズ化第7作目となる『銀河英雄伝説』、タイトルは「内乱」である。人間の歴史は「内乱」続きとも言える。わかりやすいところでは幕末、倒幕派と幕府側と日本が真っ二つに分かれて戦っていた。銀河、という壮大なステージで繰り広げられる紛争、規模は違うが本質的にはイデオロギーの対立である。それぞれがそれぞれの“正義”を“御旗”に戦うのである。倒幕派は坂本龍馬はじめ、西郷隆盛など、一方の幕府側も新選組や会津藩、15代将軍徳川慶喜等、大河ドラマではお馴染みである。また、シェイクスピアの戯曲でも有名な『リチャード3世』等も内乱、陰謀が渦巻く世界、まさに歴史は“内乱”の繰り返しとも言えるのではないだろうか。■ 帝国軍は同盟軍を“反乱軍”と呼ぶ、もともと“内乱”状態な物語今回のストーリーは帝国内の“内乱”と同盟軍の“内乱”が主軸ではあるが、そもそも、帝国から自由を求めて飛び出した人たちが自由惑星同盟を創立。つまり、自由惑星同盟そのものが帝国側から見たら“反逆者”であり、銀河、という枠でとらえると帝国軍VS同盟軍という構図そのものが“内乱”である。今回の物語はまさに“内乱入れ籠状態”、そこに人間の業の深さやどうすることも出来ない歴史の渦があり、その中で抗う人々の生き様が見る人の心を揺さぶる。物語は宇宙暦796年、帝国暦487年、難攻不落と言われたイゼルローン要塞を味方の血を一滴も流さずに奪いとることに成功した同盟軍の戦略家ヤン・ウェンリーは、以後、戦火が遠のくものと思っていた。しかし、政治家たちにより更なる帝国軍への遠征が決定し、ヤンは同盟軍で最年少の大将となり、イゼルローン要塞司令官となった。一方、銀河帝国では、皇帝フリードリヒ四世が後継者を定めぬまま崩御したことで、次期皇帝の座をめぐって混乱が広がっていた。ラインハルトは国務尚書(大臣)リヒテンラーデ候と組み、皇帝の孫、エルウィン・ヨーゼフを皇位に就けた。蚊帳の外に置かれた帝国最大の門閥貴族、ブラウンシュバイク公は、ラインハルトらに反感をもつ貴族たちを糾合し、「リプシュタット盟約」を結んだ。銀河帝国を二分する大規模な内乱が起こったのだ。ラインハルトは、自由惑星同盟軍が、銀河帝国の内乱状態に乗じて攻め込んでくることを危惧し、ひとつの布石を打つ。それは自由惑星同盟軍内部の不平分子を扇動し、政府に対しクーデターを起こさせるという大胆なものだった。ラインハルトの意図を察したヤンだったが、最前線にいる身としては対応も限られ、ついにクーデターが発生してしまう。■ 青山劇場のステージ機構を最大限に活用し、物語を“立体的”に厚みを持たせ、舞台ならではの表現で人間模様を見せる第7作目の『銀河英雄伝説』、スクリーンに映し出される宇宙は定番のオープニング。今回は青山劇場、ここの舞台機構は迫り(注)が特長。大迫りに24もの小迫りがあるので、立体的な演出が可能である。今回はこの迫りを上手く使い、物語を“立体的”に見せる。また、登場人物の位置関係や力関係を視覚的に表現していたのも印象的。物語がわからなくても、観ていれば『銀河英雄伝説』の世界が理解出来るように工夫されている。俳優陣、特に複数回、同じ役をやっている河村隆一や中川晃教、馬淵絵里可、白羽ゆり、貴水博之、岩永洋昭等は役がすっかり身についていた。とりわけ、河村隆一は昨年よりもさらにパワーアップ、アニメからヤンが出て来たかのようなハマリっぷりで、彼が“銀英ファン”というのも納得。振付も剛柔の使い分けが上手く出来ており、マイム的な動きなど舞台ならではの表現で物語の雰囲気を伝えていた。殺陣は毎回、迫力満点。何度か観ているリピーターには“お約束”のギャグもところどころに散りばめられていてちょっと笑える場面も。アニメファン納得の“萌え台詞”や“キメ台詞”はきっちり入っており、思わず頷いてしまう。ラスト近く、ラインハルトは「銀河をきっと手に入れる」とはっきりと宣言。一方のヤンは正反対のことをつぶやく。性格も思いも全く異なるふたりが発する言葉は真逆ではあるが、どこか共鳴しあう。決して会うことはないふたりの英雄が舞台上ですれ違うが、この“すれ違い”が今後の運命を暗示しているようで、余韻が残るエンディングが印象的。『銀河英雄伝説 第三章 内乱』3月31日~4月13日青山劇場/http://www.gineiden.jp/(注)迫り{セリ} 舞台の一部の床をくり抜き、そこに昇降装置を施した舞台機構。役者や大道具を奈落から舞台に押し上げたり、逆に奈落に引きずり下ろしたりすることによって迅速な舞台転換や意表をついた演出を可能にする。歌舞伎では宝暦3年(1753年)に大坂の狂言作者・並木正三の考案によって初めて舞台に取り付けられたと言われている。
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