「ククルス・ドアンの島」のドアンが1話で強烈なインパクトを与えたワケとは | アニメ!アニメ!

「ククルス・ドアンの島」のドアンが1話で強烈なインパクトを与えたワケとは

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第23弾は、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』よりククルス・ドアンの魅力に迫ります。

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『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』新劇場バナー(C)創通・サンライズ
  • 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』新劇場バナー(C)創通・サンライズ
  • 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』本ビジュアル(C)創通・サンライズ
  • 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』場面写真(C)創通・サンライズ
  • 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』場面写真(C)創通・サンライズ
  • 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』場面写真(C)創通・サンライズ
  • 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』場面写真(C)創通・サンライズ
  • (C)創通・サンライズ
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    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第23弾は、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』よりククルス・ドアンの魅力に迫ります。

本編の中では重要度が低く出番も少ないにもかかわらず、妙に視聴者の印象に残るサブキャラクターというものが存在する。

『機動戦士ガンダム』にはそういうキャラクターが多数いる。例えば、この度単独で主人公となった作品が公開されるククルス・ドアンがそうだ。

たった1エピソードの出番で多くは描かれていないキャラクターだが、だからこそ、想像力を掻き立てられる。こういうキャラクターが出てくると作品世界全体の解像度が上がり、想像力も拡がる。なるほど、この世界には主人公の周辺以外にも生きている人々がいて、多くの物語があるんだなと感じさせてくれるのだ。

ククルス・ドアンは、敵役を取り上げるこの連載で取り上げてよいものか迷ったが、元々ジオン軍の軍人で、アムロと好対照をなしている面もあるので、ここでこのキャラクターと映画の魅力について掘り下げてみたい。

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』場面写真(C)創通・サンライズ

戦争の加害と被害を知る男


ククルス・ドアンは、とある小島で子どもたちと暮らしている、元ジオン軍の脱走兵だ。自ら修繕・改修しているために左右非対称であるザクに乗り、島に近づく脅威を取り除き、武器を奪い取って戦うゲリラ的な戦法で島での生活を守っている。テレビ版では、偵察に来たアムロと遭遇し、ガンダム相手に岩を投げつけて撃退するなど、ワイルドな戦い方で圧倒する実力を見せつけている。初登場でサブキャラクターにもかかわらず、主人公を負かす存在というのも面白い。

ドアンはここで身寄りのない戦争孤児たちの面倒を見ている。子どもたちに信頼されている様子は、全く悪人ではなく、優しい父親のようである。

脱走兵であるドアンは、アムロたち地球連邦軍からもジオン軍からも追われる身だ。ジオン軍からは裏切り者の烙印を押され、追っ手がかかっているが、その強さは折り紙付きで、これまで何機ものザクを撃退している。

そのような強さを持つキャラクターが、本編の物語の中心ではなく、周辺的な存在として登場することが視聴者の心に強い印象を残したのだろう。漫画やアニメで、メインキャラクター以外にめっぽう強いキャラクターには、「もしかしたらこいつが一番強いのでは」という最強神話を抱かせてくれる。

(C)創通・サンライズ

実際に、今回リブートされた劇場版では「赤い彗星か、ドアンかってね」という台詞があるように、ドアンの実力はシャア・アズナブルとも比較されるほどだと描かれている。

作品の本筋とは関係のないエピソードで登場したキャラクターにこのような味付けをされると、その作品世界がより奥深くなる。主人公の周辺だけにしか、面白いやつがいるわけじゃない、この世界にはきちんと色々な人間がいて、多くのドラマがそこいら中にあると思えてくるので、こういうタイプのサブキャラクターには特別な魅力があるものだ。

何より、主人公やそのライバル以外にも強い奴がいるというのは、ロマンがある。だが、ドアンというキャラクターが持ち合わせているのはロマンだけじゃない。彼が面倒を見ている子どもたちの両親の命を奪ったのは、ドアン自身であり、贖罪意識が彼を動かしているという一面もあるのだ。

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』場面写真(C)創通・サンライズ

戦争に対する解像度を上げる小さな物語


『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、『ガンダム』本編のような大局的な物語ではなく、島で暮らす男と子供たちのとても小さな物語だ。小さな物語だからこそ、大きな物語では見落としてしまう、戦争に巻き込まれた一人ひとりの顔がはっきりと見える。

華々しい戦いで傷つくのは誰なのか、大局的な視点ばかりでは、一人ひとりの名前や顔、生い立ちもどんな人生を過ごしたかはわからない。

だが、国もコロニーも小さな人々の人生の集合体であるはずだ。人間の人生は小さな暮らしから始まるのが基本であり、それを忘れては何のために戦うのかも見失ってしまう。このエピソードは改めて、アムロたちが戦うこの世界にも小さな営みがあって人が生きているのだということを思い出させてくれる。

戦争は多くの人を傷つけ、その過去は消えない。ささやかな幸せを食いつぶす戦争の厳しさをこの物語は教えてくれる。再び戦いの場に戻っていくアムロにとって、ドアンとの出会いがもたらしたものは決して小さくないはずだ。


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《杉本穂高》
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