「FGO」ソロモンの「人」としての意地が示す、人類史の愚かさと美しさ | アニメ!アニメ!

「FGO」ソロモンの「人」としての意地が示す、人類史の愚かさと美しさ

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第14弾は、『Fate/Grand Order』より魔術王ソロモンの魅力に迫ります。

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『Fate/Grand Order ANIME PROJECT Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT
  • 『Fate/Grand Order ANIME PROJECT Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT
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  • 『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT
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  • 『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT
  • 『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT
※『FGO』本編のネタバレありとなるので、ネタバレを避けたい方は注意してください。

    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第14弾は、『Fate/Grand Order』より魔術王ソロモンの魅力に迫ります。

スマートフォン向けRPGゲーム「Fate/Grand Order(FGO)』の劇場版アニメ『Fate/Grand Order -冠位時間神殿ソロモン-(ソロモン)」が7月30日から公開される。

「FGO」は、膨大なテキスト量を誇るアプリゲームで、全エピソードの中から人気ある物語を抜粋する形でアニメ化されている。今回の『ソロモン』では、第一部の最後の戦、つまりラスボスとの対決が描かれる。

「FGO」は焼却された人類史を取り戻す物語だ。その最後の敵となる魔術王ソロモンは、人間と人類史のあり方を問い直す存在だ。人類は結局生きるに値するのか、生きるに値するなら、それはどうしてなのか、敵役という立場で、それを見事に表現してくれる、非常に完成されたキャラクターと言える。


『Fate/Grand Order ANIME PROJECT Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

ここで、ゲーム未プレイの人にもわかるように、主人公とソロモンの足跡を簡潔にまとめよう。

人類史を永続させることを目的とした人理継続保障機関フィニス・カルデアは、2016年に何らかの要因によって人類が滅亡することを突き止める。その原因となるのは、魔術王ソロモンが、過去に送り込んだ7つの聖杯。ソロモンは聖杯と、人類史のターニングポイントとなった時代に送ることで、特異点を生み出し、人類史を乱すことで全ての歴史の焼却を試みる。

主人公は、その歴史を取り戻すべく過去にレイシフトし、多くの英霊たちとともに聖杯回収の戦いに挑む。そして、7つの聖杯を回収し終えた主人公は、ついにソロモンの本拠地である冠位時間神殿ソロモンに立ち向かうことになる。

ここからは『FGO』本編のネタバレありとなるので、ネタバレを避けたい方は注意してほしい。



『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

ソロモンは千里眼というスキルを保有している。これは、あらゆる過去と未来を見通す能力だ。これを持っているために、彼は人類史のあらゆる悲劇や愚かな絶望を目の当たりすることになった。だが、ソロモン本人は、生まれた時から王として定められた生き物なので、人間としての感性はもっていなかったと語られる。そんな存在なら、何を見ても絶望するはずがない。

魔術王ソロモンの正体は、ソロモン72柱の魔神の集合体である魔神王ゲーティアだった。ゲーティア曰く「ソロモンの分身」のような存在で、千里眼と意識を共有していたために、人類の過去と未来を見てしまった。そして、ソロモンには人の心がなかったが、彼は違った。あまりの人類史の悲劇と絶望の多さに打ちひしがれ、嘆いた結果、人間とは不完全な存在だから、いつまでも愚かな行為を克服できないと考えるようになり、人類の惑星を作り直すことを決めた。

ゲーティアの目的は、人類の絶滅ではない。人類の歴史をまるごと作り直し、死の概念のない世界を創出することだ。非常に壮大な計画だが、動機は理解しやすいだろう。要するに「人間は愚かだ」という考えに至ったのだ。過去から未来、くまなく見通しても愚かさを克服できないなら、ゼロから作り直すしかないということを考えわけだ。


『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

『Fate』シリーズは、過去の英雄を英霊として召喚し戦うというアイデアが根幹になっている。ある存在が英雄と呼ばれるようになるのは様々な理由があるが、その英雄の活躍の裏にはおびただしい血が流れていることは珍しくない。「1人殺したら殺人者で、100万人殺せば英雄だ」とチャーリー・チャップリンは映画『殺人狂時代』で言ったが、確かに歴史に名を刻まれる英雄の多くは戦場で活躍した者たちだ。

ゲーティアが見てしまったものは、まさにそのような英雄の活躍の裏で苦しんできた人々の怨嗟だと言えるかもしれない。「FGO」の主人公は、まさにその英雄を召喚して戦うわけだが、だからこそ、この物語の最後の敵としてふさわしい存在と言える。英雄たちに本当に価値はあるのか、そんなものがあるからいつまでも人の歴史からおぞましい悲劇がなくならないのではないかと。

100万人の命の上に1人の英雄の名声があるなら、確かに命の不平等さに打ちのめされてしまう。ゲーティアの作ろうとしている新しい世界は、そういう不平等のない世界なのだろう。「FGO」という物語は、その目的を、まさに(ゲーティアから見たら)不平等ゆえの産物である英霊を率いて打ち砕くという構造になっている。


『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

では、英雄がいて、多くの悲劇があるこの世界をいかに肯定し得るのか。この戦ではこれが問われているわけだ。ゲーティアと対峙する真のソロモンは彼にこう告げる。

「命とは終わるもの。生命とは苦しみを積み上げる巡礼だ。だが決して死と断絶の物語ではない。限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。これを、愛と希望の物語という」


ゲーティアは、死を克服できない人間の一生はどうあっても恐怖しかないと語るが、ソロモンは人間の一生は有限の命だからこそ美しいと言う。

最後にゲーティアを打ちのめすのは、主人公がその有限の命を全うしようという意思、「ただ自分が生きるため」という我欲だ。その我欲こそ、ジャンル・ダルクは英霊だからこそ、我欲に囚われ、おのが信念を曲げられないと言う。


『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』場面カット(C)TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

そして、ゲーティア自身もその我欲に目覚め、「魔神王ゲーティア」から「人王ゲーティア」へと変化する。その時点で、彼は自分の命が尽きかけており、どうあっても助からないことを知っていた。にもかかわらず、主人公に最後の勝負を挑む。

その勝負に合理的な意味はない。ただの意地で戦う我欲である。

この時のゲーティアの姿は、美しい。まさに、ソロモンが言った「星の瞬きのような刹那」の姿だ。そして、その刹那の美しさは主人公に倒されることで完成する。

人類史はそんな有限の命の悲劇と美しさの連続だ。ゲーティアは主人公に倒されることでそれを証明した。見事な幕の引き方だ。

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《杉本穂高》
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