7月11日、マンガ家・赤松健さんが代表を務める株式会社Jコミは、電子書籍サービス「Jコミ」のサービスを大幅リニューアルし、新たに「絶版マンガ図書館」として運営することを発表した。Jコミは2010年より絶版になり市場で流通しなくなったマンガ作品をデジタル化し、配信をしてきた。「絶版マンガ図書館」では、作品ライブラリーの機能や配信の仕組みを大幅に拡張する。 新たな仕組みで目を惹くのは、これまでマンガの作者からの申し出で行っていた絶版マンガの掲載、配信を「絶版マンガ図書館」から働きかけることである。このためにユーザーからの情報提供を活用する。さらにマンガ作品のデータベースを構築、配信サービスに結びつける。ユーザー情報の活用について赤松さんは、「電子書籍版YouTube」と説明する。この仕組みではまずユーザーのアクションを前提にしていることからの発想である。システムの流れは次のようになる。まず、ユーザーは絶版と思われる作品の資料を絶版マンガ図書館にアップする。絶版マンガ図書館はそれが絶版であるかないかを判断し、絶版と認められれば作品の一部を透かし入りで公開、作品の作者から連絡を待つ。作者から広告つきの配信がOKとなれば無料公開し、拒否であれば作品情報だけがマンガ版wikipediaに収められる。広告収益はJコミと同様、全額作品の作者の収入となる。このシステムの特徴は、マンガ家の労力が絶版マンガ図書館への連絡や海賊版対策のGoogleのDMCA侵害申し立ての依頼など最小限に抑えられていることだ。また、絶版マンガを探索する労力の一部がユーザーに委ねられていることで、絶版マンガ図書館の労力も抑えられる。もうひとつ別の仕組みもある。全ての作品に対するマンガ版wikipediaの構築である。文字どおりマンガの掲載時期、掲載誌、あらすじ、キャラクター解説などから構成される辞典の役割を持つ。一見、ふたつの異なったプロジェクトに見えるが、全てのマンガの保存というコンセプトでつながっている。今回、絶版マンガ図書館へのリニューアルは、単純な名称やサービスの改善と大きく異なっている。最も大きな変化は、目指すコンセプトの拡大である。「全てのマンガの保存」が、そのキーワードになっている。Jコミは絶版マンガ専門の電子書籍でスタートした。2010年のサービス開始当初は、絶版のあるなし、マンガそれ以外の出版に関わらず国内の電子書籍サービスは不十分だった。Jコミはそうした状況に一石を投じる役割を持っていた。しかし、過去数年で電子書籍、とりわけマンガ分野の電子書籍サービスは大きく発達した。作品のラインナップは拡大し、デジタルならではの試みも増えた。新人育成を目指した試みも行われている。電子書籍に一石を投じるとの点ではJコミの役割はひと区切りついた。そこでJコミは新たな地平を目指しているのでないか。それがマンガ文化の保存である。絶版マンガ図書館が「日本のマンガ文化の100%保存」、「絶版マンガの海賊版、完全撃滅」というふたつのテーマを掲げることからもそれが分かる。ただし、こうしたテーマは突然、現れたものでない。もともとJコミのデジタル配信が、絶版マンガに限っていたのは、マンガ文化の保存、発展への貢献という考えが含まれていた。商業的に成り立たなくなった絶版マンガを再生し、作者も読者も潤うというわけだ。Jコミでは電子書籍の仕組みづくりが強く表れていた。それが一定の結果をだしたことで、もう一つの側面がより強く出た新たな挑戦が、絶版マンガ図書館でないだろうか。[数土直志]絶版マンガ図書館/http://www.zeppan.com/
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