「テレビアニメ 夜明け前」 歴史の空白を埋める関西アニメーションにフォーカス
5月に津堅信之の「テレビアニメ夜明け前 知られざる関西圏アニメーション興亡史」(ナカニシヤ出版)が上梓された。専門を日本アニメーション史とする著者の研究成果が存分に発揮された著作だ。
コラム・レビュー
-
高橋李依さんお誕生日記念! 一番好きなキャラは? 3位「リゼロ」エミリア、2位「からかい上手の高木さん」高木さん、1位は…<25年版>
-
手塚アニメを再考する『アニメ作家としての手塚治虫』
-
日岡なつみ、倉持若菜ら声優とプロデューサーが研修生の疑問に一問一答! 声優に求められる能力とは?座談会インタビュー【PR】
毎回、津堅信之の著書には、驚かされ、学ばされることが多いが、今回はそのタイトルから驚かされた。テーマは関西圏アニメーション史である。関西には京都アニメーションやアニメアールといったアニメスタジオはあるし、関西出身の演出、アニメーター、経営者は数多い。
しかし、それを関西という地域に結びつけて考えたことがあるだろうか?そうしたテーマを見せられて、関西のアニメーションをほとんど何も知らない自分に驚かされ、同時そこに重要性を見出した津堅の着眼点にも驚かされるのだ。
「テレビアニメ 夜明け前」では、これまであまり存在が知られなかった関西圏アニメーションの歴史を解き明かす。様々な資料やインタビュー調査から事実を積み上げていく。そこにいままで気づかなかった様々な事実が明らかになる。
例えば、戦前から60年代までの関西のアニメーション産業は東京圏に引けを取らなかったこと、アニメーションによるコマーシャル制作で果たした関西の役割の大きさ、60年代のテレビアニメの急成長とそれによって生まれた分担制作に関西勢がついていけなったことなどだ。その過程で登場する数多くの人名やプロダクション名は、今後のさらなる調査の貴重な資料になるに違いない。
著者・津堅信之の研究者の持ち味は、芸術性の高い作品から商業テレビアニメまでを広くカバーし、そして文化から産業まで幅広い視点を持つことだ。そうした特徴が、本書をより価値のあるものにしている。
領域を超えることで、ばらばらの断片にしか見えない事実に、確かな流れを見出す。資料をまとめるだけでなく、そこに関西圏アニメーションの独自の展開が映し出されるのが本書の最大の読みどころだ。
国内のアニメーション研究には空白が多い。アニメーションに対する一般的な関心に偏りがあるためだ。作品でいえばテレビアニメやエンタテイメントの劇場映画が中心で、学問研究では映像芸術としての側面に興味は向いがちだ。「テレビアニメ 夜明け前」は、こうした大きな欠落のひとつを埋める研究の成果となっている。
「テレビアニメ夜明け前 知られざる関西圏アニメーション興亡史」
(ナカニシヤ出版)
http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=855
著者: 津堅信之
四六判・204ページ
税込定価: 2100円