『RIDEBACK』 高橋敦史監督インタビュー 琳を通してこの世界を見ていく物語 | アニメ!アニメ!

『RIDEBACK』 高橋敦史監督インタビュー 琳を通してこの世界を見ていく物語

(インタビュー:2009年1月) 『RIDEBACK-ライドバック-』は月刊IKKI(小学館)に連載され、先日最終回を迎えたカサハラテツロー氏の同名マンガを原作にアニメ化された。

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(インタビュー:2009年1月)


■ 高橋 敦史 (Atsushi Takahashi)
昭和47年7月8日生まれ。
スタジオジブリを経て、『はじめの一歩』にて演出デビュー。
『妄想代理人』『茄子 アンダルシアの夏』『茄子 スーツケースの渡り鳥』など、数々のテレビシリーズ・劇場・OVA作品に演出として参加、湯浅政明監督作品『ケモノヅメ』では助監督を務める。
今回手掛ける『RIDEBACK-ライドバック-』は、初監督作品となる。


『RIDEBACK-ライドバック-』は月刊IKKI(小学館)に連載され、先日最終回を迎えたカサハラテツロー氏の同名マンガを原作にアニメ化された。
震災の被害をうけ統治機能を失った未来の日本が舞台となる。主人公の少女は尾形琳。バレエの才能を持ちながらバレエを断念せざるを得なかった琳は、バイクにも似た人型ロボット「ライドバック」を出会うことで新たな人生を歩み始める。
アニメーション制作を『時をかける少女』、『DEATH NOTE』など、次々に話題作を送り出すマッドハウスが担当する。また、監督の高橋敦史氏は、本作が監督デビュー作になる。『千と千尋の神隠し』で監督助手を務め、『妄想代理人』などこれまで様々なアニメに参加した実力が発揮される。
キャラクターデザインを『HIGHLANDER ハイランダー ~ディレクターズカット版~』作画監督などの田崎聡氏が務めるほか、縦横無尽に展開されるライドバックのアクションは、リアルなメカニック描写をCGで実現する。


■ 見慣れないもの見せて行きたい

アニメアニメ (以下AA)
早速なのですが、監督にとって今回の『RIDEBACK』は、どういった位置づけにあるかから伺わせてください。

高橋監督(以下高橋)
初監督作品ですね(笑)。皆様にご迷惑をかけながら、勉強させていただいています。

AA
今まで演出をやってきて、全部自分でやりたいみたいな希望はあったのでしょうか。また、演出と監督の違いというのはありますか?

高橋
これまで監督を目指してやって来たというよりも、楽しく演出をやっていたという感じでした。漠然とその延長上で監督をやることもあるのかしら位のスタンスだったので……希望と言われると難しいですね。
でも、実際に監督をやってみると、演出とは根本的に違うところがたくさんありますね。学ぶことばかりです。

AA  具体的に違うところは、どういったところですか?

高橋
人に指示を出さなければいけない量が格段に増えます。演出であればシリーズの中で自分が担当するのは1話、20分間です。基本的には作画監督と制作進行の2人と一緒に1カット単位で細部まで管理しきれる作業量です。
けれども監督になると、ライドバックであれば20分×12本、およそ4時間全体を見なければいけない、細部まで直接管理はできないので各話演出など担当者に対して指示を出してコントロールしていかなければいけない、その辺がなかなか難しいですね。

AA
その今回の演出ですが、歯切れがいい物語になっています。そうしたところは意識されているのですか?

高橋
最初に企画をいただいたとき原作はまだ連載途中で、その中から区切りの良いところまでをアニメ化するというお話でした。
しかし作業中に原作がどんどん進んで完結してしまったので、アニメ化予定ではなかった後半からもアイディアや雰囲気をもらってきて12話に濃縮していこうとしています。

AA  かなりボリュームのある、豪華感のある内容になりますね。

高橋
そうですね。主人公がちょっと特殊で、モラトリアムな巻き込まれ型なんですが、いざ事が起こると積極的に突っ込んでいく。巻き込まれつつもその積極性で、いろいろと不思議なものを見て経験していくというお話です。
毎話少女の前に立ち起こってくる見慣れない世界、それをお客さんも一緒に体験して楽しめればという作りは目指しました。


■ 琳を通してこの世界を見ていく物語

AA
これは琳の成長物語なのかなと思ったんですけど、成長とは少し違う感じでしょうか?

高橋
成長物語という面もあります。目標への挫折から物語が始まっています。そこからいろいろなものを見て、最終的に自分自身の今後の歩み方を決めるというお話にもなるのだと思います。
ずっと母親を目標にバレエをやってきた主人公、ある日それができなくなった。「じゃあ、自分は何のために生きているんだろう」と悩みに入ってしまう。少女が、ライドバックに乗ったことでいろいろなものと出会っていって、最終的に次の進路を見いだす……という成長物語でしょうか。

AA
琳と周囲の関係で行くと、女の子の友情が非常に重要なのかと思いました。男性のキャラクターはわりと引いた感じで、琳と珠代とか、琳としょう子、すずりとか、女の子の友情が丁寧に描かれているかなと。

高橋
まず、原作世界を置き換えていくときに、もしバレエ、ライドバックという存在がなかった場合、主人公の女の子にとっての世界とのつながりって何だろう、と考えたんです。最終的には部員たちやしょう子とのつながりになってくるのかなと。
やはり最後に戻ってくるところはそこなんじゃないか。ホームグラウンドとなるのは、しょう子であったり、ライドバック部の部室なのかなと。


■ ヒロインは美少女

AA
『RIDEBACK』はぱっと見たときに、テーマとしてはメカがぽんとあって、そこにきれいな女の子が乗っている。メカと美少女という、わりとアニメではよくあるパターンです。
しかし、同時に本作は、それだけで押している訳ではない、どこか違いを感じます。

高橋
ほかの美少女物とは違うと言われると、あまりピンとこないのですが…。基本的にヒロインは美少女であるはずという前提です(笑)。 あくまでも原作に沿って作っていったつもりです。
ほかとは違うという部分は、あんまり意識はしていないですね。ただ、毎回見慣れないものを見せていくという技術的なアプローチがプラスになっているかなと思います。

AA わりとそういうフェチっぽい部分を抑えているのかなというのは感じたのですけれど。

高橋
萌え系的なところは、こちらのボキャブラリー不足があり……その辺が結果的に違いになっているのかなと思います。こちらの演出的経験が『MONSTER』とか『ケモノヅメ』、『花田少年史』とかですから(笑)。

AA
まだ4話までしか見てないのですが、これからちょっとシリアスになるという話を聞きました。

高橋
原作は後半かなりシリアスな展開をみせます。「原作と全然違っていますね」と言われたりもするんですが、基本踏襲しているつもりです。
どうしてもアニメ化するにあたってまとめなければいけない部分や技術的な制約等で変えている部分もありますが、あくまでも原作をベースに設計しているつもりです。

AA
2話、3話ぐらいまで見たところではこれは学園ものかなと思います、それがだんだん変わって行くところにダイナミズムがありますね。

高橋
1話2話を見てレースものかと思ったとも言われました、原作でも前半は明るい学園ものですから、基本線は同じにしています。
原作も学園ものから途中どんどん変化させていくことで飽きさせないつくりになってます。主人公のキャラクターまでも大きく変わってくる。 ただ、そこまではテレビシリーズ12話描ききれない。そのバランスが非常に難しいところです。


■ レースシーン演出のテクニックとは?

AA
メカが非常に魅力的なんですけれども、こちらもあまり全面に出すことなく、物語とうまくバランスを取っているなと思いました。

高橋
原作ありきです(笑)。ただ原作はあくまでもただの乗り物になっているのですが、アニメではFUEGOだけは少し特殊なものというアニメっぽい位置づけ(?)を足しています。
あとはいかにもお約束っぽい決めの絵はできるだけ外しています。できるだけ見慣れないものを見せていこうというコンセプトからですが、そこがそういうふうに見えるのかもしれません。
最近アメリカのテレビドラマとか、絵コンテ期間中『バトルスターギャラクティカ』とか、好きで見てたので、その辺の影響も大きいと思います。

AA それはレースシーンにも反映されていますか? 相当力を入れているように見えました。

高橋
アニメはどうしてもカットとかシーンをきれいにつなげちゃうんですね。そういうのをわざと外して、コース上のあちこちに複数のカメラが置いてあって、それをどんどん切り替えて見せていくという構成にしました。
そのほうがレースらしくなる。コース上にいっぱいあるカメラがどんどん切り替わって、スイッチングしていくんです。作り手としてはちゃんとつながるのか不安になりますが、見てる人は意外と気にせず見てしまう。

例えばF1のレース中継なんかを見ていると、平気でイマジナリーラインなんて無視でカメラが切り替わっていくけど平気で見てしまう。右に向かって走ってたバイクが、全然違う場所のとんでもないところからフレームインしてきたりする。
特に2話はその辺を意識的にやってます。 。

AA
もうひとつ気になったのは、1話の最後などに見られる、要所、要所で動きをぱっと止める印象的なシーンです。

高橋
作品の企画段階から、普通のアニメーションよりは3Dを中心に使った新しい作品をというオーダーがありました。
そこで何か新しさというか、見慣れないものを作っていくにはどういうアプローチをしていけばいいのかを考えなくてはいけませんでした。

ただ具体的に真新しいCG技術があって、それを導入できるというわけではなかった。今ある技術の寄せ集めの中で何かできないか、というテーマでいくつか具体的な手法を考えました。この手法もそのひとつですね。
実際にはアニメの今までのお約束的文法をCGに置き換えただけだったりもしますが(笑)。途中で止めるというのはアニメの常とう手段ですから。

AA  そうですね。

高橋
そこをうまく3Dとの組み合わせられないかなと考えました。
『マトリックス』は、昔アニメでよくやっていた技術を実写で置き換えた。その凄さみたいなものがあった。じゃあ、そこでみんなが見慣れた『マトリックス』のタイムスライス的な表現を、もう1回3Dを使ってアニメに置き換えていったらどうなるだろう?というところからの発想です。
1話はいろいろと今までやってないことをやってみようと、試行錯誤とテスト的なところで進めました。うまくいかなかったものは削り落として、うまくいったのはできるだけ使っています。

AA  4話のヘリコプターの爆発シーンも、同じ感じですね。

高橋
そうですね。基本的にはアニメでよくやる止めのマルチスライド、3回パンや、ハーモニー処理、『ガンバの冒険』でお話の最後にノロイが立ち上がるところとか、『あしたのジョー』の時代から変わらないんですね。アニメの王道だとは思っています。
ただ逆に、その決めのカット以外はできるだけそういった手法を使わずにはずしておいて、見せ場にそこだけぽんと使うことで決められればいいかな、と。

AA
動き回っていたのに急にぱっと止まると、止まった場所も印象だし、逆に振り返ると、動いていた場所の動きもすごく頭に残るのかなと思いました。

高橋
1話は他にもいろいろと試しているんですけど、うまくいってないものはどんどん消えています。
例えば背景動画の回り込みでは、なじみがどうしても難しいところが出てしまいました。アニメの背景が立体的にじわっと動くというのは、どうにもセルアニメの中になじませるのは難しくて、そこは外しました。


■ アイディアで3Dを見せるには

AA  非常に手をかけたテレビシリーズですね。

高橋
そうですね。これは美術監督の東地(和生)さんであるとか、総作画監督の田崎(聡)さんの職人さん的な技のおかげです。
基本的にCGには、今までみんなが見なかった、見慣れないものを作っていこうという共通理念があったんです。CGという技術は一般化した途端に、みんな見なくなるんですよ。 セルアニメとは根本的にそこの一線が違っていて……どんなに下手でも、人は絵が動いていると見るんですよね。
ところが3Dにした途端、どんなに頑張っても、コンピューターがうまくやっているんだろうという思考が働いて観なくなる。頑張って観ようという意思が薄らいでしまう、そのバランスをどう取っていくかという部分が難しいですね。

AA
3Dだと、どんどん技術が上がることを期待しているから、見ている方の要求はどんどん高くなっていきますよね

高橋
ピクサーみたいな最先端で「3Dにもまだこんなことが」と常に新しい技術開発を提示している会社でないと、それを売りに最前線を走っていくのはどうしても難しい。
基本テレビシリーズでまだ誰もやったことの無い技術を試すのは不可能に近い。

スピンオフ技術とアイディア勝負で、実は見慣れたCG技術の寄せ集めではあるのだけれど、映像的にみんなが見慣れていないものは何だろうという部分を考えました。1話はかなりそこで時間がかかっちゃったところがあるんです。

AA  一方で、2Dと3Dのなじみはとてもいいですよね。

高橋
技術の進化と撮影監督の斉藤(寛)さんの持っている力で押していってもらってます(笑)。
現場機材の精度の向上もあります。プリンターの精度とかスキャナーの精度が上がっているので、3Dのものをプリントアウトしてその上に絵を描いても、昔ほどはずれない。

とはいってもやっぱりアナログとデジタルのズレはありますからそこは撮影スタッフの手作業に頼ってます。精度的にはちょっとぎりぎりなんです。
今ある技術をみんなで人海戦術的に頑張って駆使しています。それはマッドハウスが撮影から仕上げから全部そろっているからこそできるという特殊な環境によるところが大きいです。


■ ライドバックの手は何のために付いているのか?

AA  ライドバック自体についてもう少し伺っていいですか。

高橋
ライドバックは、原作だと対比的にもっと人が小さいんですよね。でもそれだと、人が動き回ってもあまり判らないですよね。なので、どうせ描くんだったら人をでかく、ライドバックを小さくしようとしました。

AA  そうですね、だいぶ比率が変わっていますよね。

高橋
基本的にはライドバックの足を短くしているんですけど。その辺のバランスは今までやってきた経験的なところが活きているのかなと思います。

AA  最後になりますが作品の見どころはどこですか?

高橋
ライドバックに関して、最初の企画のときに言ったのは「ライドバックの手は何のために付いているんだ」ってことでした。
これこそテーマじゃないかと思ったんですが、その辺はあっさり却下されてしまったのでこっそり入れました。

女の子がモラトリアムの中で、人生に行き詰まってもがいている時に、もがいて何かをつかもうとするんじゃないか? とか、主人公が障害を乗り越えるときはできるだけライドバックの腕を使っているのですが、そこに気づいてもらえたらうれしいです(笑)。うまくいっているのかどうかは賭けですが。
「ライドバックの手は何のために付いているのか」は個人的に大きなテーマでした。

AA それは楽しみですね。本日はとてもいいお話をありがとうございました。


『ライドバック』

【メインスタッフ】
原作: カサハラテツロー(小学館「IKKI COMIX」刊)
監督: 高橋敦史
シリーズ構成・脚本: 高屋敷英夫/飯塚 健 
キャラクターデザイン・総作画監督: 田? 聡
美術監督: 東地和生
色彩設計: 橋本 賢
VFXスーパーバイザー: 加藤道哉
CGI監督: 設楽友久
撮影監督: 斉藤 寛
編集: 瀬山武司
音楽: 和田貴史
音響監督: 中嶋聡彦
アニメーション制作: マッドハウス
製作: 「ライドバック」製作委員会
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