文: 柿崎俊道同名カードゲームとともに子どもたちに人気の『遊☆戯☆王』が映画『劇場版 遊☆戯☆王 ~超融合!時空を越えた絆~』として、2010年1月23日(土)より全国で劇場公開される。本作の注目すべき点は「3D立体映像」だということ。「3D立体映像」はジェームズ・キャメロン監督作品『アバター』を通してご存知の方も多いだろう。立体メガネでスクリーンを覗くと、まるで映像が目の前に迫ってくるように立体感を持つというアレである。3DCGの技術が実写映像と見分けがつかぬくらい向上した今、「3D立体映像」へと向かうのは自然の流れといえる。そうした流行の中、『劇場版 遊☆戯☆王 ~超融合!時空を越えた絆~』が「3D立体映像」として登場するのは当然ともいえるかもしれない。……と思ったのだが、作品を見終わり、本作における「3D立体映像」の立ち位置に悩んだ。劇中では「デュエルモンスター」と呼ばれる、カードから飛び出す怪獣がいる。主人公たちはこの怪獣を操り、強力な敵を打ち倒す。こうした怪獣のほとんどは3Dデータで描かれているため、「3D立体映像」として見るのに違和感はない。問題は主人公たちである。アニメ業界でセル画調と呼ばれる従来の方法で描かれたキャラクターが画面の奥、手前、中間といったポジションで配置され、映し出される。その立体感は立体メガネを通してくっきりと体感できる。しかし、なんだか居心地が悪い。その悪さをまとめると以下のようになる。●セル画調のキャラクターには、動画、仕上げにより、すでに陰影や線といった立体感が施されている●手描きで施された立体感の上に、3D立体映像による立体感が加わっている●そのおかげで双方の立体感がぶつかり合い、セルのレイヤー構造がくっきりと見えてしまう押井守監督の映画『アヴァロン』のような書き割り感といえば、ご理解いただけるだろうか。『アヴァロン』は違和感を敢えて演出としていた。本作はセル画調アニメの3D立体映像化という果敢な挑戦に臨んだ。その意欲は、次のことを気付かせてくれたように思う。従来のセル画調で作られたアニメの自然な3D立体映像化を目指すなら、レイアウト、原画といった画面設計の段階から、最終的な3D立体映像を計算して描かなければならない。つまり、アニメーターの脳内で3D立体映像というデジタルな計算をしながら、手描きというアナログ作業を行う必要があるということだ。アニメは残像を利用したメディアである。複数の絵を高速でめくることで動いているようにみえる、という錯覚を利用している。手描きなのに、3D立体映像と自然にマッチしているように見せるには、今まで培ってきた残像の技術を一段掘り下げる必要があるのでは、と『遊☆戯☆王』は気付かせてくれたのだ。本作はスタッフクレジットを見ると「立体3Dデザイナー」をはじめとした3D立体映像に向けた新しい役職が複数設けられている。実験的な要素が多く詰まった野心作といえるだろう。また、上映時間は49分という短いものなので、気軽に3D立体映像を体験できる。今後のセル画調アニメの行く末を占う意味でも、映画『劇場版 遊☆戯☆王 ~超融合!時空を越えた絆~』を見て損はない。映画『劇場版 遊☆戯☆王 ~超融合!時空を越えた絆~』/http://www.yugioh10th.com/◆柿崎俊道 (かきざきしゅんどう)1976年生まれ。著書に『聖地巡礼 アニメ・マンガ12ヵ所巡り』、『Works of ゲド戦記』、『Kirari 痛車コレクション』など。Twitterは「syundow」、mixiは「柿崎俊道」で登録。