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「君の名は。」のヒットと巨大化した中国映画市場

12月2日より中国で封切られた『君の名は。』が大ヒット上映中とのニュースが、マスコミ各社に大々的に報道されている。中国の映画市場は2012年、日本を抜いて北米映画市場に次ぐ、世界第2位に上り詰めた。2015年の時点で日本の4倍に相当する市場規模にまで急成長してきた。

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(c)2016「君の名は。」製作委員会
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■日中合作映画の展望

2016年度第29回東京国際映画祭において、夢枕獏原作、チェン・カイコー(陳凱歌)監督、染谷将太主演の日中合作『映画空海―KU-KAI―』の製作発表が行われた。中国映画市場を主要ターゲットとした本作品は、日本映画界にとって新たな試みである。
いっぽう、岩井俊二や、行定勲、是枝裕和らは、その演出の手腕が中国映画人のあいだでも定評があり、「中国映画のメガホンをとってもらいたい」と考える中国人プロデューサーも少なくない。
事実、松竹の本木克英監督が演出を手掛ける中国映画『UTA不是流浪狗(ユタは野良犬じゃない)』は11月5日にすでに上海でクランクインした。「簡単な道のりではなかったが、中国の娯楽映画、しかも日本では難しいオリジナル脚本を監督することができて本当に嬉しい。ネガティヴな先入観にとらわれることなく、主人公の柴犬の目を自身の視点として、今の中国に生きる普通の人たちを見つめたいと思う」と本木監督は語った。
日本では製作費が5、6億円を超えれば大作とみなされているが、20億円を超える中国の大作映画は、決して珍しくない。アニメとコミック原作映画に偏り、内向きの傾向にある日本映画界は、中国映画界と関わることにより、日本映画の活性化にも寄与することが期待できるのではないだろうか。
また、昨今『ONE PIECE』の実写映画化を含む権利を中国側が16億円で買い取ったことが、日本でも報道されたように、日本映画の人気コンテンツのリメイクや、実写映画化の権利に対して、多くの中国人プロデューサーが目を付けている。
今まで中国はハリウッドとの合作のみならず、韓国映画界とのコラボレーションも盛んに行ってきた。人気韓国映画の中国版リメイクや、韓国人映画監督や、スタッフ、キャストを迎えた中韓共同製作は数多く存在した。そのビジネスモデルは日中合作映画にも適用できるだろうか。
中韓合作映画に、プロデューサーやシナリオライターとして携わった胡蓉蓉(フ・ロンロン)氏は、次のようにコメントした。「ハリウッド化しつつある韓国映画は、そもそも中国人の感性にマッチしているため、合作映画をつくるのにも、スムーズに事が運ばれるだろうと安易に想像していた。しかし、実際にはお互いの映画製作のスタイルや、文化の違いが現場で露呈し、双方が妥協し合った結果、凡庸な作品となってしまうケースは少なくなかった。韓国映画と比べて、日本映画と中国映画との親和性はより乏しいので、合作映画製作の困難さが予想できるだろう」。
ビジネスモデルや、製作スタイル、検閲制度の違いなど、日本映画の中国市場への進出が直面する課題は多い。これらを一つずつ乗り越えるのに両国の映画人の地道な努力が必要である。それによって、初めて両国の映画交流に新しい時代を切り開くことができるだろう。

【著者プロフィール】
劉文兵 りゅう ぶんぺい Liu-Wenbing
1967年中国山東省生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。東京大学学術研究員。早稲田大学ほか非常勤講師。
主な著書(単著)に『日中映画交流史』(東京大学出版会、2016年6月予定)、『中国抗日映画・ドラマの世界』(祥伝社新書、2013)、『中国映画の熱狂的黄金期――改革開放時代における大衆文化のうねり』(岩波書店、2012)、『証言 日中映画人交流』(集英社新書、2011)、『中国10億人の日本映画熱愛史――高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』(集英社新書、2006)、『映画のなかの上海――表象としての都市・女性・プロパガンダ』(慶應義塾大学出版会、2004)。
2015年度日本映画ペンクラブ賞・奨励賞を受賞。
《劉文兵》
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