「ガンダム」リマスタープロジェクトはどうなる? 旧作アニメのリメイクの定義【藤津亮太のアニメの門V 135回】 | アニメ!アニメ!

「ガンダム」リマスタープロジェクトはどうなる? 旧作アニメのリメイクの定義【藤津亮太のアニメの門V 135回】

昭和、平成を代表する『ベルサイユのばら』『ゲゲゲの鬼太郎』『うる星やつら』などの名作が令和に再び蘇り映像化。そんな数々のアニメのリメイクを巡る逆説とは?

連載 藤津亮太のアニメの門V
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トーマス・リーチは論文「二度語られる物語 リメイク映画のレトリック(Twice-Told Tales: The Rhetoric of the Remake)」で、リメイク映画に宿る逆説について次のように語っている。

「リメイク作品の観客は『原作とまったく同じでありながら、それよりも優れている』という逆説的な約束に反応している。リメイク作品における根本的な修辞上の課題は、『リメイク作品は原作とまったく同じである』という主張と、『リメイク作品は原作よりも優れている』という主張という、一見相容れない二つの主張の間を折り合いをつけることにある」

この厄介な逆説を抱えつつも、さまざまなリメイク作品が制作され続けてきたのは、ビジネス的な理由が大きいからだろう。だからこそ、そこにはもうひとつビジネスと芸術の逆説もある。そこについては2017年に出版された『リメイク映画の創造力』(北村匡平・志村三代子編/水声社)で北村匡平が「リメイク映画論序説」の中で「すなわち、『リメイク映画』とは、商業的にリスクヘッジを追求する営みである一方、芸術作品としては(引用者注:先行作品と比較される)リスクを負って製作されることになるのである。だがもちろん、商業主義を徹底するとはいえ、作品の価値をそれほど低く見積もる消極的な営みというわけでもない。映画製作者もリメイクする意義をもってオリジナルに対峙しながら映像を作っているからである」と記している。

リメイクを巡る逆説から話を始めたのは、少し前にSNSで『機動戦士ガンダム』のリメイクをめぐってさまざまな意見が飛び交っていたからだ。発端は、1979年の『機動戦士ガンダム』は、制作された時代のため作画のクオリティが低い部分があるから、作り直せば、海外でもっと多くのファンを得ただろうという投稿。もちろん『機動戦士ガンダム』の制作年の古さは、シリーズの原点である同作の海外セールスにおいてネックになっているのはよく知られた話である。マンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も企画の発端はそこにあった。

しかし、一言にリメイクといっても、リブート(ある人気シリーズの再起動)、リ・イマジネーション(最低限の要素だけ残した上での物語の再創造)といった類似の概念まで含めても非常に幅広い。前掲の「リメイク映画論序説」も「メディアの多岐化にともない、従来の厳密な定義である『映画の再映画化』にはおさまりきらないほど、『リメイク』の定義は曖昧化しているのである」と記している。

ここではまず「リメイク」と呼ばれる行為をいくつかに分類したいと思う。リーチの『二度語られる物語』では、リメイクを4つに分類している。この論文は1990年に発表されたもので、リメイクの分類も原作と映画の関係に力点が置かれているため、2020年代のアニメに直接当てはめることはできないが、いくつかのヒントにはなる。

リーチの分類は要約すると
1)再翻案
先行する映画を参照するのではなく、原作に遡って映画化するケース。
2)アップデート
古典である原作に対し、リアリズムの基準の変化に応じて変更を加えたり、舞台を変えて見え方を変えたり、時には価値観を反転させてパロディ的なアプローチをとることもある。
3)オマージュ
原作ではなく、先行映画をリスペクトしつつ参照する姿勢。リーチはここに「リメイク」とは謳っていないものの「影響関係が非常に濃い作品」も含めている。
4)真のリメイク
先行映画を参照しつつ、それに取って代わろうとする映画。原作の価値に寄り添いながら、先行映画を「間違い」として退ける。
ということになる。

これを頭に置きながら、アニメに当てはまるようにあらためて分類をしてみよう。
1)再翻案
これは2つに分けられる。「古典的原作の継承」と「アップデート」だ。
「古典的原作の継承」は、古典的な原作に寄り添ってアニメ化すること。当時のメディア状況などもあり、原作から離れた形でアニメ化された場合も多いため、できる限り(精神的な意味でも)原作に寄り添おうとするところに力点がある。『劇場版 はいからさんが通る』(2017)や劇場アニメ『ベルサイユのばら』(2025)、TVであれば『キャプテン翼』(2018)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(2020)や『うる星やつら』(2022)が相当するだろう。

これに対し「アップデート」は基本設定は同じでも、時代にあわせて細部や物語を変えていくスタイル。『ゲゲゲの鬼太郎』や『サイボーグ009』、『ルパン三世』などがこれに相当する。アップデートを重ねていくことで原作への準拠度も下がっていく。また時代に合わせたアレンジという点では『キャプテン翼J』(1994)、『キャプテン翼』(2001)はアップデートといえる。

2)改訂(revisions)
物語の大枠には触らず、映像・音響などに手を加えたもの。例えばTVアニメは、放送後ソフト化される場合にリテイクが加えられることがあるし、音楽が差し替えられる場合もある。これも放送版とパッケージ版は「改訂」という形の「リメイク」という関係にあると解釈できる。また劇場版『機動戦士ガンダム』や劇場版『THE IDEON 発動篇』の第39話相当部分など、絵コンテはそのままに作画だけやりなおしたカットなども、一部ではあるが「改訂」の一種と言える。

この極端な例が、音響をゼロからやりなおした劇場版『機動戦士ガンダム』特別編(1998)、新規の音響作業だけでなく、一部カットを3DCGに置き換え、色彩も再調整を施した施した『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』だ。

3)コピー
先行作品を完全に模倣するパターン。一部のカットなどをオリジナルそっくりに制作して、作品の一部に挿入するケースはあるが全編すべてを行ったものはない。映画ではガス・ヴァン・サント監督がアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』をカット単位で模倣したという例がある。「リメイク映画論序説」では本作について、同作を「単なる失敗というより失敗した最高傑作」と評したスラヴォイ・ジジェクの言葉を引いたうえで、「オリジナルの細部にまでオマージュを捧げてダイアローグ/ショットを模倣しているからこそ、ヒッチコックの『サイコ』に精通している観客にとって、類似するショットの反復と同時にその差異が逆説的に強調されるのである」(書籍では「逆説~される」に傍点)とまとめている。

4)オマージュ
アニメの場合、先行作にオマージュを捧げたカットが部分的に登場することはあるが、リーチの挙げているブライアン・デ・パルマの諸作と、ヒッチコック作品の関係のようなものはない。
これらの分類はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに重なり合いながら存在している。
では原作の存在する「異なる記号体系間の移動=翻案」ではなく「同じ記号体系間に移動」である場合は、どうだろうか。

例えば『宇宙戦艦ヤマト2199』(2013)は『宇宙戦艦ヤマト』(1974)のリメイクだが、そこで行われているのは、現代に求められるリアリティラインにあわせた設定や描写の「アップデート」であるが、同時に「古典的原作の継承」を念頭に旧作の魅力はできる限り再現しようと試みている。映像面では旧作にオマージュを捧げた部分もあるが、多くのカットは本作なりの必然に基づいて新たに制作されている。物語全般は、旧作に似た形で始まるが、やがて『2199』なりの物語を紡ぎ始めて、2013年の「新作」として完結する。これは『2199』が、リメイクの過程を通じた旧作への一種の批評でもあったということだ。

『機動戦士ガンダム』のリメイクがあるとしたら、それは「古典的原作の継承」が第一の狙いとなるだろう。そこではリメイクを通じた批評は後景に退く。だが、たとえ完全な模倣を目指したとしても、画角が4:3から16:9に変わったことでレイアウトも変化するし、美術に求められる密度感も1979年とは大きく異なっているから、映像もそのままというわけでもない。音響フォーマットもリアリティラインも異なるから、キャラクター性の強い一部の効果音はともかく、音空間の設計はまったく新しいものにならざるを得ないだろう。だから「オリジナルにそっくりで、しかもオリジナルより優れている」作品を夢想したところで、「類似するショットの反復と同時にその差異が逆説的に強調され」た作品になることは間違いない。これは「リメイク作品」は、常に今の価値基準で作られた「新作」の1本でしかないということなのだ。

『機動戦士ガンダム』についてはすでに、『ガンダム』50周年の2029年に向けて「リマスタープロジェクト」が発表されている。この「リマスター」がいかなるものかはまだ明らかになっていない。ただ、言葉どおりに受け取るなら、それは先の分類でいう「改訂」にもっとも近い行為なのではないだろうか。しかも50周年という商業的な節目の企画でもある。この「リマスター」には、リメイクを巡る2つの逆説はどのような影を落とすのか、あるいは落とさないのか。そこに注目しつつ続報を待ちたい。

【藤津 亮太(ふじつ・りょうた)】
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』がある。最新著書は『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」で生配信を行っている。


《藤津亮太》

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