「好き」が一番の武器になる。若きトップアニメーター・矢野茜が歩んだ我が道【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「好き」が一番の武器になる。若きトップアニメーター・矢野茜が歩んだ我が道【インタビュー】

30歳以下でプロフェッショナルとして活躍するUNDER30世代に、同年代のアニメ!アニメ!編集部スタッフがインタビュー。就職後わずか3年、若干25歳という若さで、「総作画監督」「キャラクターデザイン」に抜擢されたアニメーター・矢野茜さんに仕事への向き合い方を聞いた。

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人生で初めて、つかめた感覚


矢野さんは「何となく」受講した体験入学で衝撃を受けることになる。

アニメーションの基礎中の基礎でもあるパラパラマンガを実際に描いてみる授業。これに心を打たれたのだ。

▲連続した静止画を高速で切り換えると、人間の目には動いて見える。
「自分が描いた絵が動いて見える……その体験は本当に感動的でした。
そこで初めて『アニメーターという仕事はなんて面白いんだろう、絶対にこのお仕事をしたい!』と思いました」

人生で初めての、心の底から「面白い」と思えた感覚。矢野さんはアニメーターの世界へのめり込んだ。

在学中は絵を描く技術を教わることで、イメージ通りの絵が描けるようになっていくことが楽しくて仕方なかった。インターンシップ制度のおかげで、学生でありながら深夜放送のアニメでデビューすることもできた。

▲矢野さん直筆による「アニメーションが完成するまで」が描かれた動画。
心の奥にあった仕事や社会への恐怖はいつの間にか薄れていき、後に矢野さんはウエイトレス時代の失敗をこう考えるようになる。

「やはり無理に勉強しようと思ったからメニューを覚えられなかったんでしょうね。私、興味がないことに対しては、本当に、何も頭に入ってこないんだな、と」

彼女はアニメーターという職業を、次第に天職だと信じるようになっていった。

矢野茜
矢野さんが就職したのは、「feel.」というアニメスタジオ。

「美少女アニメを多く作っているので、きっとアニメーターさんは、全員男性なんだろうなと思っていました。すると40名ほどの社員の中には女性の姿もポツポツあって、意外と女性も多いんだなと驚きました」

矢野茜
最初のキャリアは「動画マン」と呼ばれるポジションだ。
アニメーターの中では主に新人が担当するところで、動きと動きの間を埋める作業である。

動きの激しさなどによって難易度も変わってくるが、1日で描ける動画はだいたい10枚ほどだ。

アニメーターは基本的に出来高制になるため、出社時間も退社時間も自由。1枚でも多く描くために朝まで作業をして泊まっていくスタッフが多かった。

矢野さんは「当時の私は世間知らずで泊まることが怖かったので、なるべく早く作業を済ませて帰るようにしていました」と箱入り娘だったことでメリハリを生み、生活リズムを崩すことなく作業ができていたという。

▲歩く動作ひとつでも、髪の揺れ方、手首の角度など演技は奥が深い。
真剣に絵を描くことの楽しさ、手がけたシーンが実際に放送される感動。それらは何事にも代えがたい達成感だった。
締切に追われる日々にいつも緊張と焦りはもちろんある。しかし、それを上回る感情が自分を支えていた。

「辛くなったり嫌だと思ったことは一度もありません」。当時を振り返って矢野さんはハッキリと話した。

矢野さんが描きたいものとは


同じアニメーターと呼ばれる職業でも、得意な絵、不得意な絵がある。

たとえば、「ロボットやメカを描くのが得意」「アクションをカッコよく見せるのが得意」「日常的な芝居を描くのが得意」といったものだ。それぞれのアニメーターの特徴や志向に合わせて、参加作品や担当カットも変わってくる。

矢野さんが志したのは、女性の身体をきれいに描くことだった。

矢野茜
なぜ女性の身体に惹かれるのか。自身でその理由を、4歳から習っていた「クラシックバレエ」の影響が大きいのではないかと分析する。
理想的なプロポーションに囲まれ、身体表現の美しさを追求する日々が、アニメーターとしての個性にもつながったようだ。

「こだわっているのは、絵を見ただけで柔らかさを感じてもらうことです。線の強弱を変えたり、ボディラインに気をつけたり……。

特に胸のラインや、太股から膝にかけてのゆるやかな曲線など『見せ方』の部分にこだわりを持っています」

▲矢野さん愛用の羽根ぼうき。消しゴムで修正を重ねる作画には欠かせない。
「あと大事にしているのは髪ですね。サラサラとした感じを表現できるよう研究しました」

電車に乗っていても隣の人の服のシワがどうなっているのか注目してみたり、かわいらしい女性を見つけるとしぐさや表情に注目してみたりした。
普段の生活でも、そういった部分に無意識的に視線が吸い寄せられるという。


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《取材=前田久、沖本茂義/文=気賀沢昌志》
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