文: 柿崎俊道2010年1月23日公開の劇場版『Fate/stay night UMLIMITED BLADE WORKS』の試写会へ行った。『Fate/stay night』は熱烈なファン層を獲得している作品だ。2007年にテレビシリーズが放送され、人気を博した。とはいえ、原作はテレビシリーズではない。原作は同名のアダルトゲームである。原作の『Fate/stay night』はゲームであるがゆえに、複数の攻略ルート(といっても少ないけども)があり、どれを選ぶかはプレイヤー次第だ。映像作品として起用されるエピソードも、そうしたルートのひとつを中心にしている。たとえば、テレビシリーズでは主人公・衛宮士郎と美少女セイバーを中心に構成されたストーリーだった。劇場版ではキービジュアルのとおり、遠坂凛と美形の弓兵アーチャーを中心に描かれる。本作はテレビシリーズと対になるように構成された作品だ。そのため、映画館に足を運ぶお客さんはすでにテレビシリーズを見ているだろうという制作姿勢からか、世界観の説明は一切ない。とくに衛宮士郎とセイバーの契約のシーンはとても重要だと思うが、サッと描かれ、あっさりと次のカットへ移行する。しかも、戦闘シーンが多い本作では、登場人物は数々の強敵から無数の傷を負わされる。だが、それも包帯を巻かれたくらいで、いつの間にか元気に歩いている。そうした戦いの目的である「聖杯」は、どんな願いでも叶うという代物らしいが、登場人物たちはそれを手に入れてどうしようというのか。最後まで見ても、まったくわからない。そもそも、ふつうの高校生であろう衛宮士郎がなぜ魔法が使えて、サーヴァントと呼ばれる使い魔を受け入れているのか。劇場版だけではよくわからないことが盛りだくさんなのだ。これは、作品を否定しているのではない。知っているファンにこそ見てほしい、まずファンを満足させたい、という制作側の姿勢がはっきりと打ち出されている証拠だと私は理解した。公開予定の上映館リストを見ても単館が多く、広く一般向けには考えていないことがよくわかる。本作はアダルトゲームが原作と前述したが、劇場版もあたかもゲームのようである。気の利いたアダルトゲームにはスキップ機能や早送り機能があり、自分の好きなシーンへすぐに飛べるようになっている。分岐点が多いゲームではとくにこの機能が重要だ。全ルートをすべて攻略したいのがプレイヤーの性である。その際に、一から順に進めていたのでは、面倒くさくてかなわない。体験済みのシーンはサッとスキップ、もしくは早送りしてしまうのだ。劇場版『Fate/stay night UMLIMITED BLADE WORKS』も同じだ。ファンがよく知っているエピソードは軽く流して、新しいシーン、派手な戦闘シーンに力を注いでいるのがよくわかる。決められたスケジュールと予算の中でできることは限られている。ファンが一番見たいであろうシーンを中心に構成する、というのは間違ってはいない。ただ、個人的に気になることがある。アダルトゲームが原作なのに、アダルト要素が少ないことだ。ファンのみなさんは満足できるのだろうか。過去を見ても、人気のアダルトゲームが商業アニメになるたびに、そうした要素が削られる傾向にある。一般向けにするためには仕方のないことだとは思うが、本作のように回りまわってマニア層に特化した劇場作品は原作のアダルト要素を加味してもよかったのではないか。それとも、Hシーンはゲームで何度もやっているので、それで満足というわけなのか。アダルトゲーム、美少女ゲームが好きな人からよく聞くのが、「Hシーンを見たいわけじゃないんだよ! ドラマに感動したんだ!」という言葉だ。そこには、どのようなファン心理が働いているのか。私はアニメ業界で長く仕事をしているが、いつになっても、そこだけがよくわからずにいる。劇場版『Fate/stay night UMLIMITED BLADE WORKS』/http://www.fatestaynight.jp/◆柿崎俊道 (かきざきしゅんどう)1976年生まれ。著書に『聖地巡礼 アニメ・マンガ12ヵ所巡り』、『Works of ゲド戦記』、『Kirari 痛車コレクション』など。Twitterは「syundow」、mixiは「柿崎俊道」で登録。
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