『崖の上のポニョ』「ぼかさず柔らか」BD映像で実現(1) パナソニックハリウッド研究所 柏木吉一郎×スタジオジブリ 奥井敦 | アニメ!アニメ!

『崖の上のポニョ』「ぼかさず柔らか」BD映像で実現(1) パナソニックハリウッド研究所 柏木吉一郎×スタジオジブリ 奥井敦

(インタビュー:2009年11月) ■ 「ぼかさず柔らかく」を実現したブルーレイ  ■ 世界基準で色を再現  このブルーレイ化にあたって、映像圧縮技術で定評のあるパナソニック・ハリウッド研究所の柏木吉一郎氏が手掛けることも話題を呼んでいる。

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『崖の上のポニョ』「ぼかさず柔らか」ブルーレイ映像で実現(1)
パナソニックハリウッド研究所 柏木吉一郎氏 × スタジオジブリ 奥井敦氏
 

(インタビュー:2009年11月)



『崖の上のポニョ』「ぼかさず柔らか」ブルーレイ映像で実現(1)
パナソニックハリウッド研究所 柏木吉一郎氏 × スタジオジブリ 奥井敦氏


2009年12月8日、宮崎駿監督の最新劇場映画『崖の上のポニョ』のブルーレイディスクが発売される。実は今回のブルーレイは、ジブリの作品にとっては初のブルーレイ化となる。
このブルーレイ化にあたって、映像圧縮技術で定評のあるパナソニック・ハリウッド研究所の柏木吉一郎氏が手掛けることも話題を呼んでいる。
『崖の上のポニョ』でジブリの挑戦した映像がいかにしてブルーレイに再現されるのか?柏木吉一郎氏と『崖の上のポニョ』の映像演出を行った奥井敦氏にお話を伺った。


■ 柏木 吉一郎 
パナソニック・ハリウッド研究所所属。ブルーレイ用の画像圧縮技術を開発。
今回は日本のアニメーション特有の作り方に合わせた映像圧縮のチューニングと劇場で見た風合いを家庭向けテレビでも再現する特殊な処理を使い『崖の上のポニョ』ブルーレイを制作。


■ 奥井 敦
1963年島根県生まれ。'82年に旭プロダクションに入社し、撮影の仕事を始める。「ダーティペア(劇場版)」('87)で初の撮影監督に。以後「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」('88)「機動戦士ガンダムF91」('91)などで撮影監督を務め、「紅の豚」('92) 「海がきこえる」('93)の撮影監督としてジブリ作品に参加する。93年、ジブリ撮影部発足と同時にジブリに移籍。これ以後、「平成狸合戦ぽんぽこ」('94)「耳をすませば」('95)「もののけ姫」('97)「ホーホケキョ となりの山田くん」('99) で撮影監督、「千と千尋の神隠し」('01)「ギブリーズepisode2」('02) 「ハウルの動く城」('04) 「ゲド戦記」('06)「崖の上のポニョ」('08)には映像演出として参加している。

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■ 「ぼかさず柔らかく」を実現したブルーレイ 

アニメアニメ(以下AA)
今回『崖の上のポニョ』が、ジブリ映画初のブルーレイディスクになりました。これまでのDVDとは、そもそも何が変るのでしょうか。

柏木吉一郎氏(以下柏木)
『崖の上のポニョ』は、映画館で上映をするための作品として制作をされていて、2K(2048×1108)の解像度のデータで作られています。それをDVDにする時は、720×480という遥かに小さなサイズの解像度に落としていました。このためもともと書き込まれていた細かい部分が、ぼけて消えてしまうんです。
ブルーレイになるとその部分がぼけずに、全て見えるところが大きく違いますね。

AA
大きなテレビで観る時にも、十分耐えうるということですね。

柏木  
そうですね。

AA
そうしたブルーレイのための映像化をする段階で、アニメ制作のかたがたとはどのようなかたちで連携を取られているのですか?

奥井敦氏(以下奥井)
現在、アニメーションはデジタル制作が主流ですので、完成した映像マスターはデジタルデータになっています。スタジオ内では、そのデータをデジタルプロジェクターを使ってスクリーンに映写し、最終チェックをしてオーケーを出しているわけです。
そして最終的な上映でも、ほぼここで見た物と同じ状態でお客さんの目に届くようにしています。

今回、柏木さんにお願いしたのは、デジタル上映用のデータを基にして、ビデオパッケージ向けのフォーマットに変換することです。
色の調整やHD解像度へのサイズを若干縮小する作業は、ジブリの方でやっています。ですから基本的な色や解像度は何もいじらなくて済む状態にしたマスターデータを作ってお渡ししました。それ以降はお任せです。

AA
そのデータを渡す時に、何かお願いはされるのですか?

奥井
ひとつ問題があるのは、オリジナルデータはあくまでも劇場で公開するためのデータですから、スクリーンに映写した時に意図している画質になるように調整されていますから、そのままフラットパネルTVに映してしまうと、とても硬い画になってしまいます。
その見え方を調整するのは、大変難しいんです。その難しい作業をフラットパネルの特性をよくご存じである柏木さんたちにお願いしました。
そして、そのお願いをする時に話させていただいたのが、ぼかさずに柔らかくしてくださいということです。

AA
この「ぼかさずに柔らかく」は、何を調整すると実現出来るのですか?

柏木
何をというのは難しいところですね。奥井さんがおっしゃった「ぼかさずに柔らかくしてほしい」は、実はとても難しいんです。
柔らかくする一番手っ取り早い手段が、ぼかすことなんです。DVDはもともと縮小していますから、おのずと画は柔らかくなるんです。
けれどもブルーレイの場合はそういう極端な縮小はしませんから、劇場用のデータのままだと硬い画になってしまいます。そこでそれを柔らかくする処理を入れています。具体的に何をやったかは、言えないのですが。

今回の『ポニョ』の特徴は全部手描きで絵を作っていることですが、手描きで細かく描き込まれているところ、あるいはタッチなどはそのまま残した状態で再現しています。プラズマやプロジェクターで見ても、きちんとそれが再現されます。


■ 世界基準で色を再現

AA
先程、色調の話がありましたが、デジタルの場合、色のスタンダードを維持するのが大変だと思います。それは同じものでも利用する機種によっても違うし、見る経験や下手をすると記憶の中に残っているものと、現実とが異なっている場合もあると思います。
そのスタンダードを決める作業はどのようなかたちなのですか。

奥井
制作過程では、そのスタンダードを作るためにシステムを統一しました。色を決めたり、最終的なコンポジット、絵柄を作る場所は、いまではすべてデジタル化されています。
PCのモニターは1台1台全部違うわけですね。同じ絵を出しても、違った再現をしてしまいます。このばらばらの状態を放置してしまうと、コンセンサスがとれなくなります。

そこでまずモニターを統一します。そのためのモニターは、キャリブレーションという言葉があるんですけど、表示状態をきちんと調整する機能を持ったモニターです。
例えば月に1回キャリブレーション作業をすることによって、再現性を常に一定に保ち機種間の差も少なくします。

最終的に試写室で映写することが必要になりますので、そこではデジタル上映で使われるデジタルシネマプロジェクターを使います。
それを使って制作過程のデータをそのまま上映しますが、その時にモニターで観ているものと、スクリーンに映されたものが近くなるようにプロジェクターも調整しています。

AA
パッケージ制作するために渡されたデータそのままに保つというのは難しいものですか?

柏木
マスターとしていただいた映像データは、色なども含めそのまま再現されるように圧縮するのが基本です。

AA
そうすると非常に忠実に再現されるものなのですね。
少し思ったのは、今回はアメリカ版も出ますので、アメリカ人と日本人の色の感性が違うから、そこで別々に調整されたりすることもあるのかなと思ったのです。それはないということですね。

柏木
実は日本発で作られた映像と、アメリカ発、あるいは他の国発で作られた映像というのは、標準としている色温度の環境が違うんです。だから、それぞれの地域で作られた素材を同じ設定のモニターで表示すると色が違うことになります。

けれども、今回の『ポニョ』の場合は、最初にジブリさんと私たちの方で議論をさせてもらって、世界標準でいきましょうと決めました。
具体的にはジブリさんの方で6500kという色温度環境の中で正しく見える色に調整されています。
《animeanime》
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