岡田麿里監督が語る映画「アリスとテレスのまぼろし工場」制作秘話と舞台背景にあるアイデア【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

岡田麿里監督が語る映画「アリスとテレスのまぼろし工場」制作秘話と舞台背景にあるアイデア【インタビュー】

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』より、岡田麿里監督のインタビューをお届け。岡田監督の作家性が存分に発揮された本作はどういう経緯で制作されたのか、独特の設定やキャラクターが生まれた背景など多岐にわたる話を聞いた。

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『アリスとテレスのまぼろし工場』本ポスター(C)新見伏製鐵保存会
  • 『アリスとテレスのまぼろし工場』本ポスター(C)新見伏製鐵保存会
  • (C)新見伏製鐵保存会
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MAPPA初のオリジナル長編映画で、岡田麿里監督の最新作『アリスとテレスのまぼろし工場』が公開中だ。

本作は、変化を禁じられた世界で、未来へともがく少年少女たちの恋する衝動を描いた作品。2018年の『さよならの朝に約束の花をかざろう(以下『さよ朝』)』同様、岡田監督自身が脚本を手掛け、副監督の平松禎史やキャラクターデザイン総作画監督の石井百合子、美術監督の東地和生など、前作のコアスタッフが再び集結している。

岡田監督の作家性が存分に発揮された本作はどういう経緯で制作されたのか、独特の設定やキャラクターが生まれた背景など多岐にわたる話を聞いた。

[取材・文:杉本穂高 編集:吉野庫之介]



スタッフが想像力を超える素晴らしいものを作り出してくれる


――もう一度、監督をやろうと思った経緯をお聞かせください。

『さよ朝』は多くのことを学ぶ機会となりましたが、同時に監督業の難しさも感じました。当時は「この作品を監督したい!」という情熱に駆られていましたが、スタッフに迷惑をかけてしまったのではないかという面もあり、次にまた監督をできるわけではないだろうと思っていました。

しかし、P.A.WORKSの堀川憲司さんから『さよ朝』制作の際、「また岡田さんに監督をさせてみたいと思う会社が現れるような作品にするという目標があったと言われたんです。感動してしまって。

美術監督の東地さんからも、もう一度監督をするべきだと言っていただいて、そのタイミングでMAPPAの大塚さんからお話をいただきました。堀川さんと東地さんの励ましの言葉があったからこそ、大塚さんのオファーも受けることができたと思います。

――監督としての2作目となりますが、1作目の経験はどのように役立ちましたか?

今回の主要スタッフには、『さよ朝』にも参加したメンバーがいます。アニメ制作において、成功や失敗を共有できる仲間と一緒に作業することは非常に強力な要素だと思います。各自の能力や強みを理解しているし、反省点も次につなげることができる。

今回も制作中に様々な問題が発生しましたが、それらの決定を共通の経験から考えることができました。たとえば尺の長さを調整する必要がありましたが、スタッフの力量を理解しているからこそ「ここは表情で持っていけるだろう」「光だけで情感を表現できるだろう」など、カットする場所を選ぶのに勇気をくれたり。また、主要スタッフたちは近くにいたため、作業を進めながら必要な確認を迅速に行うことができたことも大きかったと思います。

――本作の元ネタは、かつて書ききれなくなった小説だったそうですが、なぜその作品に再挑戦したのですか?

プロットは最後まで用意されていたのに、なぜ書けなくなったのか、その理由について知りたいという気持ちがありました。なので、つねに取り組んでいる“脚本”として執筆をしてみようと。そこで、改めて私はアニメの脚本家であることを再確認しました。こちらの想像力を越える素晴らしいものを作り出してくれるスタッフが隣にいるからこそ、「この人のこんな絵が観てみたい、この人にこんな話をぶつけてみたい」とこちらも刺激されるんです。





生の芝居は求めながらも、感情が前のめりなシーンは抑えずに


――主人公・正宗役の榎木淳弥さん、睦実役の上田麗奈さん、五実役の久野美咲さん、主要キャストそれぞれの選定理由は何でしたか。

久野さんは当て書きでした。五実は言葉よりも、呼吸の一つで感情を表現しなければならないキャラクターであり、久野さんの声なら五実と一緒に走ってくれると思いました。実際、数年前にこの作品のPVを制作した際、まだ絵コンテも声優も確定していなかったのですが、久野さんだけに出演していただきました。叫び声だけだったのですが、作品を引っ張ってくれる大きな魅力を感じました。

上田さんについては、この作品はVコンテを作ったのですが、その際に声をあてるのを手伝ってくださったんです。でも、彼女の演技があまりに睦実にぴったりで。上田さん以外に考えられないなと思い、正式にお願いしました。収録を重ねるにつれてどんどんキャラに入っていくのが印象的で、睦実の心が動くたびに上田さんの心もきちんと動いているのが感じられて嬉しかったです。

榎木さんについては、彼の声がもつ自然な男っぽさが正宗にほしかったんです。正宗は外見だけで言えばもっと中性的な声になりそうですが、男の子成分が強い榎木さんの声が重なることでキャラクターが浮かびあがってくると思いました。普通の男の子という記号を、大きく広げてくれたと思います。





――榎木さんや上田さんは生っぽいお芝居が得意な方たちだと思いますが、お芝居の方向性についてどのように考えましたか?

自然なお芝居は好きですが、アニメの絵に乗ったときに最も効果を生むお芝居があると思うんです。榎木さんと上田さんは生っぽさはありながらも、絵と馴染んで一人のキャラクターとなってくれる声なんです。それでも、感情が前のめりなシーンは抑えずにお願いしました。

今回、副監督の平松さんがリップシンクにこだわっていて。なので、声優さんたちが絵に合わせるのではなく、ある程度自由に演技してもらいました。佐上を演じた佐藤せつじさんはすごくフリーダムな感じで、さすがにこの口パク合わせるのは難しいだろうなという場面でも、平松さんが副監督でありながらアニメーターとしてせつじさんに合わせてリップシンクを調整し、そこから生まれる独特の台詞も面白いものになっていると思います。

――佐藤せつじさんが演じた佐上はインパクトのあるキャラクターですよね。このキャラクターのアイデアはどのように生まれましたか?

劇場映画なので、わかりやすい敵役が必要であると最初は考えたのですが、だんだん感情移入してしまい、あまり敵キャラにならなかったんです(笑)。彼の行動原理を考えていくうちに、共感できる要素もあって。時宗が言う佐上に対してのあるセリフなどは、心から出てきたセリフでしたね。





思春期を描くと地方に戻ってしまう


――本作は、変化を良しとしない町が舞台であることに特徴があります。このアイデアはどこから出てきたのですか。

さまざまな経緯はありますが、コロナ禍を経験したことは大きかったですね。誰か特定の人ではなく、ほぼすべての人々に等しく影響を及ぼす出来事はまれだと思います。ずっと変化することは良いことだと思って生きてきた、むしろ変わっていかないとダメだと言われてきたのに、突然「外に出るな、変わってはいけない」と言われることは非常に衝撃的でした。

でも、それは今までもそうだったんだろうなと。表面的には変化や改革を称賛していても、実際には変わってはいけないという社会的な感覚を薄く押し付けられてきていた。そんな気分が、浮き彫りになったというか。

――町の変化が止まる年を1991年1月に設定した理由は何ですか?

私自身がその時代に中学生だったというのが大きいです。作中で宗司の「いちばん、みんなに褒められたいい時期」と言うセリフも登場しますが、この後すぐにバブル経済が崩壊したんですよね。時代の閉塞感は既に存在していましたが、あの頃の自分にはまだそこまで実感がありませんでした。地元から東京に出たら、いろんなことがなんとかなる気がしていた。

元々、この物語のアイデアは『凪のあすから』のロケハンで地方の無人駅を訪れた際に得たものです。アニメ作品では未来がSF的に描かれることが一般的ですが、実際はこのような無人駅のようにひたすら静かになっていくんだろうなって。その静寂、美しさ、そして不安な要素に魅了されました。

そこから、「この土地は何を考えているのか、土地も夢を見るのか」という考えが生まれました。当初、この話はオオカミ少女と呼ばれる嘘つきの女の子と野性のオオカミに育てられたような女の子の話だったのですが、そこにそれらの要素を取り入れ、現在の形になりました。





――舞台の町に特定のモデルがあるのでしょうか?

町のモデルは具体的に指定せず、さまざまな場所を参考にしています。実際に行ったり、調べたり。共通する要素は、「良い時代」と言われた頃の空気が残っていること。「良い時代」とは主観的なものなので、その空気感をスタッフと共有していきました。閉塞感と寂しさが共存する美しい町を作成するために、今回は設定量ではなく、雰囲気や寂れた雰囲気を強調する映像情報を多く取り入れたいと。

でも、これは91年時点の町なので、今よりも寂れてないんです。寂れてないけれど、何か違う。空も青空を排除しまくって登場人物たちの気持ちに寄り添うような曇り空を多くして、感情と空気が重なるようにしたかったんです。

――岡田さんは地方や郊外を舞台にした作品を書くことが多いですが、今までの作品でシナリオハンティングに行った経験も本作にはたくさん活かされているんですね。

私は自分の思春期時代を地方で過ごしたため、思春期を描くとどうしても地方に戻ってしまうんですよね。気持ちがまだそこに残ってしまっているというか、思春期の感情をいまだにきちんと克服していないからこそ、それを描きたいと思うのかもしれません。しかし、東京での生活も長くなり、都会の話も書いてみたいと考えています(笑)。

映画『アリスとテレスのまぼろし工場』ファイナル予告
映画『アリスとテレスのまぼろし工場』
全国公開中

スタッフ・キャスト
脚本・監督:岡田麿里
副監督:平松禎史
キャラクターデザイン:石井百合子
演出チーフ:城所聖明
美術監督:東地和生
音楽:横山克
制作:MAPPA
配給:ワーナー・ブラザース映画、MAPPA
主題歌:中島みゆき「心音(しんおん)」
出演:榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、八代拓、畠中祐、小林大紀、齋藤彩夏、河瀬茉希、藤井ゆきよ、佐藤せつじ、林遣都、瀬戸康史

(C)新見伏製鐵保存会
《杉本穂高》
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