■もう一歩先を行くコスプレ撮影をするために物語性を追求しよう
「1枚の写真が何を語っているのか?」という物語性は、芸術的な写真を撮るカメラマンが大事にしていることだと思います。淡さんは一般の方々に喜んでもらえつつも、物語性を感じる写真は両立すると考えており、実際にそのような写真は拡散されて高評価を得ています。
物語性を演出するには、背景を意識して撮ることが大事です。被写体を全体の構図の中で小さく撮るのは、ともすれば魅力を損なうと感じて勇気がいることでしょう。しかし、アニメやマンガのコマ割りと同じで、そこに意図があるならばチャレンジすることで驚くような魅力的な写真を撮ることができるかもしれません。

そのためには、コスプレイヤーとカメラマンが意思疎通することが大切なので、カメラマンは自分がどういった写真を撮りたいかを被写体に伝えるようにしましょう。もちろん、相手が好む好まざるがあるので、押しつけはいけませんが。

■コスプレとポートレートの明確な違いは光の使い方
コスプレ写真がポートレート写真と明確に違う点もあります。それは、ストロボによる光の使い方です。
「ポートレートは日常、コスプレは非現実感を現す傾向が強いです。コスプレは2次元キャラクターを再現するのが根底にあると思います。それこそ、鎧を着て剣を持った人物を現実の日常風景で撮るようなことは基本的にはしません」(追风少年淡)。
そこで、非現実感を強調するためにストロボの光の使い方が変わってきます。ポートレート写真ですと、基本的にはストロボを使ったとしても、自然な感じに留めます。例えば、夕日を演出したり、自然光の不足分を補ってあげたりするような使い方です。
コスプレ写真ではそういった自然な光の使い方ではなく、極端だと後ろの光は青、右は赤といった現実にはありえないような光の演出も見られます。


「現実にはないものを表現するのがコスプレなので、そういった光の使い方と非常に相性が良いんですよね。まさにコスプレの醍醐味だと思います。コスプレ写真はつまるところ、創作写真ですから」(追风少年淡)。
また、コスプレ写真には皮膚の質感がないものが多く見られます。本来の人の肌には質感がありますから質感がないと平面みたいな写真に見えがちですが、コスプレはアニメの世界を表現しているので、その観点では“正しい”表現と言えるかもしれません。
■イベントでのコスプレ撮影のコツ
コスプレとポートレートの撮影の違いを踏まえた上で、数分単位でしか取る時間が持てない、機材制限があるイベントでのコスプレ撮影のコツを訊きました。
コスプレ参加型の大規模イベントは増えていますが、レフ板やスタンド、大型ストロボといった撮影機材の使用制限に加え、参加者が多いのでコスプレイヤーが決まった場所から動くことが難しいといった環境です。

そうすると、ここまで紹介した撮り方を実行するのは難しいです。しかし、コスプレイヤーと時間をかけられるスタジオ撮影などでしか実践できないわけではありません。日本にしろ、中国にしろ、イベント撮影であっても、「被写体の魅力」と「物語性」を両立させた素敵な写真は生み出されています。
「自分が心がけているのは妥協しないことです。難しいのですが、他の人と同じような写真にならないように工夫をしたいです。日本のコミックマーケットのように人が溢れすぎて被写体と距離を取るのすら難しい環境もありますが、一つでも妥協したり、楽をしたりすると、ズルズル崩れていく気がするんです」(追风少年淡)。
常にどのように撮るかを考えて、アイディアの瞬発力を養うことが大事。そして、それを実践できる技術を手に入れるためには試行錯誤が必要でしょう。最初から上手くいかなくても挫けず、課題を持って取り組むのは、逆に言えばイベント撮影に限らず、スタジオ、ロケ、どこだって同じことなのです。イベント撮影だから撮れないと諦めるのはもったいないです。

また、機材が十分に使えない環境だからこそ、自分の技術向上やスタイルの確立に結びつくかもしれません。例えば、ストロボを使うと現像の段階でセッティングした色合いから大きく変更することが難しいことがあります。
現在はハイスピードシンクロが流行っています。通常は被写体の顔を明るく撮るとしたら背景が白飛びしますが、強いストロボの光にシャッタースピードを早くすることで、人物は明るく、背景を暗く撮ることができます。そうすることで、青空が色飛びしないような写真を撮ることができます。その分、被写体と背景の対比が強くなるので、現像の段階被写体に当てた光を変えるのは難しくなります。

そこで、機材制限に引っ掛からない小型のストロボを、自然光と対立させない程度に使うことで、現像の時に自分の表現したい色合いを出すように心がけるやり方もあります。最後に、淡さんは美意識を培うことが大切だと伝えました。
「技術は青天井ですから、ひとまず合格点を撮れる技術を身に付けたなら、次は美への意識ですね。プロとは限りませんが、ポージングや光の使い方が美しい写真集や絵画などに触れることも大切になります」(追风少年淡)。
何も考えずにシャッターを切るのではなく、知識も含めた準備が良い写真を撮る近道です。
撮影:追风少年淡(Twitter:@himeko_hong、Weibo:@追风少年淡)