「今までが日本アニメにとってのボーナスタイム」識者が語る中国アニメ市場のリアルは? 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「今までが日本アニメにとってのボーナスタイム」識者が語る中国アニメ市場のリアルは?

中国アニメ市場のリアルを、中国オタク事情に精通している百元籠羊氏にインタビュー。実際のところは中国のアニメ愛好家にとって日本のアニメはどういう位置づけなのかを訊いた。

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  • (c)2015 October Animation Studio,HG Entertainment

■中国ではヒットする日本のアニメの条件


――中国ではどのような日本のアニメがヒットしていますか?

百元
アニメ視聴者の好みの変化が激しいので一概には言えません。劇場版アニメ映画を例に出すと、『君の名は。』が中国で大ヒットしました。しかし、作品のパワーに加えて、宣伝など全てが上手くいった例外的な結果だったと言えます。
その後、日本のアニメ関連映画は当たると、二匹目のドジョウを狙って『銀魂』など3~4本程が中国で公開されましたが、現地のアニメ視聴者の間では一定以上の評価を得られていても、中国の業界的な感覚からするとお世辞にもいい評価ではなかったですね。

オタク向けとしてパワーがある作品を見たいという要求は強いものの、特定のジャンルには絞れないところがあります。そもそも、世代の入れ替わりによる環境の変化が激しく、2~3年違えば好みも趣味に使うお金の感覚も違ってきます。このジャンルが当たったから次も当たるとはなりにくいですね。

ただし、一部のアニメ製作会社のブランドイメージは定着しています。例えば、1月の新作アニメは、京都アニメーションの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と、TRIGGER×A-1 Picturesによる『ダーリン・イン・ザ・フランキス』が重なりましたから「日本のアニメの2大ブランドが衝突するすごいシーズンになるぞ」と中国では盛り上がり、4月になっても引きの強いアニメとして『ダーリン・イン・ザ・フランキス』が人気を維持しています。
ところがふたを開けてみたら、日本では『ポプテピピック』が話題をさらっていたので、現地では戸惑う声も多く聞かれました(笑)。

――日本では放送後も人気が継続するアニメが少なくありません。その点では日本のアニメは中国ではどうでしょうか?

百元
実は中国の環境と笑いのツボに刺されば、人気継続するのがギャグ系アニメ作品です。これは『銀魂』からの流れですね。
中国のビリビリ動画は、日本のニコニコ動画的なコメント弾幕でツッコミながら楽しむ疑似同期的な視聴なんですね。これが中国のオタクにとっては主流な視聴スタイルになっています。

1月も『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ダーリン・イン・ザ・フランキス』が話題的には大きかったですが、全体的な再生数で見れば同じ1月放送の新作アニメ『斉木楠雄のΨ難』が上でした。4月から放送開始した同じギャグ系の『ヒナまつり』も再生回数で良い調子をキープしています。

ストーリーが壮大で面白いとされるアニメは配信が終わって次のシーズンになると、ファンがあっさりと次の作品に移る傾向があります。日本ならグッズ展開もそうですし、原作のマンガなり小説なりのメディア展開がありますが、中国ではアニメ放送しかないので配信が終わると急速に熱が冷えてしまうんですね。
続編もこれのせいで第1期が大ヒットしたはずなのに、第2期はパッとしないということもよく見られます。中国向けにアニメビジネスをやる場合は考慮しなくてはいけない部分ですね。

■中国の国産アニメVS日本のアニメ


――国産アニメと日本のアニメどちらの人気が高いのでしょうか?

百元
国産アニメはオタク層に限らず一般向けに作られていますから、日本のアニメよりも常に大きい市場があるので、人気ということに関しては国産アニメには絶対敵いませんよ。日本のアニメが独特なのは、国産アニメが独占する市場の中で、隙間に上手く入れることでしょうか。

言ってみれば、オタク向けの非常にマニアックで、さらには好みがバラけたところをカバーしていますから。その方向での需要というのは今後もさらに続くことが考えられます。ただ、今までが日本のアニメにとって、ボーナスタイムだったということは間違いありません。

まず今の中国の若い世代はアニメを観ることに関して日本より抵抗がないんですね。そういった環境で主に観ているのが、昔は日本のアニメが結構な割合でしたが、今は国産のCGアニメが主流です。CGアニメを観て育つ世代が増えているので、日本のアニメの文脈を汲んだ見方が理解できない。あるいは、勉強しなければ入りにくいケースが起きています。そのあたりの良いと感じるセンスの違いがさらに出てくる可能性はありますね。

また内容に関しても中国では武侠作品が昔も今も基軸にあって、アニメにしろ、ゲームにしろ、その文脈に則って作られている作品が多いですから、日本の造り手と中国の受け手の感覚はどんどんズレていくことが予想されます。

――中国はアニメビジネスの市場として注目されていますが?

百元
中国ではアニメビジネスの勢いがすごいと言われますが、国産アニメに投資される金額は大きいものの、収益で見るとまだ模索段階なところがあります。作品が人気を稼げても、そこから株価以外で収益を得ていくのかが難しいようです。
日本のアニメにしても同じで、日本側は中国側にアニメの放映権を売るだけですが、中国側が買ったアニメの放映権をどのように活かしてビジネスに繋げていくのかとなると、アニメを取り巻く環境が毎シーズン変化しているので非常に読みづらいところがあります。

国産アニメに関しては、CGは世界トップレベルですから、上手く資本を投入して継続的に作ってくれれば、『西遊記』のようなヒット作品が次々に生まれると思うんですが、現実はちょっと“焼き畑農業”のようですね。

(c)2015 October Animation Studio,HG Entertainment
『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(C)2015 October Animation Studio,HG Entertainment

“焼き畑農業”というのは、中国では企画前提でアニメ製作を始めてしまい、視聴者の反応を拾えないまま、グダグダになることが少なくないからです。アニメを作るだけで止まり、そこから展開させる、人気を維持する、ファンを楽しまながら育てるといった、ひとつのコンテンツで継続して稼ぐことがあまり上手くいっていない。これはソーシャルゲームの運営などにおいても苦戦しているところですね。

もちろん、これが悪いわけではなく、次々に作品をヒットさせて稼いでいけばいいのですが、オタク向けでファンの間で盛り上がる場合には、すぐに燃料切れを起こして逆に沈下してしまう所もありますので、“焼き畑農業”だと相性が悪い気がしますね。
《乃木章》
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