フランスの劇場用アニメ動向 -ジブリの穴は埋められるのか- 第3回:細田守作品を育てていけるか | アニメ!アニメ!

フランスの劇場用アニメ動向 -ジブリの穴は埋められるのか- 第3回:細田守作品を育てていけるか

フランスの日本の劇場用アニメの動向をみると、00年代はジブリの映画が観客動員ができていた。このジブリの穴を埋める日本アニメはあるのだろうか?

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■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

フランスの日本の劇場用アニメの動向をみると、00年代はジブリの映画が次々と上映され、それなりの観客動員ができていたということが確認できた。ジブリが新作映画の制作停止を発表した現在、このジブリの穴を埋める日本アニメはあるのだろうか?
今後の日本アニメの可能性を考える。

■ ヒットした韓国アニメ

フランスで米国およびフランス由来の劇場用アニメでヒットした作品はどのようなものなのか?2014年には韓国が出資した「ナッツジョブ サーリー&バディのピーナッツ大作戦」(以下「ナッツジョブ」)が120万人を超えるヒットとなった(図2)。この「ナッツジョブ」の例をみてみよう。
「ナッツジョブ」は韓国コンテンツ振興院のプロジェクトに選ばれて6億ウォンを獲得後、韓国輸出入銀行から借り入れをするなど、韓国から資金調達をしたアニメだ(http://japanese.joins.com/article/160/181160.html)。監督はカナダから、配給は米国企業が担った。アニメそのものは米国風だが、アニメの中とエンディングにPSYの「江南スタイル」が流れるのが韓国ゆかりであることの証左となっている。
米国でもヒットし興行収入は6400万ドルを超えている(http://www.imdb.com/title/tt1821658/business?ref_=tt_dt_bus)。フランスでのヒットはこの米国ヒットを受けたものである。
「ナッツジョブ」は企画した韓国企業が米国でヒットするための法則を考え制作したアニメであり、市場を研究し、共同制作をすれば、ある程度欧米でも成功を治めることができるという実例だ。
欧米では「アニメは子どものもの」という考えが強く、彼らの考えにフィットした映画を提供するとある程度ヒットする。また、フランスでは公開時期もよかった。8月というのは、バカンス時で大作の公開はない(フランスのアニメ映画でもっとも注目を浴びるのはクリスマス前)。その一方で、子どもは夏休みのため時間がある。本来映画会社が公開を嫌がる時期に公開することにより、競合がなく観客を集めることができたと考えられる。

しかし、全世界でヒットしたからといって、日本がこのようなアニメを制作したいとは思わないだろう。製作者が創造性を発揮するキャラクターデザインやスクリプト、監督は全てカナダであり、韓国は資金調達と下請け的な作業ということでは、日本企業にとってはつまらない。興行的に成功したからといってこの映画は日本のアニメ業界が目指すもの「じゃない」だろう。
但し、注目すべき点もある。この映画は配給を担った米国企業と共同制作となっている。出資した米国企業が配給を担うことにより、配給の責任が生まれたと考えられる。そして、これも重要なことだが、「ナッツジョブ」が動員した120万人という数字は「ハウルの動く城」に匹敵する数字なのである。

■ 細田守作品を育てていけるか

現時点で、フランスでポストジブリになりうるのは細田守作品だろう。「時をかける少女」はアヌシー国際アニメーション映画祭で特別賞を受賞し、51,099人を動員した。「サマーウォーズ」は動員数が32,438と伸び悩んだが、「おおかみこどもの雨と雪」は17万人と大きく動員数を伸ばした。「バケモノの子」がどれだけ動員数を伸ばせるかが注目される。
細田監督の作品は映画紹介欄でフランスのインテリ層が参照する高級日刊紙の「ル・モンド」、左派日刊紙「リベラシオン」や高級テレビ週刊誌「テレラマ」などに好意的に取り上げられている。
ただ、細田作品はまだ観客動員数が少なく、かつ1人の監督では毎年作品を公開することも無理である。ジブリの強みは、同一ブランドで複数の監督の作品があることで、一つのブランドで安定的に作品を出すことであり、これだけのブランドは日本にはまだ存在しない。

■ 「ピクセル」型商売を考える

欧米で日本企業がコンテンツにより儲けようとすると、一番手っ取り早いのは米国映画ピクセル」のようにキャラクターを切り売りするか、リメイク権を販売することだろう。
「キャプテンハーロック」が観客動員を集めたことからわかるとおり、80年代、90年代に欧州でヒットした日本アニメはいまだ根強い人気がある。実際、テレビアニメとしてリメイクされている作品は増えている。
欧州の3Dアニメ制作のStudio100(http://www.studio100animation.net/)は「アルプスの少女ハイジ」や「みつばちマーヤの冒険」などかつての日本アニメのリメイクを3Dで行っている。「みつばちマーヤ」は劇場用アニメも制作された。 allocineによると、フランス2015年2月に公開され、986,355人 を 動員している。100万近い動員数ということは「みつばちマーヤの冒険」は日本人の知らないヒット作といえるだろう。
さらに、日仏合作アニメの「太陽の子エステバン」も続編がフランス企業のブルースピリット(http://www.spirit-prod.com/productions)の制作で2013年に制作されテレビで放映されている。
こういった欧州でのリメイクは、子供向けであり、日本ではあまり人気が出なさそうだが、もし日本企業にいくばくかの金額が支払われるのであれは、それはそれでよしとする考えもあるだろう。

■ 劇場公開にこだわらずDVD、VODで稼いでいく

NARUTO、One Pieceの ような日本で人気のアニメの劇場版はフランスでは劇場にかかる機会が少ないようだ。アニメが子どものものと認識されている国では青少年が主力の日本アニメを上映することは難しい。一方、DVDやVODでは堅調な売上を記録している。劇場で公開されなくとも、人気がないということではないと割り切ればそれはそれでよいことだ。
ただし、劇場公開されないと、なかなかマスの観客を得ることは難しい。DVDやVODはもともとのファンしか目にしないもので、観客の広がりという面では劇場公開の効果は捨てがたいと考えられる。

■ ジブリの穴は埋められない?

フランスではジブリ作品はディズニーという強い配給会社のおかげもあり、コンスタントに劇場で上映されるという日本映画としては稀有な状態にあった。
その中で「コクリコ坂から」のような日本の生活をそのまま映し出すようなアニメも一定数の観客を動員することができた。
ジブリ作品が制作されなくなるということは、コンスタントに上映される日本作品が消滅するということでもある。もっとも、焦らなくてはいけないのは、クールジャパン振興に携わる人ではないだろうか?ジブリ作品は、映画好きな人ならば必ず目にする映画評にも紹介され、日本の文化を紹介する窓口ともなっていたのである。
細田守監督など、ある程度観客を呼べる監督は育っているが、ジブリにはできればあと5年程度宮崎吾朗監督、米林宏昌監督の作品で制作を続けていただけたらと思う。
それほどジブリの存在は大きく、その穴を埋めるものはなかなかいないと考えられる。

フランスの日本の劇場用アニメの動向をみると、00年代はジブリの映画が観客動員ができていた。このジブリの穴を埋める日本アニメはあるのだろうか?

[/アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載記事]
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