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映画『蟲師』は、大友克洋監督が15年ぶりに手がける実写映画である。原作は「月刊アフタヌーン」で連載中(現在続刊)で講談社漫画賞受賞、文化庁日本のメディア芸術100選マンガ部門に選出されている。
漫画家でもある大友監督が惚れ込み、実写企画の際に迷わず手を挙げた作品を、今回、実写化するに当たって、原作の神秘的な世界観をいかに保って具現化したのかを話して頂いた。
「蟲」とは動植物ではない、神秘的な存在である。それを映像化するのに、大友監督は「CGの進化と発達」を理由に敢えて実写を選んだ。
完成したフィルムには役者たちにすら思いもよらない形で撮影されている。プロローグ、「大雨の中、主人公のギンコの母子が峠越えをしている時に土砂崩れが起きる」シーンは、最高の難度だったという。
大友監督はここをワンカットで撮りたいという。そこで採った方法は、まず撮影現場でぬかるみの中、役者に芝居をしてもらい、撮影後にデジタルで人物だけを切り取り映像を作る。
次に、土砂崩れをミニチュアで撮影し、デジタルで合成するのだが、ただのCG加工ではなく、本物の木を固定し風で揺らしたあと、地滑りに合わせてピアノ線を引っぱるなど、リアリティを重視した特殊効果を作る。ちなみに、このシーンは数秒のカットだが、3ヶ月ほど費やして作ったという。
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その結果、制作につかったものは、「シラタキ」である。鍋の具材であるシラタキを水中でピアノ線を引っぱり撮影したものにエフェクトをかけ、色や質感を与えて、「蟲」らしい有機的な動きを作っていったという。
これら、エフェクトを活用する理由には、制作コストと制作期間の問題がある。実写企画では役者を拘束できる時間や画面作りにこだわり続けると際限がなく、現場のテンションや迷いがそのまま完成したフィルムに現れる。一方で、視聴者が何度DVDで再生しても気がつかないようなレベルでの、クリエイターのこだわりも存在する。
映像作りのプロというのは、その映画に何が大事なのかを常に考え、効率的な優先順位をつけることができる人のことだと、古賀氏は語った。
(日詰明嘉)
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メイキングセミナー「蟲師」
講演者:古賀信明 (/スペシャルエフエックス スタジオ)
/映画『蟲師』公式サイト