本書は、財団法人デジタルコンテンツ協会がメディア・デジタルコンテンツ産業の市場規模と産業動向を調査し、毎年発行しているもので、監修は経済産業省 商務情報政策局が行っている。
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本セミナーでは、「コンテンツビジネス拡大の方策とは?」をテーマに、デジタルハリウッド福冨忠和教授、ノンフィクションライターの堀田純司氏、フジテレビ映画制作部 部長の清水賢治氏が講演を行った。その中から、清水氏のお話になった内容をお届けする。
映画製作本数の逆転について
今年、業界関係者は20数年ぶりに洋画と邦画の製作が本数ベースで逆転しそうだと見ている。現在、比率でいうと、49:51くらいの割合まで邦画が迫っているという。
これの背景としては、ヒットに結びつく邦画が増えたためではあるが、それだけが理由の全てではなく、放送局の立場からの映画製作事情というのも大いに関係してきている。
放映権の高騰と視聴率
一般的に、テレビで映画を放送するときの放映権は配給収入の10%と言われている。そのため、例えばハリーポッターを放送するには5億円が必要になる(続編の公開直前などPR効果が期待できる場合は別)。
映画産業はシネコンの普及などで上位ヒット作品の収益額は上がっており、かつ洋画の視聴率というものが低下している現状がある。このため、広告収入との費用対効果が見られなくなってきている。
そういった状況を鑑みると、経営戦略からした場合、放送コンテンツとしての放映権調達はあまり得策ではない。自社で製作する場合、投資額はある程度必要ではあるが、その後に放送する場合に利用が容易な上、ヒット作を作れた場合には二次収入も見込めるため、放映権を払って一度放映する洋画に比べ圧倒的に、会社としての資産に大きく寄与することになる。
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テレビ局はソフト工場でなくてはならない
そもそもフジテレビは昔から映画を多く作っていたわけではなく、この体制は'83年の『南極物語』が転機といわれている。それまで“テレビ屋はテレビ”という考え方が支配的だったのに対し、“テレビ局はソフト工場である”といった、ワンソース・マルチユースの考えがなされるようになってきた。
清水氏は映画マーケット全体が2000億円市場規模に対し、フジテレビ1社だけで編成予算が1000億円であることを挙げて、年間に1クールのテレビドラマを2回経験できる同局の社員演出家の制作経験について、自信を覗かせる。事実、老舗の映画会社でも自社製作作品は年間に数本程度で、1年間に10本を製作するフジテレビとは逆転現象が起きている。
ヒットするのは面白さと運
ヒットを生む方法はない、と清水氏は断言する。ただ、ヒットに近づけるためには会社としていくつかの方法があり、その中には「企画の判断をしすぎない」というのがある。彼らの元に来る企画は、基本的には清水氏とその上司である亀山千広プロデューサーだけで行うという。
ただその上で、どのような客層にアピールするのかを、映画館の座席数から判断して詰めていく事になる。「人を管理しても企画は管理するな」というのが彼らの合言葉だ。このように、当たる物を探すのではなく、外すものを除くことで、ヒットする企画の多様性が生まれることになる。
映画館というメディアを考える
フジテレビの場合、よく放送番組の中での大量PRが批判の矢面に立つところではあるが、そこはあくまで知名度を上げる目的であり、実際に劇場に足を運ばせる戦略は別のところにある。興行者の念頭にある映画人口とは、少なくとも年に複数回劇場に足を運ぶ人々を指す。
そういった層に効果的なアピールをするには、劇場の特報を利用するのが重要になってくる。最後に、インターネットとの関係について、配信はいずれ避けて通れぬ道としながらも、ブログなどのファン活動と上記のイベント指向というのは非常に親和性が高く、手段としてのファンコミュニティーを重要視したい考えであると述べた。
『デジタルコンテンツ白書2006』発刊セミナー
講演 「フジテレビの映画ビジネス戦略」
清水賢治 フジテレビジョン 映像事業局 映画制作部 部長
清水氏は入社以来、『ドラゴンボール』『ちびまる子ちゃん』など多くの大ヒットアニメをプロデュースし、ドラマでも『世にも奇妙な物語』などの成功を収めている。近年はスカイパーフェクトで『地獄少女』への出資も手がけ、放送局をまたいだ製作手法が注目を集めた。
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