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“アニメアーカイブ”の現状と課題は? プロダクションI.G所属の“アーカイブ担当”にインタビュー

「アニメは日本が誇る文化だ」――こう聞いて首をかしげる人はもう少なくなったと言っていいだろう。

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  • 「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 原画集 -Archives-」(C)1995士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
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■「のこす」「捨てる」その判断基準は?


――貴重な資料を捨てるのはもったいない気がしますが、倉庫の維持コストなどが問題なのでしょうか。

山川
プロダクション I.Gでは現在資料保管用の倉庫会社に預けていて、会社から保管量の制限を受けていませんので、非常に残しやすい状況になっています。とはいえ「どの資料も大切なので捨てられません」では会社から管理を任されません。
遺すもの、廃棄するものを選別し、使いやすいように適切な規模になるようコントロールしているからこそ「これは保存すべきです」ということも説得力を帯びてくるので、貴重な資料を遺すためにはある面では捨てることも必要なんです。

――シビアですが、闇雲に全部残していてもかさばるし、多すぎて使えないとなると「じゃあ要らないよね」ということにもなりかねないので、確かにそうですね。資料の廃棄はどのタイミングで行うのですか?

山川
どの資料に価値があり、収益を生むかは作品を作った時も公開が終了した時もまだ分からないので、公開後1年間は全て取っておきます。1年経つと続編の有無やパッケージの売り上げ傾向もだいたい分かるので、その結果を見てそこで絞ります。
それまでにどれを残しどれを捨てるかはだいたい決めておいて、4月になったら入社したての新入社員さんにその分別業務をしてもらっています。

――結構つらい仕事ですね。

山川
これからアニメーターさんたちと一緒に作品を作っていこうという新人さんにいきなり捨てるための分別をさせるんですから、そうですよね。
でもこれによってカット袋を実際に手にして、どれが動画でどれが原画でどれがレイアウトで、1つの作品を作るためにどれだけ膨大な量の絵が描かれているのかを、見て触れながら学ぶことができるので、新人研修にはとてもいいんです。実際に制作に入ってしまうとなかなか落ち着いて見ることができませんから。

廃棄する前にはTV局や原作出版社、パッケージ会社などの製作委員会の関係会社、さらに制作サイドとビジネスサイドのプロデューサーらに廃棄の旨を伝え、他に遺したいものはないか、もし捨ててはいけないなら倉庫代のコストはどうするか、などの相談をしています。

――廃棄の基準はどのように決めているのでしょうか。先述の通り、取材対応に使えるかどうかと、社内勉強用になるかということでしょうか。

山川
おおむねその通りですが、文化的に価値があるか、商品に転用できるかなど他にもいくつかの判断規準があります。
私はクリエイティブに近い制作進行と外向きの広報の両方を経験しているので、両方の価値基準で判断するようにしています。
また難しいのが、残す理由と同時に捨てる理由も考えなくてはなりません。

――「基準を満たしていないから」ではダメなのですか?

山川
社内には実際にそのカットを手掛けたアニメーターさんがいて、「あのシーンある?」と聞かれることもあるんです。

――なるほど、面と向かって「基準以下だったので」とは、ちょっと言えませんね……。

山川
だからこそ、捨てる理由も聞いた人が納得できるレベルまで考えておく必要があるんです。

資料倉庫。保管が決まった資料やDVD、CD、ソフトウェアなどが並んでいる

■アーカイブした資料を版権ビジネスに積極利用する



――アニメのアーカイブが専門性の高い仕事であることがよく分かりました。それでは、アーカイブグループの直近の動向についても教えてください。

山川
2014年のことですが、たまたま管理の過程で社内に置いてあった『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の資料が企画室の郡司 (『宇宙戦艦ヤマト2199』『銀河英雄伝説 Die Neue These』等のプロデューサーを務めた郡司幹雄氏)の目に留まり「これ、売れるんじゃない?」ということで原画集として出版されるに至りました。およそ20年前のアニメ作品の原画がしっかり保管されているということは本当に貴重で、この原画集は発売から3年経った今でも売れ続けていて、先日5刷の重版がかかったそうですこういった事例もでてきたことで、アーカイブしてきた資料が経営戦略的にも積極利用されるようになりました。

――10年間こつこつと整理してきた資料が、そういった形で大きく活用されることになったんですね。

山川
以降、企画室主導の作品イベントでの原画展示や、資料を基に制作したグッズの販売、原画集の出版、渋谷マルイ内のI.Gストアの展開などに利用されています。
中間成果物などの資料を活用した展開がビジネスとして成立し、版権収入につながるようになってきました。以前はコストや人を割いてまで資料を保存する必要はあるのかと言われたこともありましたが、今は資料保存と、それを利用した収益の循環が生まれ、版権運用による収益のひとつになっていますので、安定的にアーカイブできる環境が整っています。倉庫が安定的に利用できるのも収益化できているおかげです。

「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 原画集 -Archives-」(マッグガーデン刊)
(C)1995士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

――企業内でアーカイブをするためには、企業の原則である利潤の追求に合致している必要があるんですね。昨今、アニメ制作会社の倒産がニュースにもなっていますが、資料の保存と利用はアニメ会社が生き残るための1つの手段になり得ると感じました。

山川
そうですね。ただ、アニメスタジオにはクリエイティブに意識の高いスタッフが多いので、資料の管理やそれによる利益化を目指すのであれば、会社の外からビジネスマインドを持った人を雇う必要があると思います。
私も広報でしたし、郡司も他業界から転職してきたという経歴です。また、そういったビジネスへの意識はアニメアーキビストの側に必要な能力でもあると感じます。

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《いしじまえいわ》
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