映画評 劇場版『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』 | アニメ!アニメ!

映画評 劇場版『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』

劇場版機動戦士ガンダム00. 映画評:藤津亮太(アニメ評論家)ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』はまっすぐな映画だ。幕が上がると、この映画自身が語らんとするラストまで一直線に進んでいく。そのストレートな語り口

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文; 藤津亮太(アニメ評論家)

 劇場版『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』はまっすぐな映画だ。幕が上がると、この映画自身が語らんとするラストまで一直線に進んでいく。そのストレートな語り口は、全50話からなるTVシリーズとずいぶん対照的だ。
 TVシリーズの『ガンダム00』は、どこか視聴者を宙づりにするような側面があった。 『00』は「人と人はわかりあえる可能性がある、という希望を新人類(イノベイター)への革新というSFの枠組みで語る」という、アーサー・C・クラークの小説に通じるようなたくらみを持った作品だ。だが、そのたくらみはなかなか明らかにならない。現実の写し絵のような政治・軍事の情勢に目配せしたかと思えば、エキセントリックな悪役の活躍を描き、サブキャラクターのメロドラマで物語を牽引する。物語のラストも、「人と人は分かり合える」可能性は示しつつも、軸足はイノベイターが切り開く未来像にはなく、戦乱の時期を経た人類はどのような未来を作っていくのか考え続けなくてはならない、という方向でまとめられていた。視聴者はここで意図的に理想と現実の間に宙づりにされている。むしろこの宙づり感覚こそTVの『00』らしさであり、作品が目指した“リアル”であったと思う。

 劇場版は『00』が孕んでいたSF的なコンセプトを全面展開、非人間型宇宙生命とのファーストコンタクトを題材とした。『00』の骨格が前面に出た結果、TVシリーズで骨格の上に盛りつけられていた「戦争/平和」「憎しみの連鎖」などの宙づりでなくては描き出せない要素は後ろへ下がり、イノベイターがどのような未来を切り開くかが具体的に、ストレートに描き出されることとなった。
 物語の発端は、木星から謎の宇宙生命体ELSが現れたこと。先に地上に落下したELSによって世界各地で異変が起こり、危機を感じた地球連邦は接近するELSの大群に対し、宇宙艦隊による総力戦を企てる。TVラストで人類に対する“外部”として存在する決意を固めたソレスタルビーイングも地球連邦軍の戦いに協力する。そうした状況を経て、刹那は新型ダブルオークアンタを操ってELSとのコミュニケーションを試みる。
 登場するキャラクターの数は多いが、本作は徹頭徹尾、刹那の物語だ。洗脳された少年兵、戦うことでしか平和を求められないガンダムマイスター。いずれにせよTVでは名を問われることのない兵士だった刹那が、イノベイターとして宇宙に奇跡を咲かせる。劇中で、自分が生きている意味があったとつぶやく刹那という青年の、人生の結論がそこで示される。それは『00』の物語を締めくくるのに非常にふさわしいビジュアルであった。
 また特に印象深いのはエンドクレジット後に語られるエピソードだ。そこでは「すべての原点となった過去の風景」「刹那の示した未来を生きる人類の姿」「刹那のドラマの終着点」が描かれる。
 「すべての原点となった過去の風景」と「刹那の示した未来を生きる人類の姿」は、『00』という物語における「問い」と「答え」だ。この「問い」から「答え」に行くまでの200年を超える試行錯誤こそ『00』という物語の本質であった。その長い時を一瞬で跳躍するシーンとシーンの間に、刹那を始めシリーズに登場したさまざまなキャラクターの生が凝縮されていることを思う時、ある種の感慨が生まれる。
 また「刹那のドラマの終着点」に登場するのは、社会的な立場もなにもかもが消え去った一組の男女。キャラクター固有のドラマの締めくくりとしても十分ロマンチックだが、当欄は、200年超の歴史の中に消えていった人々の中にもこのような忘れがたいドラマがあり、その象徴としてただの男女でしかなくなった2人の姿が描かれたと捉えた。

 以上、主にドラマ面から劇場版『00』の特徴を探った。もちろんキャラクターの繊細な表情、膨大な物量と激しいアクションで見せるELSとモビルスーツの戦いなど、劇場版らしい密度の高いビジュアルがこうしたドラマを支えているのはいうまでもない。
 ちなみに「ファーストコンタクト」「人類側の戦争を含めた複雑な事情」「根底に流れる男女の情愛」と本作を構成する要素を取り上げてみると、ジェームズ・キャメロン監督の『アビス』('89)と非常に近い種類の映画であることがわかる。この部分さえわかれば、TVシリーズに依るデティールがわからなくても興味深く見られる映画であると思う。

劇場版『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』
/http://www.gundam00.net/
《animeanime》
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