さらに、フィルム見本市のMIFAや企画段階の作品プレゼンテーション「クリエイティブ・フォーカス」、最新のビジネス情報を交換するコンファレンスと様々な領域でイベントが行われる。こうした全体の複雑さは、たとえ映画祭に赴いたとしてさえ、全体を一度に把握することはなかなか難しい。
そこで今回、アニメ!アニメ!では、1999年から毎年アヌシーの映画祭に通い、映画祭の変化を見続けてきたオフィスH (アッシュ)の伊藤裕美さんに、アヌシーの特徴とトレンドについて、映画祭の会場でお話を伺った。
自らも海外の短編映画の配給やプロデューサー業を行う伊藤さんは、プロの視点も交えながら、変化の激しいヨーロッパのアニメーション事情について説明してくれた。
【みんな学生作品には注目しています】
まず、最初に質問したのは、今年の映画祭のトレンドについてである。ところが伊藤さんによれば、映画祭のトレンドは、そんな毎年大きく変わるものではない。むしろ、変わらない部分にこそ注目すべきと言う。
そこで言及されたのが、学生作品についてである。伊藤さんが今年の印象に残ったとして挙げたのは、相変わらずレベルが高い学生部門である。
「若い人たちが活発。新しい部分もあるし、技術的なレベルもある。学生とはいえ、オーガナイズされているなというのが分かる。それに脚本などもきちんとスーパーバイズされているなと思うものもある。プロフェッシュナルな感じを受ける」と学生作品のレベルの高さを指摘する。
それでも傍から見ると、やはり一般部門と学生部門の間には、大きな差があるように感じらるのだが、むしろ、専門家からの視点では、学生部門のほうが面白いという人のほうが多いそうだ。
「みんな、学生部門は間違いなく注目しています」とのことだ。
【アヌシーでしか観られない作品に注目を】
近年、アヌシーは長編アニメーションの紹介に力を入れているが、伊藤さんによればこれもアヌシーの大きな特徴である。
「現在、アニメーションの映画祭は、長編作品に力を入れているところはなかなかありません。そうしたなかで、コンペティション、アウト・オブ・コンペテションも含めて、長編に力を入れる貴重な存在です。珍しいものを観たいのであれば、アヌシーは非常にいい場所です」と話す。
実際に長編部門には、『モンスターVSエイリアン』のような米国のメジャースタジオの作品や、日本の長編アニメなどもあり実に多彩である。しかし、伊藤さんによれば「見所はインディペンデントの映画作品、こうした作品は、ここでしか観られないものもある」と、ヨーロッパの長編アニメーションを観ることを薦める。
【大きな変化は アニメーションがビジネスとして認知されたこと】
最後にヨーロッパのアニメーション事情についても伺った。伊藤さんは、アニメーションがビジネスとして認知されるようになったことが変化とする。伊藤さんが初めてアヌシーに来た1999年頃は、『キリクと魔女』が既にヒットして、アニメーションがビジネスになるとみんながようやく気づいた頃、それでも映画祭は短編アニメーションばかりだったという。
しかし、10年前から、ヨーロッパのアニメーションはかなり賑わっていたが、この状況が過去10年間十分日本に伝えられていなかったのでないかと指摘する。こうした状況は、もっと日本で知られていいはずと話す。
さらにアヌシーの特徴は、クリエイティビティと同時にビジネスを大切にするところだと言う。これがアヌシーを産業の振興にも力を入れる珍しい映画祭、また新しい才能をピックアップすることに力を入れている場所にしている。
そして、アヌシーの成功については、人が人を呼ぶ循環がうまく行っているためだとする。情報交換の場として機能しているという。
アヌシーは10年前から若い人とプロフェッショナルが出会う場を作り、企画ベースの作品に出資する場を積極的に設けている。日本ではこうした部分はまだまだ不十分、アヌシーは日本のアニメーション産業にも参考になるはずと話しを結んだ。
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(c)CITIA
アヌシー国際アニメーション映画祭 公式サイト
/http://www.annecy.org/home/index.php?Page_ID=2
オフィスH(あっしゅ)-短編配給業太脚奮闘記
/http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp