映画監督押井守の映像における仕事は、1980年の直前より始まり、およそ30年あまりにも及んでいる。しかし、これまで押井守作品全体にフォーカスした本格的な展覧会は行われてこなかった。 2010年7月16日から八王子市夢美術館で開催されている「押井守と映像の魔術師たち」は、そんな空白を埋める意欲的な企画だ。1985年の『天使のたまご』から2008年の『スカイ・クロラ』、2009年『ASSAULT GIRLS』と、押井守のアニメと実写の世界を広く紹介するものとなった。会場にはこれまでに関わった作品の設定、絵コンテ、原画、セル画、背景、ロケハンの写真、映画制作のための立体造形などが多数並べられている。 今回の展覧会の特徴は、こうした様々な展示品をあわせて見ることで、個々の作品を超えた押井守のビジュアル世界がよりはっきりと見えてくることだ。押井守のビジュア世界は、アニメーション、実写、舞台、イベントと多岐にわたる。しかし、展覧会でまとめて眺めると、押井守の世界が、時代や表現方法は異なっても、実はほとんど変化することなく一貫して続いていることが分かる。むしろ変わっているのは時代と作品の受け取り手なのだろう。 変わらないモチーフは犬や魚などの造形、現実を反映しながらも明らかに違うもうひとつの歴史や世界、社会から疎外感を持つアウトサイダーたち。いずれもこれまでにも知られてきたものではあるが、この会場ではそれを体験として理解出来る。 映像作家として世界的にも評価の高い押井守だが、こうした展覧会がこれまでに実現しなかったのは理由がある。本展覧会を担当した八王子市夢美術館の学芸員 浅沼塁氏によれば、押井守監督の映像の仕事は通常は絵コンテまで、その後の実作業の多くはスタッフによるものとなり、実は押井監督の仕事として展示物があまりないためだという。実物主義を取る美術館の盲点である。今回の展覧会も数年前から企画が立てられていたが、実際にその点を悩んだという。 本展ではそうした問題を、「押井守と映像の魔術師たち」とすることで解決した。つまり、押井守のクリエイティブとそのアイディアを実現したクリエイターたちの仕事を合わせることで、押井守の映像世界の全体を明らかにするものだ。 しかし考えてみれば、特にアニメの作品、仕事を紹介するには、これは非常に真っ当な取り組みだ。アニメは他の表現芸術に比べても、その創作活動は圧倒的にチーム作業に支えられているからだ。表現者である監督とその表現を実現したスタッフの双方にスポットを当てることは、アニメという表現を理解するのにも有益だろう。 こうした展覧会のコンセプトを経た結果、展示物が驚くほど多岐に亘ったのだ。時代や作品も様々なため、押井監督が自らもう二度とは実現しないと表現するほどだ。そんな貴重品のひとつが、2000年初頭の劇場公開を目指しながら、完成に至らなかった幻の作品の立体資料の数々などだろう。ファンにとっては、これを見るためだけでも訪れる価値があるだろう。 会期は9月5日までと残りすくなくなっているが、夏の最後のイベントとして是非、訪れることを薦めたい展覧会だ。八王子での企画展後は、やや展示構成を変えて11月20日から2011年2月6日まで出雲市立平田本陣記念館でも開催される。特別展 押井守と映像の魔術師たち /http://www.yumebi.com/ 会期: 2010年7月16日~9月5日(会期中無休) 会場: 八王子市夢美術館
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