初日に実施されたプレス向け内覧会では、同展覧会プロデューサーの布川ゆうじと4人のアーティストが展示作品について語った。
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約1400点にもおよぶ展示作品は、秋本治の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、天野喜孝の『ファイナルファンタジー』シリーズ、大河原邦男の『機動戦士ガンダム』、高田明美の『魔法の天使 クリィミーマミ』といった代表作だけでない。中には未発表作品もあり、「チェンジ・アンド・チャレンジ」と題した4人がそれぞれに描いた他アーティストの代表作品も見ることができる。
■布川ゆうじ
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布川と4人のアーティストは、今から45年ほど前に日本を代表するアニメ制作会社・タツノコプロで共に働いた間柄。
布川によると、開催のきっかけは2017年の暮れに開催されたかつてのメンバーによる同窓会の席だという。4人にそれぞれボードに描いてもらったラフ絵の素晴らしさに、ラフ絵の展覧会を思いついた。
布川は「近年はタブレットのペンを使って絵を描く人が増えましたが、鉛筆で白い空間に描いた躍動感のある線を感じ取って欲しい」とアピールする。
「チェンジ・アンド・チャレンジ」についても「彼らの若い時分でもこういったチャレンジはなかなかできない。僕がお題を出して彼らが答えてくれた。文化祭のようなノリで取り組んでいるので、見て楽しんで大笑いして欲しい」と呼びかけた。
■大河原邦男
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日本初のメカニックデザイナーとして、『科学忍者隊ガッチャマン』でデビュー以来、48年間で数々のメカをデザインした“メカ職人”の大河原「他の3人は自ら絵を描くアーティストだが、自分はオファーがあってから絵を描く職人に徹している」と語った。
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48年前の同日(4月2日)は、大河原がタツノコプロに初出社した日でもあった。
当時はアニメーターとして背景画を描く美術課に配属されたものの、上司の中村光毅に10月から始まる新番組『科学忍者隊ガッチャマン』のメカデザインをやってみないかと聞かれ、右も左も分からないまま引き受けたことで才能が開花した。
『ガッチャマン』放送後は背景担当に戻る予定だったが、同作は大変な人気を得て2年間で105本も放送されたため、メカデザインを描き続けることになった。
間もなく、同じくヒットアニメ『ヤッターマン』でメカデザインも担当することになり、シリアスだけでなくギャグアニメ向けのメカデザインテクニックも身に付けることができた。
しかし、当時描いたラフは全て残っていないという。大河原は「自分にとって、ラフ絵はクリーンアップされていくものなので、放送された作品のラフ絵は基本的に処分している。今回飾っているのは、この10~15年の間に企画が立ちあがったものの、放映に結びつかなかった作品がメインになっている」と明かした。
また、大河原は他の3人と展示内容が違う点として、自らのデザインを元に作成したモックアップを展示していることを挙げた。
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「チェンジ・アンド・チャレンジ」では、3人の功績を汚さないように神経を使ったものの、楽しかったと振り返る。中でも『魔法の天使 クリィミーマミ』は、通常、自身に来ることがないタイプのオファーであるため、とくに楽しかったそうだ。
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■秋本治
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「週刊少年ジャンプ」(集英社)で40年にわたって連載された代表作『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の約50本のネームに加え、現在連載中の新作のラフ絵が展示された。しかし、当初は編集者にしか見せない作品の設計図であるネームを見せることに懐疑的だったと明かした。
秋本は「ところが、同展覧会のスタッフに試しにネームを見せたらすごく反響があったので、やってみようと思ったんです」と心境の変化を語る。
さらにネームはすっぴん、完成原稿は化粧だと例えた。そのうえで、ネームを冷静に起こしていくのが原稿であるため、元のネームの躍動感がある“すっぴん感”が良いと感じていると述べた。
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「チェンジ・アンド・チャレンジ」では、『装甲騎兵ボトムズ』から劇中の人型ロボット兵器・アーマードトルーパーがこたつで麻雀をしている風景を描いた。「タツノコプロの仲間なので、ここまでは良いだろう」と探り探りアレンジしつつ、銃を撃つために指を鍛えているという設定で描いたという。
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