■“アニソン愛”がないといけない――アニソン界の先駆者からみて、現在のアニソンシーンはどう映っているのか、お聞きさせてください。水木アニソンを一生懸命歌ってきた身からすると、「間違った方向にだけは行ってほしくないな」と。それだけが気がかりで。これまでアニソンはそれを聴いて育つ子どもたちのために大人たちが愛と情熱を傾けて作り上げてきたもの。だからこそ、時代を越えて歌い継がれるクオリティの高い音楽がたくさん生まれたんだと思う。でもこれからもし「アニソンって儲かるもんだろ?」という歌い手や作り手が出てくるようなことがあったらきっとダメだなと。後輩には口を酸っぱくして言うんですけど、やっぱり“アニソン愛”がないといけない。――昔と比べ、今はアニメソングも多様化していますが、それについてはどう考えておられますか?水木僕らはゴールデンタイムのアニメ番組で子どものために歌ってきました。今、深夜帯の作品で歌っているアーティストは、子どもを相手にするものではないので、彼らなりのアニソンを歌うことにはなるんでしょうね。でも、気をつけないといけないのは、アニソンは日本独特の個性があって世界に広まったわけですから、そこは忘れないでもらいたいな。多様化という意味では、アニソンはもともと、音楽のジャンルをまたいで自由な発想で作られてきたんです。流行りの音楽の後追いではなく、本当の意味での多様化はむしろ歓迎するべきだと思っています。――今は「アニソン歌手になりたい」という人も増えていますが、そういった方や後輩へのアドバイスがありましたらお願いします?水木僕が若いころは、いろんな歌手のレコードを聴いて勉強してね。シャンソンやカンツォーネ、ジャズ、アメリカンポップス、詩吟まで全部やった。いま誰かのアニソンを聴いて、その憧れだけで「わたしもアニソン歌手になりたい」というのは、難しいと思う。その人のマネになってしまうし、追い越せない。アニソンだけでなくいろんなジャンル、それも日本だけでなく世界中の歌を勉強してもらいたい。そうすると、歌の引き出しが増えて、深みも出てくるから。僕はこの45年間アニソンを歌ってきて、持ち歌は1200曲くらいあるんだけど、それも引き出しだけはたくさん持っていたからだと思いますね。 ――今後のアニソン界に望むことはありますか?水木ちょっと話は飛びますけど……。ジャズでたとえるなら、スウィングジャズが全盛期のころに、モダン・ジャズが登場して「こんなのジャズじゃねーよ!」と叩かれながらもひとつのジャンルとして確立していった。あるいはロックだと、(エルヴィス・)プレスリーのロックンロールが「こんなの歌じゃねー!」とコテンパンに批判されながらも、のちの音楽史に大きな変化をもたらした。そんなことがアニソンでも起きてほしい。若手の力でアニソン界はどんどん変化していくだろうけど、僕らが築き上げたものを理解したうえで新しいことに挑戦してもらえると嬉しいね。