藤津亮太の恋するアニメ 第13回菜穂子の「潔さ」ってどうなのよ(前編)『風立ちぬ』作・藤津亮太Nが向こうからものすごい勢いで駆けてきた。「『風立ちぬ』、おもしろかった。おもしろかったけどさ!」なにやらとても文句がある風情だが、僕はまずなにも応えずに頷いた。こういう時は先に動いたほうが負け(?)というのが、Nとの会話で学んだことだ。まあ、先に動こうが後に動こうが、文句があるNに勝てた試しはないのだが。「おもしろかったんだけど、何? あの菜穂子? なんか人生を見通したような態度。なんかこう、優等生っぽすぎて、いろいろ見切ったような態度。あれだけがすごく気・に・な・っ・て」僕は内心、へぇ~と思った。「そこなんだ。世間ではわりと、二郎にとって都合がいいヒロインじゃないかって、もにょってる人は多いけど、そこは気にはならない?」「うーん、ちょっとは気にならなくもないけど、彼氏とかとの距離感っていうか、なにをやってあげるか? みたいなものは人それぞれだから、まあ、いいかなって。それよりも、すっきりしないのは、菜穂子っていいかっこしすぎなことよ!」『風立ちぬ』は、零戦の設計主任だった堀越二郎をモデルにしつつ、そこに堀辰雄の小説『風立ちぬ』『菜穂子』を付き混ぜた内容の映画だ。宮崎駿監督の最新作で、先日、この映画を最後に長編アニメーションの監督から引退することも発表されて話題にもなった。さて、それから10分ほどNがまくし立てたところによると、だいたい菜穂子の次のようなところが気に入らないらしい。1)13歳なのに、二郎との別れ際にフランス語でヴァレリーを引用する、無駄インテリ臭はどうなのよ。2)軽井沢で二郎と再会したことを泉にお礼している、あの芝居がかった雰囲気はなぜ?3)死の病への恐怖、戸惑いを(画面上には見せない)あの気丈さって、なんなのさ?4)今、思い出したけど、二郎のお母さんと菜穂子の髪の色が同じってどゆこと?
庵野秀明監督はなぜ「シン・エヴァ」で“絵コンテ”をきらなかったのか?【藤津亮太のアニメの門V 第69回】 2021.4.2 Fri 18:15 アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第69回目は、庵…