今回の講師はサンライズで『新世紀GPX サイバーフォーミュラ SAGA』『GEAR 戦士 電童』『舞-HiME』などの作品を手がけた古里尚丈プロデューサーである。
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オリジナルアニメの「企画」の最初は、監督からでも作画スタッフからでも始まるという。つまりチャンスは誰にでもあるのだ。そのスタート地点から、具体的に策を練り、作品を実現させるのがプロデューサーであるという。大きく言うと資金繰り、そして主要クリエイターの確保、スケジュール調整が大きな仕事である。さらに、発表するメディアの確保が必要。
スケジュールについては、現在、テレビアニメの本数が増えているため、放送順番待ちである場合もあるという。本数の増加による作業量の増加については、デジタル化がいろんな面で押し上げたとしている。
作画において影やハイライトが付けられるのも、CGによる特殊効果などもデジタル化が映像の見た目のクオリティを上げたようだ。フィルム時代からデジタル時代へ、デジタル仕上げ・撮影の処理スピードが段違いに速いのだ。その変化が本数の増加の要因でもある。
興味深かったのは、昨今のアニメ本数の増大について肯定的な発言をした点である。「本数が多いと、ベテランだけで作れきれず(笑)、そこで若い才能が出てくることができ、チャンスが生まれる」という。一方で、デメリットは同様の理由で、経験が未熟であっても作品を任されてしまう点である。
先に挙げたように制作本数と作業量だけの話に終始することがなく、クリエイター側をどう生かすかについて言及は現役プロデューサーならではの視点だった。
そこで改めて「プロデューサーとは何か」について、古里さんは「何もできない人」であるという。つまり、何もできない故に、作品作りにおいて何かが必要となった場合には、誰かにすんなりと頼むことができるという。
その上で、プロデューサーの醍醐味として作品作りのスターとなるクリエイターを見出すことでもあるという。
『舞-HiME』の監督を務めた小原正和さんは『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』で設定制作、『GEAR 戦士 電童』で絵コンテ・演出を務めて監督に就任した。キャラクターデザインの久行宏和さんも『新世紀GPXサイバーフォーミュラSAGA』から一緒に仕事をしている。
やはりある程度「同じ釜の飯を食った」気心を知っているスタッフについては、得意不得意を知っているため、起用しやすいとのこと。一方で、全く違うジャンルの予期せぬ人を抜擢することもあるという。
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それに比べると、最近は作品本数が増えたわりには監督年齢が上昇しているため、もっと若手を見たいと洩らした。『アイドルマスター XENOGLOSSIA』監督の長井龍雪さんらの名前が、若くて期待が持てる代表例として挙がった。
一般に原作つきの作品でない場合は利益確保の数字が読みにくいため、企画からアニメ化が難しいと言われている。今回は、オリジナル作品の企画をパートナー企業に持ち込む時のエピソードも披露された。それは「必ずしも(パートナー企業を)儲けさせることはできないかもしれないけれども熱意はあります。だから一緒にやりましょう」と言い続けて何社も回ることだそうである。地道であるが、そうすると、何人かは話を聞いてくれるようになるという。
当然、企画そのものが魅力的でないといけないし、これは何かあるかもと思わせるような「絵(キャラクター)」が必要と苦笑しながら話す。『舞-HiME』を企画した理由は、玩具やホビー連動型のロボットアニメが売れなくなった背景と、萌えアニメの台頭という世の中の需要から判断し、これまでサンライズではやってこなかったジャンルに挑戦したかったためであるという。
最後に、次回作について、『舞-HiME』シリーズのキャラクターデザイナーの久行宏和さんを監督に据えた新企画『舞-乙HiME 0~S.ifr~』を製作中であることを明らかにした。このほか、テレビシリーズを含め、2009年までの構想があるとのことである。
【日詰明嘉】
全国総合アニメ文化知識検定試験(アニメ検定)
/http://aniken.jp/
次回 第4回
日時:9月29日(土) 13:30~15:00
出演:『スカルマン』 もりたけし監督
テーマ:「技術と科学」