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10月20日に六本木の東京ミッドタウン 21_21 DESIGN SIGHTにて開催されたトークイベント「佐藤雅彦×ユーフラテスによる新しい映像制作のつくり方のつくり方 ロトスコープの再発見」は、そうした彼らのこれまでの探求とその再発見の方法を紹介するものだった。
佐藤雅彦さんは電通のクリエイティブセクションで、湖池屋「ポリンキー」や、NEC「バザールでござーる」などのヒットコマーシャルを生み出した。電通を離れたあとは「だんご3兄弟」のプロデュース、NHKテレビ番組「ピタゴラスイッチ」の監修などに携わる。
また、慶應義塾大学環境情報学部教授を経て、現在は東京芸術大学大学院映像研究科メディア映像専攻の教授も務める。軸とする場所を変えつつも、長年映像表現の在り方に関わってきた。そして、ユーフラテスは、慶應義塾大学の佐藤雅彦研究室出身者により生まれたクリエイティブ集団である。
今回のトークは、佐藤雅彦さんとユーフラテスが過去数年間取り組んできたロトスコープを使った新しい表現方法を語るものだ。しかし、このトークは単純な作品、技術紹介で終わらない。タイトルに加えられた「新しい映像制作のつくり方のつくり方」が示すように佐藤雅彦流のひねりが加えられる。
ここで披露されたのはロトスコープという古い技術に新しい視点を加えることで生まれた新しい映像である。そして、さらにどうしたらそうした映像を生み出す発想が生まれるのか、映像を生み出す方法論、つまり「新しい映像制作のつくり方のつくり方」であった。むしろ、作品自体は副次的なもので、作品制作に至る思考方法こそがトークの主題だ。
佐藤雅彦さん新しい映像は表現から考えるのでなく、まず表現手法を考える、その表現手法使って表現することで可能になるとする。目的でなく手段、手段が明らかになれば目的も明らかになる、斬新な発想だ。
今回のロトスコープ再発見も、最初からそうしたロトスコープの映像の応用を意図したわけでない。当初は研究生の持ち込んだ映像が、単純に気になったのがきっかけだ。その映像をもとに佐藤雅彦さんが研究生に課題を出し、その回答からさらに広い視覚情報を抽出、それを言語化する中で次第にかたちとなっていった。そして、最終的にはそれがまとまった映像作品に発展した。
これまでたびたび世の中で話題になった佐藤雅彦さんの作品の多くは、心を和ませるものが多かったように思う。その裏に緻密な計算があるとなかなか想像し難い。しかし、今回語られた映像制作のつくり方(とその作り方)を聞くと、その表現は実際にはかなり厳密な方法論があることが理解できる。クリエイターのクリエイティブの方法論に触れる貴重な機会であった。
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佐藤雅彦さんはその一人目で、今後12月7日にはファッションデザイナーの三宅一生さん、さらにゲームプロデューサー宮本茂さん、VR研究家谷川智洋さんら合計10人が順次登場する。詳細はコ・フェスタPAOの公式サイトで確認出来る。
コ・フェスタPAO /http://www.cofestapao.jp/