「謎のマンガ家・酒井七馬伝」 増補改訂版 戦後マンガ、アニメ史の新たな視点
マンガ研究家の中野晴行による『「新寶島」の光と影―謎のマンガ家・酒井七馬伝』は、稀に見るマンガ研究書だ。2011年11月10日に発刊された増
コラム・レビュー
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著者が酒井七馬に近かった人たちに直に会い、多くの証言を積み重ねることで、新たな事実を掘り起こすというスタイルは優れたマンガ研究となっている。同時に優れたノンフイクションとして成立しているからだ。初版の発表時に、日本漫画家協会賞特別賞を受賞したのも納得のいくところだ。
そうした酒井七馬研究の対する思い入れの強さは、4年という短期間で増補改訂版に踏み切ったことにも表れている。中野によれば、今回の増改訂版は、新たな資料の発見と発表当時は多くの人が読むことが出来なかったオリジナルの『新寶島』の復刻版が発売されたためだという。
『酒井七馬伝』は、手塚治虫の単行本デビュー作として知られる『新寶島』、そしてその創作過程に深く関わった酒井七馬について記している。本書によれば、これまで多くの人に知られてきた『新寶島』は、オリジナルをもとに後年、手塚治虫があらためて描いたバージョンである。それ以前に、酒井七馬との共同作業によるバージョンがあり、その作品はファンは勿論、研究者からもあまり顧みられなかった。
中野は最初のバージョンの創作には、これまで思われてきた以上に酒井七馬の関わりが大きく、それが見過ごされてきたことを指摘する。そこから歴史の中に埋もれていった酒井七馬に対する誤認が多く存在することを明らかにする。さらに酒井七馬の活動について紹介して行く。
話はマンガだけでなく、アニメーションについて言及することも多い。酒井七馬、手塚治虫を越え、戦後からテレビアニメが登場する時期までの時代、マンガやアニメに関する歴史についても発見が多い。
だから本書を読む時に注意したいのは、本書を手塚治虫の研究本のひとつとして受け取ってしまわないことだ。勿論、『酒井七馬伝』には、手塚治虫の初期の活動に新たな視点を与えるという大きな役割も果たしている。
しかし、作者の中野晴行が本当に描きたかったのは、まさにタイトルどおり酒井七馬という人物なのである。手塚治虫をきっかけに、なぜか日本のマンガの歴史の中に埋もれていった酒井七馬にもう一度光を当てたいという著者の大きな情熱がそこにある。
手塚治虫ほど、後のマンガ史に影響を与えたわけではないかもしれない。しかし、マンガから紙芝居、アニメーション、酒井七馬のキャリアの多彩さを知ることで、戦後の日本のマンガ、アニメーションの混沌とした状況も知ることが出来る。そして、その混沌の中で酒井七馬は、確かに輝いていたのだ。