■アニメ業界に入った経緯、クリエイターとして追求したいことは?
――せっかくなので、作品のことだけでなくお二人の経歴についてもお聞きしたいです。石井監督はアニメ業界にどういったきっかけで入られたのでしょうか?
石井:僕は大学で物理を専攻していたのですが、アニ研に入りそこで楽しさに気づいて、こっちの業界に来ました。
そうすると、面接では「大学で学んだ物理は、アニメづくりにどう活かせるの?」と聞かれるんですよ。絶対聞かれるんだろうなと思いつつ、回答を用意してなくてあたふたした記憶があります(笑)。
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――アニメのどこに楽しさを見出されたのですか?
石井:物理って物の動きを計算したり、解析していくわけですが、アニメは自分のルールで物語やキャラを動かせるのがいいなと思いました。良くも悪くも自分で制御できる部分が多い。そこは今後も楽しみながら表現していきたいですね。
――アニメは実写と違い、意図を持って描いたものしか画面に出てこないですからね。ちなみに、先ほど面接でも聞かれたとおっしゃっていましたが、物理を学んだことでアニメづくりに活かせたものはありますか?
石井:どうでしょう……むしろ、「計算式とか覚えなくていいのは、なんて楽なんだ!」と思うぐらいで(笑)。ただ、正解・不正解がはっきりしている物理と違って、作品づくりには明確な正解がない。感性がより大事になってくるので、そこはまだまだ勉強中ですね。
――では、秦さんはどのような経緯でアニメ業界に入られたのでしょうか?
秦:アニメの専門学校を卒業して、テレコムに入社したのが入り口です。その頃は動画や原画を担当していました。その後、フリーとなって知り合いのツテでマッドハウスの仕事を紹介してもらい、そこからTVシリーズに関わることが多くなってきました。
そこからどんどん知り合いが増えていき、他社からもお仕事をちょこちょこもらえるようになりその流れで『ミライの未来』の現場もあり……という感じです。
――アニメーターとしては、どういったものを描くことに関心がありますか?
秦:キャラクターを動かしてお芝居させることです。たとえば男性と女性で動かし方がまったく変わってくるんです。「このキャラクターはこういう性格だからこう動かそう」とお芝居を考えながら描くのが好きです。
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――そういった芝居や動きをつけるうえで影響を受けたアニメーターはいますか?
秦:『かぐや姫の物語』でお仕事をご一緒させていただいたアニメーターの小西賢一さんや田辺修さんです。ちょうどお芝居の作り方に行き詰まっていた時期だったので、とても勉強になりました。
お芝居の考え方を原画から読み取ることで、自分の中で世界が広がった感覚があります。ご一緒させてもらい光栄でした。
――「アクションでガンガン動かしたい!」というよりは、とにかく日常芝居がお好きなのですね。
秦:日常芝居は地味ですが、広げる余地があるんですよね。
石井:腕が試されますよね。たとえばコンテだと「歩く」としか書いてなくても、どう歩くかはアニメーターさんに委ねられることが多いので。
秦:そういった芝居をそのキャラクターの性格や背景を踏まえながら描くのが好きなんです。ひたすらそれだけを追求してきたので、今回のキャラクターデザインはとても難しかったですね……。
石井:とはいえ、秦さんがこれまで培われたきたことが今作でも活きていると思います。秦さんが描かれた各カットの表情やポーズの参考絵にはとても助けられました。
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僕も3Dは初挑戦だったので、動きをどこまで見られるか不安だった部分もありましたが、何かあった際は「この絵に合わせてください」という良い基準があったので。
■ターニングポイントとなる仕事を経て、今後の展望は……?
――改めて、『そばへ』の「ここに注目して欲しい!」というポイントは?
石井:猫の動きやポンチョなど、画面の隅々まで観てもらえると嬉しいです。あとは、美術監督の赤木寿子がアドリブで入れてくれたのですが、町中の看板にスタッフの名前が入っていたりします。そこもチェックしてみてください(笑)。
秦:確かに猫の動きはすごく可愛いいですよね。なおかつ2Dに寄せた動きにしてもらっています。
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――再びタッグを組まれる機会があったとしたら、それぞれお互いのどういった仕事を見てみたいですか?
石井:今回、秦さんにデザインしてもらったキャラは人間がメインだったので、今度は動物メインのお仕事も見てみたいですね。猫がとても可愛かったので、猫を前面的に押し出したキャラクターとか!
秦:(笑)。私は、石井さんが思い切り描く恋愛ものを見てみたいですね。今回も織り交ぜているらしい、ご自身のご経験をフルに活かしたものを!
石井:あんまり経験がないのに恋愛ものですか! どんなのになるんだろう……(笑)。
――楽しみにしております(笑)。お二人は『そばへ』でそれぞれ初監督と初キャラクターデザインを担当されて、本作がひとつのターニングポイントになったかと思います。今後の展望はどうですか?
石井:今回、マルイさんのインクルージョンというテーマは大事にしつつも自由にやらせてもらったのですが、もしまた監督をやらせていただけるなら、『そばへ』とは反対に、素直に飲み込めるストレートな作品も作ってみたいです。
あと今回、VFXの物理シミュレーションを使ったりと、3DCGならではの映像表現ができて、そこも面白かった。ぜひまた3DCGにチャレンジしてみたいですね。
秦:初めてのキャラクターデザインでしたが、「どういうデザインなら多くの人に受け入れてもらえるだろう?」と模索することがこんなに大変だったとは……(笑)。
今回はリアルな頭身のキャラクターだったので、もし機会があれば3頭身ぐらいのデフォルメされたキャラクターデザインにも挑戦したいです。
あと、アニメーターとしては、引き続き動きや芝居を追求していきたいです。テンプレートな動きではなく、キャラクターの性格を加味してリアルな俳優さんのように幅を持たせた絵を描きたい……そういうカットが石井さんのお仕事で来たらいいな……なんて(笑)。
石井:いいですね! こちらこそぜひお願いします。