アニメ・マンガ評論は生き延びることが出来るのか? 藤津亮太×エド・チャベス PART-1 前編 | アニメ!アニメ!

アニメ・マンガ評論は生き延びることが出来るのか? 藤津亮太×エド・チャベス PART-1 前編

インタビュー

 
  •  
(対談収録:2008年5月)

アニメ・マンガ評論は生き延びることが出来るのか?
日米評論家対談  藤津亮太×エド・チャベス
PART-1 「なぜ評論をするのか」 前編

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毎年数多くのアニメとマンガが新たに生まれている。そのなかには一般的にはあまり知られないまま埋もれていく作品も少なくない。そうした際に、作品を評価するアニメ・マンガ評論家の役割は大きいはずである。しかし、実際にはそうした評論活動は必ずしも活発ではない。
一方で、大量なアニメ・マンガ作品を受いれているアメリカでは、新たにアニメ・マンガの評論が生まれつつある。巨大な大衆文化に成長したアニメとマンガ。ふたつの異なる分野について、異なる国で執筆活動を行うアニメ評論家・藤津亮太氏とマンガ評論家のエド・チャベス氏に2回にわたり評論にまつわる現在の状況をお伺いした。
対談は執筆活動を始めたきっかけから、評論に対する社会からのニーズ、さらにそもそも「アニメ」や「マンガ」に評論は必要なのかまで至った。
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■藤津亮太 (ふじつ・りょうた) 
1968年生まれ。アニメ評論家。編集者などを経て、2000年よりフリーに。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)。編著に『ガンダムの現場から』(キネマ旬報社)など。アニメ雑誌「Newtype」でアニメ時評「アニメの門」を、WEBマガジン「トルネードベース」でエッセイ「Anime喜怒哀楽」を連載中。そのほか各種媒体で執筆中。
ブログ:藤津亮太の 「只今徐行運転中」 http://blog.livedoor.jp/personap21/

■Ed Chavez (エド・チャべズ) 
マンガライター、ジャーナリスト、編集者。2002年にアニメサイト「AnimeOnDVD」でマンガの記事を書いたのをきっかけに執筆活動を始める。「Publishers Weekly」のコミック部門寄稿や、雑誌「Otaku USA」でも記事を書く。編集者としては、DCコミックのマンガ部門CMX/Wildsなどで働く。2005年にはマンガの情報やレビュー等を取り上げるブログとポドキャスト「MangaCast.net (http://mangacast.net/)」を立ち上げている。

*お二人の肩書、プロフィールは、2008年5月時点のものです。
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■ 源流は’70年代末から’80年代はじめ 

アニメアニメ(以下AA)
まず、お二方が評論などの執筆活動を始めたきっかけからお話しください。

藤津亮太 (以下藤津)
僕がこういう仕事をやるようになったのは、1979年というアニメの傑作が揃った年があったからですね。その年は『機動戦士ガンダム』があって『銀河鉄道999』があって、さらにその前年の78年には『未来少年コナン』もあった。ちょうど僕が10歳の頃です。その前に『宇宙戦艦ヤマト』のブームに少し触れていたこともあって、’79年に積極的に「アニメって面白いなぁ」と思うようになったんです。

そのまま80年前後のアニメブームをどっぷり体験しました。その後、’90年代になるとちょっと離れてしまうんですが、大学を出て就職・転職をする中で、アニメの原稿を書きたいという気持ちが強くなって、フリーになりました。
だから僕の場合は、80年前後のアニメブームの波を受けてなければ原稿を書こうとは思わなかったですね。チャベスさんは何がきっかけですか?

エド・チャベス(以下エド)
私は70年代後半にアニメを観だして、さらにその2、3年後の80年代初頭に面白いマンガがたくさんあること気づいてこの世界に入ってきました。
80年代前半には日本に住んでいて、両親もマンガを読んでいました。両親は当時5、6歳の私に大人向けのマンガも読んで聞かせてくれました。全部は理解できなかったけれどとても面白かったですね。

その後、アメリカに戻ったのですが、アメリカにも輸入マンガがありました。色々なストーリーを読んでいくうちに、日本のマンガが自分に知的な刺激を与えることに気づきました。
日本のマンガには子供向けで、ちょっと読んでは捨ててしまったり、読む時期がすぐに移って行ってしまうものも多いんですが、80年代にアメリカに入ってきたマンガには大人向けのものも多かったんです。当時のビズ(*1)が出していた池上遼一さんの『クライングフリーマン』や『舞』とか、士郎正宗さんの初期作品とかすごく知的に刺激する。
どうしてこういうものが生まれたんだろう?そして、こういう作品が生まれるにはすごく長い歴史や社会的な文脈がいっぱいあり、それがこれらを生んだんだと考えました。それを知りたいと思いました。

藤津
ネットで拝見したエドさんの原稿で、「日本のマンガでお酒がどのように扱われているか」(*2)なんかは、その辺をとても気にして書かれている感じがしました。今のお話を聞いて関心が作品単体ではなく、コンテクストにあるんだなとよく分かりました。

でも、原稿はどうして書こうと思ったのですか?一読者として楽しむ方法もあったし、その方が幸せだったかもしれないですけど(笑)

エド
普通の人とはだいぶ違うかもしれないですね。私は6年前に、アニメ情報サイトの「Anime on DVD」(*3)で最初に記事を書き始めました。その後に、雑誌の「OTAKU USA」(*4)でも書くようになりました。

マンガについて書き始めた理由は、私がマンガに興味を持ち始めた当時は、みんなアニメばかりに興味があって、マンガに興味がなかったからです。

「Anime on DVD」にはマンガのセクションはなかったし、マンガを読んでいる人も少なかった。「Anime News Network」(*5)にもマンガのセクションはなかったしね。
その頃、アニメを大好きな人たちの間で、ネットの掲示板などにいろいろ書いて感情を共有したいという盛り上がりがあったのですが、マンガには全然なくて。マンガに対する気持ちを誰かと共有したい、じゃあ自分がやろうと思いました。


■ 文章表現 4つの階層

藤津
「気持ちを共有したい」という動機はよくわかります。
日本では、漫画と比べても、アニメ関係の出版の中には、あまり評論的な文章のニーズはないんですね。どちらかというと宣伝――あるいは紹介といったほうがいいかな――ばかりで。僕は、アニメや漫画に関する原稿ってだいたい4階層にわけられると思っているんです。紹介、レビュー、解説、評論あるいは批評の4つですね。そして後ろにいくにつれて、ニーズは減っていく(笑)。
僕の場合は、媒体とか編集者のニーズに合わせてそれぞれを使い分けつつ、できるだけ解説や評論を書こうと試みています。エドさんの場合はどの辺を軸にして文章を書かれるんですか?わりと解説が多いのかなと思ったのですが。

エド
やっぱりレビューが多いですね。でも、それをやっていてすごく楽しいというわけではないんです(笑)。
アメリカみたいな消費社会には、レビューに対する需要がすごくあって、何が良いか、何が悪いかをすぐに知りたがる。それで、作品を買うか買わないかを決める。それだけだと、私にはすごくストレスになるんですが、やっぱりレビューの需要があるのでしょうがない。

でも「OTAKU USA」という雑誌では解説が多くて、レビューより詳しく、アメリカ人が理解できない日本の文化とかを説明しているんです。これはまぁまぁ、レビューより楽しい。

もう一つ「Publisher Weekly」(*6)という業界向け雑誌にも書いているんですが、それは全然違って、業界向けなので、もっと堅いものが求められています。そこでは評論に近いものをやっていて私にとっては、一番楽しいのは評論です。

藤津
ネットに掲載されていたやおいマンガに関する産業論(*7)がそれですね。

エド
それは去年の記事ですね。アメリカでは、やおいにはすごく熱狂的なファンがいるんです。一昨年ビブロスが倒産したじゃないですか。(*8)あれについてネットに書いたことがあって、それがずっとアクセス数の一番高い記事でした。

いろいろな種類の仕事があるとおっしゃいましたが、藤津さんの中ではそれぞれの仕事はどのくらいの割合なのですか?

藤津
仕事の大きな柱としてはDVDのブックレットなどの編集・ライターの仕事があります。それとは別に連載などで解説や評論を書いていますが、収入の比率としては決して多くはありません。今年は仕事にも変動があってかなり生活が苦しくなりそうです(笑)。

マンガと比べるとおもしろいんですが、マンガ評は一般週刊誌などにもコーナーが設けられていることが多いんですが、アニメのレビューが設けられている媒体はほぼ存在しません。
それには理由がいろいろあるんですが、一つはアニメが基本的に「好きな人しかみないマニアックなジャンル」と思われていることはあります。そこに加えて、そういうファンはことさらレビューを参照する必要がないという理由もあります。自分で作品を選べてしまうから。感想はブログにいっぱい書かれているし。
しかも今は、放送本数が過去最大という爛熟期で、「おもしろいものを探す」よりも「数ある作品から見ない作品を決める」ほうがファンの行動で重要になっていたりする。
そういう状況が重なってアニメのレビューには商業的なニーズがないんですね。

エド
それはアメリカも状況は似ているかもしれないですね。アニメレビューはやっぱり個人がインターネットで書いているものが人気なんです。実際に商業メディアに載ったもの、出版されたものはそんなに多くありません。
ところがマンガは異なっていて、新聞とか業界誌のパブリッシャーズウィークリーはマンガをかなり頻繁に取り上げます。Time誌とか、ニューヨークタイムズは、マンガのコーナーを設けています。
たぶんマンガはそれ自体が印刷されたメディアであるせいか、出版メディアと相性がいい。レビューの数は少ないくせに商業媒体に出ているものが多い。私はそういうところに書いています。


*1 アメリカにあるマンガ出版社。1986年に小学館の出資により設立したビズ・コミュニケーションズのこと。後に集英社や小学館プロダクションの出資を受けたビズメディアに発展し、米国最大のマンガ出版社となる。80年代はマニア向けの作品を発売していた。
*2 OTAKU USA 2007年10月号 http://www.otakuusamagazine.com/Content/Mangaholics.php
*3 英語圏を代表するアニメ情報サイトのひとつ。膨大なアニメDVDの発売情報とレビューに定評がある。
*4 2007年6月に創刊したアメリカの雑誌。アニメ・マンガを中心に日本のサブカルチャーを取り上げる。
*5 1998年にスタートした英語圏最大のアニメ情報サイト。
*6 米国の出版ビジネスの業界誌。ベストセラーのリストや産業界の分析、ブックレビューを紹介している。
*7 Publisher Weekly 2007年10月 http://www.publishersweekly.com/article/CA6495479.html
*8 ビブロスはBL、やおいを得意とした出版社だが2006年3月に自己破産した。
《animeanime》
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