藤津亮太の恋するアニメ 第23回 「疾走するウエディングドレス」-前編-作・藤津亮太「アニメの中に出てくる結婚式ってどんなのがあるの?」Nが突然、意味不明な質問を投げかけてきた。どうやら週末に誰かの結婚式に出たらしい。「はとこの結婚式だったんだけど、新郎の友達がそういう人たちだったみたいで、途中でけっこう“アニメの中の結婚式”で盛り上がってたのよ。それでどんなものがあるのかなぁって」それぐらいググれよ。と、思わないでもなかったが、そういうことを言うとかえってややこしいことになりそうだったので、僕は素直にあれこれ考え始めた。「まあ、でもアニメの中で普通の結婚式シーンってあるようでない感じが……」Nは不思議そうな顔をした。「たいがいの結婚式は、花嫁が逃げ出したり、奪われたりしてるようなイメージがあるんだよね」「あ、『ルパン三世カリオストロの城』!」「そうそう。あれはまさに結婚式の最中に花嫁が奪われる映画だった。それでいうと『うる星やつら オンリー・ユー』も似たパターンで、ただこちらは無理矢理新郎にさせられたあたるがヒロイン・ラムに奪われる展開だけど。あと、ラストではウエディングドレス姿のラムのところから、またあたるが逃げ出すしね」「……なにそれ?」「つまり、あたるというヤツは、そういう男ってことだよ」「やっぱりドラマを作るとなると、普通の結婚式より、望まぬ結婚のほうが盛り上がるってことかしら」「それはあるねぇ。たぶんルーツは映画だろうけどね。『或る世の出来事』とか『卒業』とかにそんなシーンがあったから、そういうことの積み重ねで生まれた定番なんだろうね。最近だと『モーレツ宇宙海賊』で先輩が無理矢理結婚させられそうになるのを止める話があったしね」「普通の結婚式が普通に行われるってのは、平凡だけれど幸せの証しってことかしらね。」「そういうことだと思うよ。『天元突破グレンラガン』なんて、最終回で最後主人公シモンの目の前で花嫁ニアが消えてしまうからね。」「ええー、なんで? ひどい!」「まあ話せば長いことながら、要は寿命が尽きたってことなんだけどね。むしろ、最後に花嫁姿にしてみせたことが作り手のキャラクターへのサービスに思えるラストだったね」『グレンラガン』のエピソードはN的にはちょっと不満な話題だったようだ。どーして花嫁殺すのよ、どうせなら花婿殺せばいいのにとか、ぶつぶつとつぶやいてる。そして半ばあきれたようにつけ加えた。「ほんとに普通の結婚式ってないのねー」そこで意地になって僕はアレコレ考え始めた。「普通といえるかどうかわからないけれど、『新世紀のエヴァンゲリオン』の第拾伍話「嘘と沈黙」に出てくる結婚式は定石通りだよ。『三つの袋』が出てくる挨拶があり、『テントウ虫のサンバ』を歌ったり……」『三つの袋』あたりで「?」という表情を浮かべていたNだったが、さらに『テントウ虫のサンバ』で「何を言ってるの?」という顔になってきた。どうやら話題になってる結婚式があまりに昭和テイスト過ぎてピントこないようだ。顔に「それが普通?」って書いてある。なんだよ……と思いかけたが、自分自身リアルタイムでそんな結婚式見たことはない、と気づいたので黙っておいた。「あとは……状況はかなり変則的だけど『超時空要塞マクロス』で、味方のエースパイロット・マックスと敵のエースパイロット・ミリアが突然結婚しちゃう回があるのよ」「……状況は全然普通じゃないじゃない」「まあね。結婚式シーンも短いし、作画もアレだしね。でもこの二人、そのまま結婚して子供も何人も生まれて、続編『マクロス7』ではヒロインの親として再登場するの。しかも、そのころにはだいぶ仲が冷えてたりして」「あはは。それは夢も希望もない(笑)」「そういう長い人生の盛り上がったひとこま、という意味ではすごく普通の結婚式だったと思うんだよね」Nは『マクロス7』の話に受けたあと、ちょっと納得したような顔をした。「なんか普通の結婚式の話を聞いていてわかったわ」「何が?」「私がなんで好きなのか」(続く)
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