グラフィックデザインとアニメにはどのような関係があるのか? アニメファンに馴染みの深い事例が盛りだくさんのセミナーに参加した。
本セミナーではゲストとして草野剛デザイン事務所より草野剛氏、クリエイティブチームBALCOLONY.より染谷洋平氏が登壇し、グラフィックデザイン誌「MdN」の本信光理編集長と同誌元編集の野口尚子氏がモデレーターを務めた。
草野剛デザイン事務所とBALCOLONY.では、現在業務の9割がアニメ関連のものだという。本セミナーではまず各事務所がどういった作品を手掛けてきたかの紹介し、その後第1作品を取り上げて各々のデザインの方向性を語る、という流れとなった。
草野剛デザイン事務所の事例で挙げられたのはSF小説『BEATLESS』原作の装丁やしおり、TVアニメ『THE IDOLM@STER』のビデオパッケージ、国立新美術館で行われた企画展「Manga*Anime*Games from Japan」の展示、初音ミクレーシングver.2015の車体デザインなど。
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BALCOLONY.からは『魔法少女まどか マギカ』『ニセコイ』のパッケージデザイン、「MADOGATARI展」のメインビジュアルやティザーサイト、コミック百合姫の表紙デザインなどが紹介された。
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BALCOLONY.の仕事の具体例として挙げられたのはTVアニメ『冴えない彼女の育てかた♭』のパッケージデザイン。外側だけでなくスリーブ、防水バッグ型の内箱、特典グッズなども手掛けた。
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作品自体が時事ネタや実在する作品名が登場するなどメタ的要素を含むものだったため、特典グッズもキャラクターたちが本当に持っていそうなものをリアルにデザインしている。例えば携帯電話型の特典グッズでは、その巻の登場人物が作中でした電話の着信履歴がデザインされているという。
こういった作品愛に富んだデザインを、草野氏は「美少女ゲームなど、彼自身が女の子を愛でる文化を通ったからこそ。文化を継承している」と評した。染谷氏としては「グラフィックデザインのスキルで確実に上を行っている、草野氏含む先輩たちと戦うための生存戦略」だという。
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草野剛デザイン事務所の具体例としてはTVアニメ『文豪ストレイドッグス』のパッケージデザインが挙げられた。
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白と黒のシンプルなバイカラーデザインには、探偵事務所とマフィアの対立という意味が込められている。
アニメのビデオグラムは大人が買う嗜好品のため、何年経っても古びれない、トレンドに流されないものにすべきというのが草野氏の考えだ。擬似ユーポス加工によりパッケージ表面に光が反射すると作品モチーフとなった小説の一節が浮き出る仕掛けが施されているが、それすら「最低限のサービス」だという。
「ある程度デザインのトレンドを追う必要はありますが、トレンドは必ず陳腐化します。それに、デザインのトレンド自体は作品とは何の関係もありませんから」と、シンプルなデザインの必要性を説いた。
それを受けて染谷氏は「料理人が肉をどう出すか? で考えれば、自分はしっかり味付けして盛り付けもこだわって、というタイプ。草野さんはシンプルに塩だけ、という感じ。どっちの肉が食べたいかは日によるので、優劣ではないと思う」と、デザインの多様性について説明した。
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司会から今後のアニメとグラフィックデザイナーとの交わりについて問われると、草野氏は「市川崑監督作品の明朝体は庵野監督に受け継がれたし、『機動警察パトレイバー2 the Movie』冒頭の篠原のモニターグラフィックスデザインは『マトリックス』の元になるなど、アニメとグラフィックデザインとは元々関わりがあり、世界的に見ても素晴らしいものもあった。ただ近年、そういった流れが途絶えていたように思います」と答えた。
それを受けて染谷氏は「『輪廻のラグランジェ』のメカデザインは日産のカーデザイナーが担当している。『ガールズ&パンツァー』の町おこしもアニメと異業種のコラボであり、デザインもそのうちの一つ。グラフィックデザイナーだからアニメと絡める、ではなく、デザインスキルも含めて持てる能力を活かしてどうアニメ作りに参与していくか? という姿勢が重要」と語った。
[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]