■ベテランクリエイターや大手スタジオも参加していた!
――谷口さんは前回の記事の最後で「ハイクオリティアニメとして楽しんでほしい」という旨の発言をされていました。
谷口:たとえば第1話の水彩調のキティちゃんのおうちの背景美術などは、美術スタジオ「青写真」さんにお願いしています。とくに『ひそねとまそたん』や『キルラキル』、『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の背景美術を手掛けた金子雄司さんがノリノリでアイデアを出してくれました。

イム:実はキティちゃんの部屋だけでなく、宇宙空間の背景美術もアナログなんですよ。
――えっ、デジタルで描かれたものではないんですか?
谷口:本作の背景美術は、画用紙に絵の具と筆で描いてデジタルでスキャンしたものです。

イム:キティちゃんのキャラクターに合うように、アナログで描くことであたたかみのある絵を目指しました。
あと面白かったのは、金子さんが美打ち(美術の打ち合わせ)の時に「どういう宇宙でいきますか?」と聞いてくださったんです。
――「どういう宇宙」というのはどういう意味ですか?
イム:ガンダムシリーズでは作品毎に宇宙の描き方が異なるんです。『UC』だとリアル寄り、最近の『Twilight AXIS』では宇宙空間のガスなども描いて色鮮やかです。
その中でファーストは青みが強い宇宙なんですが、今回は昔ならではのアナログ作画でその風合いや星の数や形などを再現しています。各宇宙のサンプルを見せていただき、私も大分勉強させていただきました。
谷口:絵の具だと完全に乾くまでスキャンができないので、今その再現をするのはTVアニメでは難しいでしょうね。製作期間が長い特別PVだからこそできました。
なかなか珍しいものができたと思うので、ぜひ背景美術も拡大して筆のタッチまで楽しんでいただきたいです。

谷口:撮影に関しては、いつものガンダムシリーズでは旭プロダクションさんにお願いしているのですが、今回はハートマークのエフェクトなどパーティクル(粒子)の処理に強いマッドハウスさんにお願いしました。
マッドハウスさんでガンダムを作ることもそうそうないので、こちらもまたノリにノってやっていただけました。

イム:サンライズ社内でも同じでしたが、マッドハウスさんでも撮影の際に「一体何の作品をやってるんだ?」「面白そうで羨ましい!」と話題になっていたそうです(笑)。
――撮影にあたって苦労された点はどんなところですか?
イム:今回は全体的なテイストをファーストガンダムに寄せようというコンセプトだったので、最近のアニメのように全体的に撮影処理をかけるのではなく最低限に留める方針でした。
その中でどうキティちゃんらしい可愛らしさを撮影で表現するかには特に悩まれてたようです。特にファーストガンダムは元々作画の爆発がピンク色なので、それに合いつつも個性が際立つハートマークの形などは、何度もマッドハウスさんと相談と修正をして完成させました。

――作画面ではどういった工夫があったのでしょう? やはり方針としてはファースト準拠ということでしょうか。
イム:ファーストの作画の作法を守りつつ、実はところどころ最新版の技術でアップデートしています。たとえばヘルメットの処理ですが、昔の作画では単色だったヘルメットの手前側と奥側の色味の差を出したり、ハイライトに発光処理を加えたりしました。

谷口:アムロの作画は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で作画監督をしてくださった、ことぶきつかささんにお願いしました。
イム:ことぶきさんも私たち同様、安彦良和さんの『めぐりあい宇宙編』の作画を軸にする方針に賛同してくれました。そのため影のつけ方などは基本的に安彦さんテイストです。
ただ、線の入れ方や瞳の中の作画などは実は少し変えていて、これもことぶきさんの意見を取り入れたアップデートの一つです。
谷口:細かいねぇ……(笑)。
イム:監督という立場で作品作りに携わるのは今回初めてだったのですが、各セクションのみなさんが意見を出し合って作っていけたのがありがたかったです。
それによりラッシュ時よりずっといいものにできたと思います。作っていても楽しい作品になりました。
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