「文化に投資をする時代」 エンタメ投資の先駆者が語る | アニメ!アニメ!

「文化に投資をする時代」 エンタメ投資の先駆者が語る

 西暦2000年を少し超えた頃、アニメで言えば日本アニメが海外展開の出来る産業として大きな注目をされた始めた頃、映画やアニメ、ゲームといったエンタテインメントのビジネスに大きな変化が起きていた。エンタテインメントはひとつの産業で、合理的なビジネス手法を取

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 西暦2000年を少し超えた頃、アニメで言えば日本アニメが海外展開の出来る産業として大きな注目をされた始めた頃、映画やアニメ、ゲームといったエンタテインメントのビジネスに大きな変化が起きていた。エンタテインメントはひとつの産業で、合理的なビジネス手法を取り入れることでより大きな成長が出来ると主張された時期である。
 そのひとつが、コンテンツファイナンスである。著作権を担保にした融資、コンテンツファンド、特別目的会社を利用した資金調達、様々なアイディアがコンテンツを製作する企業や資金の出し手に提案された。

 しかし、2009年のいま、エンタテインメントとファイナンスの関係は、当時考えられたほど太いものになっていない。当時の熱気と期待と裏腹の結果も見えてくる。
 一般公募をしたもののマイナスの成績しかだせなかったコンテンツファンドや、巨額の予算を組んだものの十分な投資案件を見つられなかった投資ファンドなどである。なぜ、コンテンツファイナンスは、当初思ったほどうまくいかなかったのか?この答えはどこにあるのだろうか。

 そうしたなか今年2月に、亀田卓氏と寺嶋博礼氏による「文化に投資をする時代」(朝日出版刊)が上梓された。本のタイトルから分かるように、映画やアニメ、ライブイベントといったエンタテイメント・コンテンツへの融資や投資について語った本である。
 亀田、寺嶋両氏は、2000年初頭のコンテンツファイナンスブーム以前より、それぞれ異なった立場からこの分野のパイオニアとして活躍した人物である。亀田氏は大手広告代理店で長年エンタテイメント向けのファイナンスを手掛けてきた。また寺嶋氏は銀行マンとして、現在は映画配給会社アスミック・エースの執行役員としてコンテンツビジネスに関る。
 エンタテインメントから出発し金融に至った亀田氏と、銀行から出発してエンタテイメントの投資に至った寺嶋氏と対照的な二人でもある。出発点は異なるが二人に共通するのは、当初、難しいとされていたコンテンツファイナンスを実現しただけでなく、そこから収益を上げることに成功したことだ。
 
 「文化に投資をする時代」は、この対照的な経歴を持つ二人の共著ということ自体が大きなテーマとなっている。つまり、金融とエンタテインメント、この異なる分野を融合させた二人の歴史である。わずか10年前までは、その言葉さえ知られなったコンテンツファイナンスの誕生を描きだしたドラマでもある。
 本のなかでは、二人の著者が自分の専門とは違う分野をいかに研究し、数字で語られる金融と感性で語られるエンタテインメントの接点にあるコンテンツファイナンスにいかに惹かれていったかが語られる。
 そうした過程のなかでコンテンツファイナンスの成功には、両者を隔てる溝を理解し、それを埋める作業が不可欠であることが浮かびあがる。
 本書は極めてシンプルな文章となっており、数式は一切出て来ない。ビジネス書として誰でも手軽に読めるのは、また二人の巧みなマーケティングかもしれない。

 現在の日本のコンテンツファイナンスに未だ残る問題は、このふたつの異なる分野への理解でないだろうか。映画も、アニメも、ゲームも、ビジネスであり、売買の対象となる商品のひとつである。だから他の産業や商品と同じ経済原理で動くはずである。株や不動産、債券と同様の投資が出来る。理論的にはそうである。
 しかし、エンタテイメント・コンテンツには、それらとは異なる文化という側面があるのもまた事実だ。エンタテイメント・コンテンツへの投資には、そうした文化的な側面(それは往々に大きなリスクに変わる)への理解が必要なのだ。亀田氏と寺嶋氏は異なるアプローチから、これを理解した数少ない人材なのだ。

 例えば亀田氏の言う、コンテンツファンドは投資自体がエンタテインメントという言葉にも耳を傾けるべきでないだろうか。同じ様なリターンが見込まれる別の金融商品がある時に、人はなぜ敢えてエンタテインメントへの投資を選ぶのか?そこに、必然性があるはずだ。
 勿論、エンタテインメントであることで、収益がおろそかになっていいわけではない。しかし、エンタテインメントに投資することには、株や債券、不動産に投資するのとは異なる何かがある。

 結局、現在のコンテンツファイナンスの状況は、人材面では2000年の初めからあまり大きな変化がない。
 金融手法は発達し、エンタテイメントビジネスの産業化も進展している。しかし、依然両者の隔たりは大きい。亀田氏や寺嶋氏のように金融とエンタテイメントのふたつの産業の本質を経験的に知ることの出来た人材があまり多く登場しなかった。

 「文化に投資をする時代」の出版のタイミングは、人によってはなぜいまなのかと疑問を感じるかもしれない。しかし、コンテンツファイナンスの進展が停滞するいまだからこそ、この本は必要とされている。
 コンテンツファイナンスは、今一度新しいスタートに立つ時期に来ている。その時に、先駆者である二人の経験と言葉は重みを持つ。「文化に投資をする時代」は、2009年以降の新たなコンテンツファイナンス時代に向けたマイルストーンとも言えるだろう。
[数土直志]

『文化に投資する時代』 亀田卓 (著)、寺嶋博礼 (著)
朝日出版社 1365円(税込)


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