躍進する北欧アニメーション デンマーク・アニメーションの力(2) | アニメ!アニメ!

躍進する北欧アニメーション デンマーク・アニメーションの力(2)

躍進する北欧アニメーション デンマーク・アニメーションの力(2)
世界で注目されるデンマーク 

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躍進する北欧アニメーション デンマーク・アニメーションの力(2)
世界で注目されるデンマーク 

オフィスH 伊藤裕美

■アニメーション・ワークショップ(TAW)

 毎年6月に開催される、世界最大規模のアニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション・フェスティバル(/http://www.annecy.org/)の学生部門コンペティションで、数年前から気になる存在があった。それが、The Animation Workshop(アニメーション・ワークショップ、以下TAW、/http://www.animwork.dk/)だ。ヨーロッパの知人たちに尋ねると、「TAWは、ユニークな所」だと言う。「でも、単なる学校ではない」とも。ますます気になり、今年6月に訪問した。
 TAWは、コペンハーゲンから飛行機で45分ほど、ユトランド半島中部にあるヴィボールにある。20年前、モルテン・トルニング校長らが、ヴィボールにアニメーションのワークショップと指導者向けコースを始めたのが起源だ。

 コペンハーゲンにあるデンマーク国立映画学校は作家・監督養成をおこない、TAWは伝統的なドローイングアニメーターと3DCGアニメーターを養成する。TAWに、常勤専属の教授や講師はおらず、外部から招く。3年半のバチェラーコース(学部レベル)のうち前半2年間をいくつかのモジュールに分け、トレーニング内容にふさわしい講師を招く。残りの期間は卒業制作に充てられ、最終盤に数ヶ月間のインターン研修がある。
 インターン生の受け入れ先は150以上になる。デンマーク国内はもとよりヨーロッパの企業と広く関係を持つ。インターン助成はデンマーク国内そしてEUに制度がある。バチェラーコースを統括するミチェル・ナーダン氏によると、世界中に250名ほどの実務者や専門家とコンタクトを持ち、客員教授や非常勤講師として招く。
 TAWの運営を支えるのは、優秀な教務スタッフだ。しかも外国人が多い。ナーダン氏はアメリカ出身、コーディネーターのアーニャ・パール氏はドイツ出身、ヨアキム・ペデルセン氏はノルウェー出身という具合だ。学内では自然と英語が飛び交う。学内の雰囲気に、フランス人らがユニークな機関と言う理由の一端が分かった。

■明確なマネージメントヴィジョンと民間活力をバックアップする公的支援

 1989年に設立されたTAWは、実務者の再トレーニングや独立系作家の支援を担い、92年には、地元ヴィボール市の協力を得て、TVアニメの制作をはじめた。若者に人気のアニメを失業対策に活用したいという自治体の期待と合致したもので、産業振興に適う学校運営という、トルニング校長らのヴィジョンの下での拡張だった。
 93年頃からEUとのパイプが強まり、実務者向けのキャラクターアニメーションのトレーニングコースを立ち上げた。またオランダやポーランドの教育機関との共同プロジェクトに参加するようになる。96年には、アメリカからリチャード・ウィリアムス氏を客員教授として招き、短期のマスタークラスをおこなう。ウィリアムス氏は98年、2001年そして02年にもマスタークラスで指導し、ヨーロッパ各国から460名もがそのコースに参加した。この間に、TAWはマスターレベルのトレーニング方法の基礎を固めた。
 そして、ウィリアムス氏の名著「The Animator's Survival Kit (Applied Arts)」が、このマスタークラスから誕生した。トルニング校長は「ディズニーとは違うアニメーションスタイルを、ウィリアムスに求めた」と言う。

 03年に、民間組織から教育省のCVU Midt-Vest(デンマーク中西部の統合大学)傘下の国立機関となり、バチェラーコース(学部レベル)を開設した。
 一方、The Travelling WorkshopやKids in Motionといった、子ども向けのアニメーション指導にも手を広げ、実務者向けの短期訓練コースも併行しておこなっている。このような国内向けコースの拡大は、ヴィボール市や中央政府・文化省の理解と助成を受けておこなわれてきた。

■TAWの原動力は、国際的なネットワーク

 TAWが創立時から続け、TAWを特徴づけるのが“オープンワークショップ”、いわゆるアーティストインレジデンスだ。中央政府からの予算で、独立系作家に創作環境を提供する。撮影からTAWでおこなう作家もいれば、ポストプロダクションの過程だけTAWでおこなうこともできる。作家・監督の参加の仕方はフレキシブルだ。責任者のティム・ルボーニュ氏によると、対象者の国籍を問わず、半数は外国人だ。
 また、EU内の大学や専門校との交流が活発だ。昨年、EUの支援で実施された「Animation Sans Frontiere(アニメーション・サンフロンティエール)」は、TAW、フランスのゴブラン校、ドイツのバーデンバーデンヴュルテンベルク州立フィルムアカデミー、ハンガリーのMOME校が持ち回りで、学生を移動させながらおこなうプロデューサー養成ワークショップで、今後も参加校を増やしながら継続する。ヨーロッパの若手は早い時期から国境を越えた活動に慣れる。これが、国際合作のハードルを低くするのであろう。TAWキャンパス近くには、講師やスタッフの宿泊棟があり、オープンワークショップの作家らも寝食を共にすることがある。

 客員教授や非常勤講師のネットワーク、オープンワークショップや国際的な交流事業でTAWを訪れる、第一線のプロフェッショナルや若手がTAWの財産だ。トルニング校長を筆頭に教務スタッフのホスピタリティが「再びTAWを訪れたい」と思わせる。TAWで学ぶ学生にとっても、日常的に国際的なプロと接するのは有意義だ。
 2000年頃を境に、ヨーロッパではアニメーションが活況だ。テレビや劇場用、あるいはゲーム用の需要がさまざまな国にある。その制作を支えるのは、比較的若い人たちだ。拡大EUにあって、彼らの国境意識はますます低くなる。国際合作を促すような助成制度の効果もあろうが、国際市場へのベクトルがなければ、これほど国際共同制作がEUで賑わうこともないだろう。

■アニメーション文化センターへ向かって・・・

 TAWは、在校生・卒業生の起業支援をおこなうインキュベーションハウスのMiJAV(ミャオ)、アニメーションの活用分野を広げるための研究支援機構The Animation Hubをスタートさせた。MiJAVには、テレビアニメやビデオクリップのアニメーションを得意とする/Happy Flyfish、企業のブランディングイメージ映像やEラーニングのアニメーションを制作する/Markfilmなど、ベンチャー37社が入居している。MiJAVのディレクター リッケ・マイ・クリストルソン氏はジャーナリスト出身で、今年からディレクターとして基礎作りと内外のネットワーク作りに励む。
 MiJAVでは、ベンチャー入居支援だけでなく、起業やビジネス開拓に関する情報提供、あるいはフォーラムなどの参加、「アーティストがマーケットとコネクションを持つこと」を促す。ヨーロッパの就職難は深刻だ。専門教育を受けても、就職機会は限られる。ヴィボールあるいはユトランド半島での就職となれば、なお難しい。そこで、TAWは在校生や卒業生の起業を支援するためにMiJAVをはじめたわけだ。これにより、地元にハイスキルな若者が残り、コペンハーゲンや外国とのビジネスを広げ、ゆくゆくは企業誘致など、アニメ関連の産業振興を目指している。

 実務者トレーニングとワークショップから始まったTAWは、トルニング校長らの明確なマネージメントヴィジョンの下、確実に成長してきた。今後は、通年のマスターコース(大学院レベル)を創設し、2011年にはマンガ、脚本、サイエンス・アニメーションの新コースを立ち上げるという。そして隣接する軍施設を買収し、キャンパスを拡張する。
 トルニング校長は「ヴィボールのこの地域を、TAWを中心とする、アニメーション文化センターにしたい」と語る。民間が立ち上げた組織を国営にし、運営は民間の創意工夫と活力に任せる、デンマークの公的支援ポリシーの一例としてTAWを捉え、日本の公的資金の投入のやり方と比較するのも興味深い。

■ノルディックの独立系監督による、配給支援のオンラインカタログ

 TAWのインキュベーションハウスでHappy Flyfishという制作スタジオを経営する、ソーレン・フレング氏は外向的だ。受注仕事を取るのも積極的だが、アニメーターの交流にも汗を流す。フリーランスや少人数のスタジオが多いデンマークで、Animationsdag 2009 (Danish Animation Day)というイベントを始めた。
 参加者は150名ほどだが、今年は、『Ryan』でオスカーを受賞したクリス・ランドレス監督がカナダから来て、新作『/The Spine』を題材に、人々の内面心理や神経学に基づくランドレス作品の表現法の講演をおこなった。デンマーク人の人なつっこさは、ランドレス監督にも心地よい思い出を残したようだ(ランドレス監督のブログ /http://www3.nfb.ca/webextension/the-spine/blog/?p=41)。

 デンマーク、スウェーデン、ノルウェーのスカンジナビア諸国に、フィンランドとアイスランドが加わった北欧5ヵ国は“ノルディック”と呼ばれる。各国は、それぞれに映画、アニメーション、ゲームなどによる産業振興をおこなうが、この地域で連携する国際合作も増えている。各国のフィルム・インスティチュート(映画協会)が、制作の助成や支援、国際配給の窓口、あるいは国際展開の司令塔の役目を担う。
 コペンハーゲン中心地に、1991年にドキュメンタリー映画と短編映画の監督らが立ち上げた、Filmkontakt Nord(フィルムコンタクト・ノルド、以下FkN、/http://www.filmkontakt.com/)という民間組織がある。自主映画の販売チャネルを開拓する目的で、オンラインカタログを中心に、配給事業者や映画祭関係者にノルディックのドキュメンタリー映画と短編映画、特に近作の情報を提供する。その数は4,500本を超す。
 登録は制作者自らがおこなう。事業者登録をすれば、オンライン視聴やコンタクト情報が得られる。4,5名のスタッフが常駐するFkNは仲介業務をおこなわず、利用環境の整備、カタログ管理と情報の中継点に徹する。域内の交流を図るイベントも運営する。この組織も民間が立ち上げ、現在はノルディック各国の助成金で運営される。「運営はボードメンバーが主導し、自主独立である」と、7年間プロジェクト・マネージャーを務めるハイディ・クリスチャンセン氏は語る。
 ドキュメンタリー映画と短編映画の流通チャネルは限られる。オンラインを活用するサービスは、運営次第で有効なツールになる。ここにも、民間活力をバックアップするノルディック版支援があった。

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[筆者の紹介]
伊藤裕美 (いとう ひろみ)
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
自主企画として、短編映画館・下北沢トリウッドでアニメーション特集上映を毎年主催。また、海外ショートアニメーションのコンピレーションDVDのピクチャーブック「プチシアター」シリーズを企画発売。
2007~08年は、カナダ国立映画制作庁とBravo!FACTが主催する、CJax~日加ショートアニメーション・エクスチェンジ(若手アニメーション作家の国際デビュー支援プロジェクト)の日本事務局を務める。
1999年より毎年、世界最大規模のアヌシー国際アニメーション・フェスティバルに参加し、プチ・セレブ気分でアニメーション三昧の1週間を過ごすのが趣味。
日本茶専門店「茶処いとう」の経営など、さまざまな活動が同時進行中
現職 オフィスH(あっしゅ)代表。
/http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
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