■些細な「動き」が出すリアリティに惹かれる
――大童さんはアニメーションでも実写でも「動き」に心動かされるそうですね。どういう「動き」が好きなのですか?
大童:どういう「動き」……そうですね、なんでも好きではありますが、あえて挙げるなら「リアル寄りの動き」が好きです。
その動きを現実との対比で見ることができて「こういう時、確かにこの動きするな」みたいなものが予備知識なしでわかるので。それが再現されたアニメーションに驚いたり感動したりしますね。
――Twitterに「これがアニメーションなんだよ」と浅草氏があぐらで望遠鏡をかまえている場面を投稿していましたが、まさに今おっしゃった通りの内容ですね。
ここね、ここ。あぐらかいてる膝を一瞬引き上げてから上体が前にグッと動いとるでしょ。これがアニメーションなんだよ諸君!!!素晴らしいね!! pic.twitter.com/wRa4uVjlhB
— 大童 澄瞳 SumitoOwara (@dennou319) July 6, 2019
大童:ちょっと膝をあげてから前のめりに行く動きですね。あぐらの状態から前のめりの姿勢になる場合、上半身をぐっと動かさないといけない。その際に重心を変えることになるので膝を一度軽くあげると簡単に上半身を前に傾けることができる。
その動作が描かれていて「これだよ!! これがアニメーションの仕事だよ!!」(笑)。
もちろん、細かい演技を省いた動きにも気持ち良さはあります。なんなら動きに注目しなくたってアニメーションは楽しい。紅葉シーズンの山に入り、「この木は何という名前なのか」「葉っぱの種類は何なのか」を見ながら観察してみるのもいい。同時に、山全体の紅葉を見て楽しむのもまた素晴らしいのと同じで。

――『映像研』の空想と現実が交錯して世界が広がっていく感覚は、湯浅監督作品と通じる部分があります。『映像研』を湯浅監督がアニメ化すると発表されたとき、納得感を持ったファンの方も多いと思います。
大童:よくそう言われますね。僕の中ではそれがどこからどこまでの話をしているのかわからなくて。湯浅監督がアニメ化してくださるなら絶対に面白いものになるという確信はありましたけど。
――「どこからどこまでの話」というのは?
大童:読者のみなさんは、マンガでもアニメーションでも完成した『映像研』を見ていますよね。僕の場合はマンガを描いていくプロセスが、自分の中にある。
逆に僕が湯浅監督を見た場合、完成後のアニメーションだけが見えていて、制作プロセスのことは知らない。だから共通点をどこに見出すかは僕からすると不思議な感じ。受け手のみなさんは完成物を見て何か共通項を見出しているんでしょうね。
ただ、ハチャメチャな動きは絶対に出てくる作品なので、そういう部分は湯浅テイストにマッチするはず。完成したアニメーションを見た時に「みんなが言っていたことはこれだったのか」と気づけるかも、という期待もあります。

――大童さんは制作プロセスで作品を見ている。
大童:そうですね。湯浅監督への信頼は僕の中で確かなもので、『カイバ』『四畳半神話体系』『マインド・ゲーム』、それから『クレヨンしんちゃん』で湯浅監督が担当したパートも繰り返し見たし、アニメーターとしてのすさまじい能力は全部わかっているし………って今、言いそうになりましたが、奥深すぎて全部はわかっていないです(笑)。
――アニメ作品とつながりでいうと、原作では『未来少年コナン』が広告つきで登場してびっくりしました。
大童:「ここで『未来少年コナン』を出したい」ということで担当編集さんが許諾を取ってくれて、掲載条件が使用料を払うか宣伝広告を入れるかのどちらかだったんです。「だったら広告でしょ!」と即答でした。だって自分のマンガで『コナン』の広告を入れられるなんて最高じゃないですか(笑)。

――これまでのアニメ視聴歴で、印象に残っている「動き」は何ですか?
大童:たくさんありますが、まず思い浮かぶのは、『交響詩篇エウレカセブン』の第26話(「モーニング・グローリー」)、エウレカが乗っていたリフボードが壊れ、LFOのブースターに捕まって落ちるシーン。
ブースターは円錐の形をしているから徐々に手が滑っていくのですが、落ちる前に一回持ち直すんですよ。そこが吉田健一さんの作画で、めちゃくちゃいい! こういう「動き」あるよね!と。
あと『プラネテス』のEDで海沿いをバイクで走行するシーンも「あ、これ吉田さんのバイク(の作画)だ」と思ってたら、やっぱり正解だったり。
――『映像研』ではどうですか?
大童:浅草氏ら3人が作る「そのマチェットを強く握れ!」のアニメーションは、作画の面白さが強く表れるシーンになるはず。僕も期待しています。
『映像研』は子供から、僕の親世代の方まで広く読んでくださっています。TVシリーズの放送は深夜ですが、お子さんの健全な成長にもいいと思いますし(笑)、昔からのアニメオタクの方に楽しんでもらえる要素もたくさんあります。
サイエンスSARUはFlashアニメーションを使ったり、海外のクリエイターも参加していたりと時代の先端を行くスタジオ。『映像研』をサイエンスSARUがアニメーションにすることで新たな衝撃が生まれると思うので、楽しみにしていてください。
(C)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会