2002年に刊行された富野由悠季監督による『映像の原則』は、およそ10年近く、アニメ演出を学び、考える人たちの間で読まれてきた本だ。とりわけアニメの演出において独特な存在である絵コンテを中心に映像の原則を解説する。 この『映像の原則』が10年ぶりに全面的に加筆、修正となり、改訂版としてこの9月に発刊となった。10年ぶりの改訂は過去10年間に起きたデジタル技術の進化に対応すること、そしてその問題点について言及するためである。 一方で、そうした技術面への対応でむしろ際立ったのは、10年経っても変わらない映像の原理、原則である。10年間ぶれることのない富野監督の考えが、この本の根幹をなしている。 『映像の原則』は、『機動戦士ガンダム』シリーズをはじめとするエンタテイメントのアニメ作品だけで富野監督を知る人にはやや驚きを与えるかもしれない。本書は最初から最後まで論理により解説されており、やや硬い印象を与えるからだ。まさに、映像演出のための技術書・教本となっている。 むしろそうしたギャップこそが、本書の白眉なのかもしれない。本書のなかで一貫して流れるテーマは、映像は感性で撮るものではない、映像には原則がありそれを踏み外せば意図が伝わらないとの主張だ。 そうした考えのもとに数多くの傑作が生まれたのだと考えるのも、また面白い。また、しばしば視聴者へのサービスを重視した富野監督が、映像をより的確に伝える重要性を意識していたこともわかる。 本書は、アニメ演出をはじめアニメ業界、あるいは映像演出を目指す人に書かれている。だから、富野監督の文章もそうした人たちに語りかけるようなところがある。 しかし、そうであるからこそ、専門家以外にも『映像の原則』は興味深い本だ。作品をより深く理解したいと考えるアニメファンにとっては必携だ。そして、解説の中にしばしば織り込まれる言葉には、映像演出を越えてはっとさせられることが多い。『映像の原則』の中にも、富野節は健在だ。映像の原則 改訂版著者: 富野由悠季 定価: 1890円(税込) 判型: A5判 336ページ 発行元: キネマ旬報社
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