「囚われのパルマ」キャラデザ実田千聖に迫る 厚塗りに隠された苦労とは 3ページ目 | アニメ!アニメ!

「囚われのパルマ」キャラデザ実田千聖に迫る 厚塗りに隠された苦労とは

カプコンより好評配信中のスマホアプリ『囚われのパルマ』。本作のキャラクターデザインを手がけるのはカプコンのグラフィッカー、実田千聖さん。その実田さんにインタビューを敢行しました。

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「囚われのパルマ」キャラデザ実田千聖に迫る 厚塗りに隠された苦労とは
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◆カプコンの自由な社風に惹かれ


――ここからは実田さんご自身に迫りたいと思います。カプコンへ入社した経緯や入社後の話などをお聞かせください。

実田:ユーザーとしてカプコンのゲームに触れていた頃、『ストリートファイター』や『バイオハザード』や『私立ジャスティス学園』などがリリースされていて、この会社に入ったら面白いものを作らせてもらえるんじゃないかなというのがありました。その当時カプコンにはデザイン室という部署があって、社外の仕事もしていたんです。今は独立なさった安田朗さん(「あきまん」の通称で知られるイラストレーター)が『∀ガンダム』のキャラクター原案をなさったりしていて。「この会社どんだけ自由なんだ!」と(笑)。ゲームの開発もできるし、もし腕があれば社外の仕事もできるという期待感もありました。

――ロボット繋がりで『マクロスΔ』のキャラクター原案を担当されたのは、先輩に続いてといいうことで感慨深いものがあったのではないでしょうか?

実田:そうですね。社外の仕事を受けること自体、カプコンは10年ぶりくらいでしょうか。とてもありがたいです。

――カプコンに入社して初めてされた仕事の話などをお聞かせください。

実田:入社してから10年は背景デザイナーとしてさまざまな作品に携わりつつ学ばせていただきました。

――ずっと背景を描いていて、キャラクターの仕事がしたいというフラストレーションがあったのではないでしょうか。

実田:ありましたね。「絶対できるはずなのに、先輩方がわかってくれない!」と思っていました(笑)。その頃は先輩方がどんな難しい仕事をやっていたのかが汲み取れなかったんです。だからずっと周りがおかしいと思っていたんですが、5年経っても周りがそのままで、「流石に5年間ずっと周りがおかしいのは変だな……はっ、もしかして私がおかしいのか!?」と思い、例え私に腕があったとしても、頑張る姿勢を見せなければ人から信用されないということに気が付いたのです。そこに気が付くまで5年くらい不貞腐れていました(笑)。

――そこに気が付いてからキャラクターデザインを任されるまで、どんなことがあったのでしょうか。

実田:先輩方に「どんな働き方をすれば重要な仕事を任せてもらえるようになるのか」と質問したんです。そこで「たくさん頭を使う事」「お客さんに喜んでもらうことを一番の目標にする事」といったアドバイスをいただきました。それまでは自分のことばかりを考えていて、目標が見えにくかったんですね。お客さんが喜んでくれることを目標にしたら、何が正解かがすぐわかるようになりました。それからは自分の担当作業を余裕を持って終わらせるようにして、「周りが困っていれば手を貸せるようにしていこう」「これを数年続けていけば責任のある仕事も任せてもらえるようになるんじゃないか」と思ったんです。


――そんな下積みを経て『エクストルーパーズ』でキャラクターデザインに抜擢されたのですね。起用された時はプレッシャーもあったのではないでしょうか。

実田:プレッシャーは感じませんでした。「失敗したらどうしよう」という想像力がないからじゃないかな(笑) それよりもやっと仕事を任せていただけるという喜びの方が大きかったです。キャラクターデザインを任された背景には『エクストルーパーズ』の成り立ちが影響しています。もともと『エクストルーパーズ』は『ロストプラネット』の派生作品でハードな雰囲気のゲームを作る予定で、私は背景とUI(ユーザーインターフェース)の担当として参加していたのですが、途中で方向転換してコミックっぽい、明るく元気な作品にするとなったんです。ただ、それだと最初に集めたメンバーでは実現しにくい方向性になってしまって。明るくてデフォルメの利いた絵が描ける人材が、たまたま背景班にいた私だったんです。

――もし方向転換がなければ、キャラクターデザインの仕事を任せられるタイミングはまだ先であったかもしれませんね。

実田:そうですね。まさにタイミングでした。

――TVアニメ『マクロスΔ』のキャラ原案を担当するまでの経緯についてもお聞かせください。

実田:『マクロスΔ』企画立ち上げ当時、総監督の河森正治さんはなるべく「色」のついていないデザイナーを探されていたそうです。というのも、『マクロスΔ』は『マクロス』シリーズの新作ではありますが、過去作の続編ではないことを意識されていたようで、過去に起用したデザイナーではなく、まったく新しいデザイナーである必要があり、キャラクター原案がなかなか決まらなかったそうです。

――まだ色がついていなくてしっかりデザインができて…となるとハードルが高いですね。

実田:キャラ原案の担当者を決める会議が開かれていたそうですが、いろんな可能性を探りつつ、3か月経ってもなかなか目途が立たなかったそうです。そんなとき安田監督が「『エクストルーパーズ』の実田さんはどうだろう?」って提案してくださったのです。『エクストルーパーズ』のアニメーションPVをサテライトさんが作られていまして、その時絵コンテや監督を担当してくださったのが『マクロスΔ』監督の安田賢司さんだったんですよ。


――初めてアニメーションのキャラクター原案をされたということですが、ゲームとアニメのデザインの違いや意識して変えた点はあるのでしょうか。


実田:『囚われのパルマ』のスチルのように、ゲームだったら最終的な成果物まで責任をもって見られるので、難しい情報量でもフォローしきれます。しかし絵をたくさんの人数で動かすアニメは、誰にでもわかる記号を持っていないと違うキャラクターに見えてしまう可能性があります。遠めに見てもわかるくらいのデザインに落とし込む必要がありました。

――誰にでも通じる記号化をするということですね。ちなみにゲームとアニメ、どちらが自分に合っていると思いましたか。

実田:“どちらが”と決めるのは難しいですが、『囚われのパルマ』に関して言うと、基礎力がないと描けない絵なのでとても苦労しました……やっぱり私、好きなんですよ。二次元が!二次元が好きなんです!!(笑) 『マクロスΔ』の方は、まず河森総監督の「こういうマクロスにしたい」という夢を叶えることを目指してやっていたので、「二次元的な記号をどう処理するか」というところで深く関われた実感があります。

――『エクストルーパーズ』や『マクロスΔ』のような二次元から、『囚われのパルマ』のようなリアル路線と作風を広げていますが、グラフィッカーとしての今後の目標などありましたらお聞かせください。

実田:体力づくりです(笑)。先輩方に「お前は精神力だけで動いている。倒れるなよ」と注意されるので……0か100かみたいな働き方をする癖があるんです。……でも、もっとカッコいい目標が言いたかったです(笑)。

――いえいえ(笑) ご自身の画風とは異なる『囚われのパルマ』は新しい自分の可能性を見つけるきっかけになったのではないでしょうか。

実田:同じ絵柄でずっと描いていると勉強する分野もそこまで広がらないので、『パルマ』は自分の糧になったと思います。一方で背景デザインも自分ではコアジョブだと思っているので、もっと極めていきたいなと思っています。キャラまわりの作業をすると精神力を使ってしまいますが、背景なら倒れずに安定して作業ができると思うので(笑)。どのチームに入った時も、「このゲームは絶対面白くなる!」という持ちが働く動機になっています。チームの目標に対して正確な仕事が出来た時の面白さにやりがいを感じるんです。だからキャラクターも背景も、全部やりたいですね!そうなるとやっぱり体力が必要なんです!

――なるほど!貴重なお話をありがとうございました!

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実田さんはとても気さくでユーモアのある方で、インタビューは和気あいあいとした雰囲気で進みました。作り手として携わっているゲームやアニメへの愛情が深く、キャラクターに寄り添った丁寧なデザインをされている実田さん。責任のある仕事を任されるための努力、そしてキャラクターに対する深い愛情が素敵な作品へと結びついているのではないでしょうか?今後のお仕事にも注目です。

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[INSIDE/www.inside-games.jpより転載記事]
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