物語は、ベルリンからニューヨークに向かう旅客機の中から始まる。JFK空港に着陸した同機は原因不明の交信不能状態となり、伝染病の疑いから直ちにCDC(米疾病予防管理センター)のエフとノーラが機内に調査へと向かう。
ふたりが到着した際、乗客210名のほとんどが死亡していたが、機長のドイル、ミュージシャンのゲイブリル、弁護士のジョーン、プログラマーのアンセルの4人だけが生き延びていた。エフが貨物室に積まれていた奇妙な棺を調べると、中に詰まった土から白い回虫状の虫を発見する。この事故をテレビのニュースで見たハーレム地区に住む骨董品商エイブラハムは、銀の装飾が施された剣を手に空港に向かうというのがこのドラマの始まりである。
序盤は人体に寄生する虫が起こすエピデミックを中心に話が展開するパニックもの…と思いきや、虫に寄生された人間が血を求める異形の存在へと変貌。暗躍する謎の組織によって、未曾有の事態が引き起こされていく。
そう、実は『ストレイン 沈黙のエクリプス』は、いわゆる「吸血鬼」ものなのだ。しかし今作で登場する「吸血鬼」は、古典的な「吸血鬼」とは全く異なっている。ドラマ中には特殊メイク出身のデル・トロらしく特殊効果がふんだんに盛り込まれており、寄生されるプロセスから、寄生された後の人間の描写などはかなりグロテスクに描かれている。またテレビ作品としては珍しく、文字に起こすのもためらうような容赦のない暴力シーンやゴア描写が多いのも特徴だ。
ちなみに、舞台であるニューヨークや、虫によるエピデミック、対応に当たるCDCといった設定は、出世作である『ミミック』との共通点が非常に多い。また、デル・トロが29歳の時に監督したメキシコ映画『クロノス』も吸血鬼の物語であり、『ストレイン 沈黙のエクリプス』の土台となったことがうかがわれる。
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今作はSFやサスペンスというジャンルの枠を超えて、主人公エフの家族をめぐる葛藤や、ニューヨークに暮らす南米からの移民達の生活などの人間ドラマも、リアルに描かれている。エフはCDCの優れたスタッフだが子供の親権を巡って妻と調停中であり、親としての責任とCDCの職員としての責務とで板挟みとなっている。
また、物語に関わってくるメキシコにルーツをもつギャングの青年たちの生活は、現代のニューヨークが抱える闇の部分をしっかりと見せつける。これはメキシコ出身のデル・トロならではの語り口であろう。ドラマの序盤では、一方では寄生虫によるエピデミックが大変な騒動を引き起こしているが、他方では普段と変わらない日常が描かれる。やがて、「異常」が「日常」を侵食していくのだが、その展開はかなりスリリングでゾクゾクさせられる。
今やハリウッドのヒットメーカーとなったギレルモ・デル・トロが手がける『ストレイン 沈黙のエクリプス』。テレビドラマとは思えない巨大なスケールで、誰も見たことがない「吸血鬼」による恐怖が描かれる。
デル・トロのファンはもちろん、海外ドラマファンも素直に楽しめるだろう。全く新しい現代版「吸血鬼」の物語を、是非とも自身の目で確認してほしい。
[Daisuke Sato]
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11月6日(金)よりブルーレイ&DVD(セル)リリース開始
デジタル配信: 9月9日先行デジタル配信
発売元:20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
『ストレイン/沈黙のエクリプス』
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