「洗い屋さん」女性視聴者も多かった理由は? レグザ視聴データから分析する“2019年春アニメ” 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「洗い屋さん」女性視聴者も多かった理由は? レグザ視聴データから分析する“2019年春アニメ”

振り返れば最終回の記憶が鮮やかに蘇ってくる2019年春アニメ。数々の人気作・話題作が放送されましたが、客観的に見てどの作品が「多くの人に見られた作品」だったのでしょう? データをもとに分析します。

ニュース
注目記事
『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』(C)トヨ/Suiseisha Inc.
  • 『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』(C)トヨ/Suiseisha Inc.
  • 『世話やきキツネの仙狐さん』(C)2019 リムコロ/KADOKAWA/世話やきキツネの仙狐さん製作委員会
  • 『賢者の孫』(C)2019 吉岡 剛・菊池政治/KADOKAWA/賢者の孫製作委員会
  • 『盾の勇者の成り上がり』(C)2019 アネコユサギ/KADOKAWA/盾の勇者の製作委員会
  • 東芝製TV・REGZA視聴データ
  • 『MIX』(C)あだち充・小学館/読売テレビ・ShoPro
  • 東芝製TV・REGZA視聴データ
  • 『さらざんまい』(C)イクニラッパー/シリコマンダーズ

■作品人気を左右する外的要素とは?


データを分析していくと他にも見えてくることがあります。以下の図をご覧ください。

東芝製TV・REGZA視聴データ
これは『盾の勇者の成り上がり』を見ていた人が、他のどの作品を見ている傾向があるのかを図にしたファン集合相関図です。

グラフの横軸が「『盾の勇者の成り上がり』の視聴者の何%の人がその作品を見ていたか」、縦軸が「『盾の勇者の成り上がり』の視聴者が全体平均に比べて何倍多くその作品を視聴したか」、円の大きさがその作品の視聴者のおおよその数を意味しています。

縦軸の1.3という数字は「全体に比べて1.3倍も多いということは、一緒に見ている傾向が比較的強いと判断できる」という目安です。
つまり、縦軸1.3以上で、さらに右に行けば行くほど「『盾の勇者の成り上がり』の視聴者が見ている傾向が強い作品」ということになります。

面白いのは『盾の勇者の成り上がり』の視聴者の45パーセント以上が全体ランキング8位だった『賢者の孫』を一緒に見ているという点と、逆にランキング1位から3位の『進撃の巨人 Season 3 Part.2』『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』『ワンパンマン』とはそれほど強い相関が見られない点です。

『賢者の孫』(C)2019 吉岡 剛・菊池政治/KADOKAWA/賢者の孫製作委員会『賢者の孫』(C)2019 吉岡 剛・菊池政治/KADOKAWA/賢者の孫製作委員会

いずれの作品も比較的右側に位置していますが、それらの作品は見ている人の総数自体も多いので、相関があるとは言いにくいのです。

つまり、みんなが見ている作品なら誰でも見ているわけではなく、作品ファンの属性に応じて好まれる作品は違うということです。
『盾の勇者の成り上がり』と『賢者の孫』は共に小説投稿サイト「小説家になろう」出自の異世界転生もの、いわゆるなろう系アニメであるという大きな共通点があるため、一緒に楽しんでいたファンが多かったと考えるのは妥当です。

また、グラフ中央やや上に位置している『異世界かるてっと』は『幼女戦記』『オーバーロード』『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』という人気4作品のクロスオーバー作品ですが、これらの作品も出自は例外なく小説投稿サイト「小説家になろう」または「Arcadia」出自のなろう系作品です。
そのため『盾の勇者の成り上がり』の視聴者が「こっちも見ておこう」と思うのも頷けます。

『異世界かるてっと』(C)異世界かるてっと/KADOKAWA(C)Isekai Quartet/KADOKAWA『異世界かるてっと』(C)異世界かるてっと/KADOKAWA(C)Isekai Quartet/KADOKAWA

事実、この3作品はファン集合相関図でも非常によく似た結果が出ています。以下、見比べてみましょう。

東芝製TV・REGZA視聴データ

東芝製TV・REGZA視聴データ

東芝製TV・REGZA視聴データ

『勇者の孫』は『盾の勇者の成り上がり』とほぼ同じ形を示していて、視聴者の他作品視聴傾向が非常に似ていることを意味しています。
『異世界かるてっと』も似た形ですが、他2作に比べると『世話やきキツネの仙狐さん』『ぼくたちは勉強ができない』『ストライクウィッチーズ 501部隊発進しますっ!』との相関がより強めに出ています。
これら3作品と『異世界かるてっと』はいずれも複数の個性的なヒロインたちの存在が作品のキモである点やコメディ色が強い点などが共通しています。そういった点で同じなろう系の他2作とはファン層が少しだけ異なるようです。

なお、今回調査対象となった38作品の中でなろう系アニメなのは実は上記3作品だけでした。その3作品がそれぞれランキング4位、8位、11位(『異世界かるてっと』)といずれも上位を獲得しているのですから、シンプルになろう系アニメは人気があると言えます。
昨今、クールごとに必ず1、2本は新作なろう系アニメが放送され、一部アニメファンからは「またなろう系か」という声も聞かれますが、ビジネス的には非常に真っ当な原作チョイスであり、実際ファンもそれらの作品を楽しんでいることが分かります。

ところで、『盾の勇者の成り上がり』と『賢者の孫』にはもう1点大きな共通点があります。それは同じ日に放送していたということです。

『盾の勇者の成り上がり』は2019年1月よりAT-Xにて毎週水曜夜22時から、『賢者の孫』は同年4月から同じくAT-Xにて同日23時半から放送していました。『盾の勇者の成り上がり』は2クール作品ですので、後半1クールは放送終了1時間後に『賢者の孫』が放送されていたわけです。
そのため『盾の勇者の成り上がり』視聴者は、その後に続けて『賢者の孫』を見ていた可能性が高いのです。

「なんだ、同じ日に放送していたなら相関が強いのは当たり前じゃないか」と思いきや、そうとも言いきれません。『盾の勇者の成り上がり』と同じチャンネルの次の枠で放送していたのは、先述の『世話やきキツネの仙狐さん』です。

『世話やきキツネの仙狐さん』(C)2019 リムコロ/KADOKAWA/世話やきキツネの仙狐さん製作委員会『世話やきキツネの仙狐さん』(C)2019 リムコロ/KADOKAWA/世話やきキツネの仙狐さん製作委員会

もし、単に『盾の勇者の成り上がり』視聴者が『賢者の孫』放送開始までずっとTVを見ていたのだとしたら、『世話やきキツネの仙狐さん』も同じく相関が強く出るはずです。ですが、実際には下図に示した通りそれほど強い相関関係はありませんでした。

東芝製TV・REGZA視聴データ
『盾の勇者の成り上がり』放送終了直後の『世話やきキツネの仙狐さん』を見ずに1時間後の『賢者の孫』を見ている人が多いわけですから、やはり『盾の勇者の成り上がり』と『賢者の孫』は視聴者層が特に濃く重なっていたと考えられます。

同じ日の近い時間に同じチャンネルで放送していたことで相乗効果が生まれ、結果的に両方ともランキング上位に食い込めた、という面もあったかもしれません。
もし『異世界かるてっと』も同じ日に放送していたら、さらに強い相乗効果が生まれ、なろう系アニメ3作品がランキングのもっと高い位置を占めていたことも考えられます。

『MIX』の例と同じく、作品がどれだけ見られるかには作品の質などの内的要因だけでなく、放送日や時間、他の番組の放送時間との関連などの外的要因も影響している可能性があります。

これは言い換えると、作品の中身だけが数値に表れるわけではない、つまり見た人が多いアニメや売れたアニメ=質が高いアニメ、とは言い切れないということでもあります。
アニメ!アニメ! でも作品の人気ランキングを発表することがよくありますが、ランキング順位が作品の質を意味するわけではないということにはご留意ください。作品の価値はひとりひとりの視聴者の中にあるものです。


→次のページ:「これなら安心して作品に期待できる!」という要素とは?
《いしじまえいわ》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集