――霊幻の朝の行動はどのように吟味していったのでしょうか。
佐藤
男の人が実際にどういう朝を迎えるのか、いろいろ想像しました。ただ、霊幻はミステリアスだけど、それほど特別なことはしないんじゃないかと思いました。だから部屋の中にある植物に水をやったり、タバコを吸ったりという描写にしました。
――飲んだコップの水をそのまま植物にやるのは、妙に霊幻ぽくて印象的ですね。
佐藤
じょうろを使って水をやるより、一人暮らしの男の生活ですし、コップの方が現実味があるなと思って。これは実写の撮影中にふと思いつきました。
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――タバコを吸う霊幻というのもまたモブの前とは違う一面が見られるし、しかも仕草が色っぽいんですよね。
佐藤
モブに会うまでをモノクロにしたことで、画面が地味にならないよう、仕草に色っぽさを残したいなあというのは意識して作っていました。BONESの女性の制作さんの意見も参考にさせてもらいました、どの行動がときめくかを聞いたりして(笑)。だから、霊幻のファンの方がいろいろと反応してくださっているのは「伝わったんだ!」と思えてうれしいです。
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――最後にモブに会う時に、初めて色が付きますが、ここはどなたのアイデアだったのでしょうか。
佐藤
私が全編モノクロにしたいと提案して、最後に色が付くというのは監督のアイデアです。どういう意図かはまだ詳しく聞いていないですね。
――本放送でエンディング映像を見たときはどんなお気持ちでしたか?
佐藤
放送直前まで「本当は流れないんじゃないか」とずっと疑っていたんです(笑)。というのも、技法が独特なので作品を邪魔しているんじゃないかと不安で。でも本編を見ていたらいろんな作画があるし、ペイント・オン・グラスも違和感なく馴染んでいたので、エンディング映像まですごく安心して見ることができました。
――TVアニメ『モブサイコ100』の本編は、ご覧になってどう感じていらっしゃいますか?
佐藤
作画がすごくおもしろいですね! アニメーションを勉強してきた側の人間なのに、今までTVアニメはあまり知らなかったのをすごく後悔しました。だから今、いろいろと見てます!
――うれしくなる感想ですね(笑)。今回、まだ引き続きですが商業アニメーションに参加して、自分の絵ではないキャラクターの絵を描くことに抵抗はありませんでしたか?
佐藤
私は商業アニメーションの中で自分の技法を使えることが単純にうれしいと思いました。この技法がどういうことまでできるのかも知りたかった。まだ自分の作風を確立したくないという思いと、できることはできる内にいろいろやりたいという思いもありましたし、抵抗なく参加することができました。
――参加したことは、アニメーション作家・佐藤美代の活動に活かせそうですか?
佐藤
はい。たくさん。特に「ホラー」要素は今まで自分が作った作品の中でも最も上手く表現できたんです。だから、これからはホラーも行けます(笑)。
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