劇場アニメが好調な理由として、劇場興行のイベント化が指摘されている。舞台挨拶やトークショーは勿論、自分の好きな作品を同じ気持ちの人たちと空間を共有しながら支える、そんな気持ちが劇場に足を運ぶファンの心に中にあるようだ。
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イベントでは『東のエデン総集編 Air Communication』から始まり『東のエデン劇場版I The King of Eden』、『東のエデン劇場版II Paradise Lost』と3つの長編を一挙に上映する。また、『東のエデン』の神山健治監督、石井朋彦プロデューサーによるトークショー、プレゼントも豪華な抽選会と盛り沢山な企画が魅力である。
しかし、今回のオールナイト一番の見どころは、タイトルにもあるARを利用した試みだ。AR(拡張現実)を使った様々なプロデュースを行うAR三兄弟の協力のもと、観客は映画を見ながらその感想をスクリーンに書き込めるというシステムが導入されている。
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さらに神山監督もその場におり、参加する。スクリーンに現れたファンの何気ないつぶやき、ファンの質問を客席にいる神山監督が答える。例えば“このシーンは『ロミオとジュリエット』ですよね”という書き込みには、「モデルにしました」という監督の発言がでたり、思いがけない制作秘話も次々に引き出される。
「完成した映画作品がスクリーンに現れる」→「観客がそれに感想を述べる」→「作品の監督がそれを受け取る」→「監督がさらにそこから自分のアイディアを語る」といった、制作者とファンとのコミュニケーションが、極めて短時間に成立する。これまでにない関係がそこには生まれている。
いまアニメ業界は、途方に暮れている。映像パッケージが以前ほど売れなくなり、特にハイティーンより高い年齢層に向けた作品、コアなファンに向けた作品のビジネスが成立しにくくなっている。こうした作品のほとんどは、映像パッケージの売上げで製作費を回収してきたからだ。
あらたな手段として、アニメ映像のリリースはプロモーションとして、音楽業界のようにライブイベントで利益を回収すべきという意見もある。集客力のある声優イベントやアニソンイベント、ファンイベントに、可能性があるという。しかし、本来はクリエイティブの主体である映像作品が、むしろ従になる現象は、アニメそのものを愛する立場からは、何かしら釈然としない気分が残る。
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勿論、これだけ手の込んだイベントが、いつでもそう易々と出来るわけではない。そして、どこまで一般化出来るのか?採算性は?といった難しい問題もあるに違いない。それでもなお、「東のエデンARオールナイト」は、現在のアニメビジネスの在り方に一石を投じているのでは?そんなことを考えさせる。
[数土直志]
『東のエデン』 公式サイト /http://juiz.jp/