アニメライターの仕事術-第17回タスクは「取りかかり始め」が9割  | アニメ!アニメ!

アニメライターの仕事術-第17回タスクは「取りかかり始め」が9割 

渡辺由美子さんの連載「アニメライターの仕事術」第17回目。〆切間近にも関わらず焦って進められない時はどうするのか。連載は第2・第4火曜日に更新中。

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■テンション型は取りかかりが肝だった!

※これまでの経緯が気になる方は【第12回】連載目次を参照して下さい。

前回、気分の上下が仕事に大きく影響してしまう「テンション型」の人は、仕事の合間に休憩するときも、時間区切りではなくて、1作業終わったら休憩を取る「タスク区切り」のほうが、モチベーションを下げずにタスクを進ませることができると書きました。

そして懸案事項である「休憩を取った後にどう再スタートを切るか」。
休憩の後にはどうしてもダレてしまいがちなんですよね……。

ひとつの作業を終えた後に、再スタートが切れない。
作業に没頭するために大事なものは何だろうと考えたところ、「取りかかり始め」が大きなトリガーではないかと思い至りました。
たいていの場合、《作業そのものが難しいというよりも、その作業への集中モードに入ることのほうが難しい》のですよね……。

そこで「取りかかり」というスタートの切り方に着目して、「心が嫌にならない取りかかり方法」を探すことにしました。


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■懸案事項の課題に怖くて取りかかれない

「今日は朝からあれやらなきゃいけないのか、いやだなあ」。
朝起きたときに、気分が重たいことってありませんか。私はあります。特に〆切が迫っているのに進んでいない原稿がある時は、朝起きたときが一番憂鬱です。

私が仕事術について考え始めたのは数年前です。当時は手当たり次第に仕事術の本を読んでいました。
とある仕事術の本に、『いったん着手してしまえば、やる気が起きにくいときでも、脳科学でいう「作業興奮」が生じて、いつのまにかやる気が出てくるものです』とありました。

最初に取りかかってしまえば、だんだん進んでいく。それが「できるかも」という自信に繋がる。取りかかればそのうち作業興奮が起きる……その気付きは収穫でした。

けれども、どうしても課題の山が高すぎて怖い! という時があるのです。

上述した仕事術本でのアンサーはこうでした。
『特に仕事が溜まっている場合、朝から一刻も早く、仕事の山を崩しにかかるべきです』
『一番厄介そうなものを迷うことなく最初に選んで、『案ずるより産むがやすし』と、一言つぶやいてからすぐに着手するのです』

これ、ものすごく何度も何度も試したんですけれども、私の場合は、半分くらいの確率で挫折してしまいました……。

確かに、朝起きたときが一番の覚醒時間で、頭がすっきりしている。だから難題の作業は一番最初に取りかかるのが理にかなっているとは思うんです。

でも、懸案事項があまりに心の負担になっているときには(〆切が近いのにまだ手をつけられていないときとか!)、「案ずるより産むがやすし」よりも、「やっぱ怖い!」の気持ちのほうが大きくなってしまうのです。

私の場合、挫折すると、その挫折感を抱えたままネットを見始めちゃうのです。これがよくない。ネット見ている時間は、残念ながら作業が一行も進まない時間なので……。

「最初の階段」が高すぎて登れない。
私にとって、目の前に立ちはだかる懸案事項のタスクを片付けるためには、《取りかかり》を克服することがとても重要でした。

■初動の怖さを超えた体験

最初の階段が登れないときにどうするか。
ひとつは、課題の作業工程を細分化して、階段の段差を低く設定するという方法が有効でした。(これについては第3回と第4回のGTDの項で書きました)。

でも、工程を細分化しても気力が萎えているとき、〆切間近なのに焦って進められない場合はどうするか。
もう《あきらめて、一番やりたい作業をやる》ことにしました。

数年前、こんなことがありました。
7月のある朝、すごく頭を悩ませている仕事原稿に取りかかる気力がどうしても起きなかったので、同人誌の原稿を始めることにしたんです。ちょうど、「8月第1週に入稿する同人誌の原稿も、そろそろ手をつけなきゃ」という時期だったので、少し早めにとりかかってみたのです。
すると、同人誌原稿がさくさく進むこと! いつもはこんな早い時期には一行も書けなかったのに。《現実逃避が別の作業を進ませる》んですよ!

同人誌の原稿に手を付けて、楽しいところまで進めて達成感を得て、作業興奮が起きた……その直後に、懸案事項である仕事原稿のフォルダをちょっとだけ開いてみました。

「なんか、ここの部分だったらできそうだな」という箇所が見えてきたではありませんか。

できそうと思った部分だけ、ほんのちょっと手を付けてみました。ワード文書に色マーカーをつける程度なんですが。
「できそうと思ったら、その課題に入ってしまえばいいし、1回フォルダを閉じてもいいや……」というくらいの軽い気持ちで。
すると、少し進めた後に精神的に疲れて休憩をしたけれど、その後は懸案の仕事原稿がするする進み始めました。

■現実逃避がタスクを進ませる理由とは?

テンション型の人は感情にすごく左右されてしまうので、逃げてしまいたい衝動が起きがちですが、その全力で逃げるベクトルや力を「別の作業」に向ければ、そのエネルギーは有効に使われるんです! 物理の話みたいですが。

現実逃避で別のタスクが片付いてしまう状態について、すごく覚えがありました。期末テストのときに、部屋の片付けがすごく進んだ思い出が……。あの片付けをしている時間に単語帳のひとつでも作っていれば、全然テストの結果が違ったのに!

いつもは部屋の片付けなんて先延ばしにしてしまう代表みたいなタスクなのに、なぜ……と思いますが、人間は目の前に提示されたものの「比較」でしか見ない傾向があるのかもしれません。

《辛いタスクが手に付かなかったら、それと比較したら楽に見える「現実逃避タスク」に手を付けて達成感を得て、辛いタスクに向かうモチベーションを上げていく》

よく考えたら、現実逃避に見えるタスクだって、近い将来必ずやらなきゃいけない懸案タスクになってしまうんです。
だから「先手を打つ癖」が付くと、〆切直前まで手がつかなくてガクブルというタスクはなくなるんじゃないかと気がつきました。
(今はこの先手必勝法を使っているので、日々の「できるかどうかが不安」がぐんと減っています)。

そして『艦これ』の艦隊運用から、「取りかかりの壁を越えてタスクを効率よく進ませる」さらなるヒントを得たのでした。

次回に続く!

■ 渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
アニメを専門にするカルチャーライター。インタビュー記事、評論、エッセイなどの原稿を書いたり、誌面を構成したり。web媒体『ASCII.jp』で「誰がためにアニメは生まれる」を、隔月刊『Febri』で「妄想!ふ女子ワールド」等を連載中。単行本『ワタシの夫は理系クン』(NTT出版)など。渡辺由美子ブログはこちら。
イラスト・宮原美香
《渡辺由美子》
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